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【欠損奴隷を治して高値で売り付けよう!】破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します  作者: みんと
第一章

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第23話 ハイ・フェアブラッド(下)★

 

 エルフにまるわるという首飾りを手に入れた翌週。

 俺のもとに、エルフ王国の使者だというものが尋ねてきた。

 男の名前はバリー。

 どうやらアーデのことをずっと探していたようなのだ。


「奴隷市場でエルフの首飾りに反応を見せた少女がいたという情報を掴みましてね……。そこからたどり着いたのです。ぜひ、アーデ様とお会いしたい」

「なるほどな……。その前に、事情を聞かせてもらえないか……? なんで王族であるはずのアーデが、ずっとエルフの村で暮らしていたのか……」


 男が本当にエルフ王国の使者だというのなら、そのあたりの事情も知っているはずだろう。


「わかりました……。お話します。実は、エルフ王国では数年前……二つの勢力による内戦が起きたのです。純血派と、混血派による内戦で……アーデ様のお父様は純潔派閥でした」

「純潔派ってのは、崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)のことだな」

「その通りです。我々純潔派は崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)を受けつぐことにこだわりを持っていました。しかし混血派は、実力主義や実際の経済や権力構造に基づいた国づくりを理想と掲げました。そして、長い戦いの末に、純潔派は破れ……その多くが処刑されたのです……。二度と血統による王族が復権しないように……」

「アーデはその生き残りってわけか……」

「はい。アーデ様のご両親は処刑されました。しかし当時生まれたばかりだったアーデ様を、信頼のおける兵士長が預かり、森の奥の小さな村へ逃げのびたのです……」


 なるほどな……。

 それがベーゼの父親ってわけか。

 だとしたら、アーデの村が襲われたのも、純潔派の生き残りを狩るのが目的だったのかもしれんな……。

 なんにせよ、気分のいい話ではない。

 アーデが生き残れたのも、奇跡に近い話だ。


「私自身は崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)でもなんでもないのですが……。私は純潔派の生き残りとして、ずっとどこかで生きているはずのアーデ様を探していたのです……! 王国は現在、混血派に支配されています。ですが、アーデ様さえ戻ってきてくだされば、また生きのこった我々で新たな王朝を設立することができます……! 私はそのために、今日まで仲間を集め、力を蓄えていたのです……!」

「ていうことは……アーデを政治利用するために連れて帰りたいってことか……? それって、アーデは幸せなのか……?」


 もしその作戦が失敗したら、今度こそアーデは処刑されてしまうんじゃないのか……?

 それよりも、身分を隠してひっそり暮らしたほうがいいと思うのは、俺がアーデを失いたくないからだろうか……?

 俺の我儘なのかもしれない……。


 アーデは仮にも、王族の血を引いている。

 そんなアーデが、このまま奴隷として暮らすのはどうなんだ、という思いもある。

 もし本当に可能なら、王女として生きたほうがアーデも幸せだろう。

 

 だが、最終的に決めるのはアーデ自身だ。

 そのときは俺は、アーデを送り出すと決めている。

 

「もちろん、アーデ様にご負担はおかけしません。純潔派が主権をとり戻した暁には、王族として幸せな暮らしをお約束します……!」

「まあ、話はわかったよ。とりあえず、アーデ本人にきいてみる」


 俺はアーデを呼び出して、バリーの話を聞かせた。

 その上で、俺はアーデに問う。


「アーデ、どうだ? エルフ王国に戻って、王女として暮らす気はないか? 王族の血を引くお前が、このまま奴隷として暮らすのはやっぱり、よくないんじゃないかと思うんだ……。アーデはどうしたい?」

 

 すると、アーデは大きく首を横に振った。

 

「いやです……。私はエルド様の奴隷です。それ以外の生き方は知りません」

「アーデ……。でも、それは今の暮らししか知らないからだろ? ここを出たら、気が変わるかもしれないぞ? おまえが望むなら、俺はいつでも奴隷紋を解く準備はできている」

「王族になんか、なりたくありません……私は、エルド様のそばにいたいんです!」


 アーデがそう否定すると、今度はバリーが大きな声を上げた。


「そんな……! それでは、王族の誇りはどうなるんですか……!? 崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)を王国にとり戻すという、我々の悲願はどうなるんです……!? あなたさまほどの高貴なお方が、このまま奴隷として一生を終えるおつもりですか……!? いけません……!」


 しかし、バリーがそう強く主張すればするほど、アーデも大きく拒否を示した。


「王族の誇りなんかしりません……! そんなものよりも、私はエルド様のお役に立ちたいんです……! 私にはエルド様がすべてなんです……! だって、私を地獄から救ってくださったのは、他でもないエルド様なんですから……」

「アーデ様……。では、王国の未来より、その者との未来を選ぶというのですね……?」

「そうです……。私には、それしか考えられません」

「だったら、こうするしかないですね……!」

「…………!?」

 

 すると、バリーはなにやら小脇から刃物を取り出した。

 まずい……!

 逆上したバリーの攻撃が、アーデに迫る。

 俺は咄嗟に、バリーの前に飛び出して、アーデをかばっていた。


「うぐ…………!」


 鋭い刃物が、俺の腹部に突き刺さる。

 まるで噴水のように血が噴き出して、あたりを赤く染める。

 

「エルド様……!?」

「くそ……!」


 そのときだった。

 扉の外で待機していたドミンゴが、騒ぎを察して中に入ってきた。

 ドミンゴはすぐさまバリーのことを後ろから羽交い絞めにして、取り押さえる。

 さすがはドミンゴ……優秀だな……。


「てめぇ……! エルド様になんてことを……!」

「くそぉ……! 邪魔するな……! 崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)が奴隷になるなど、許されぬことなのだ……! だったらここでその血を絶やす他ない……!」

「うるせぇ……! てめぇらの勝手な事情なんか知るか……!」


 ドミンゴはそう言ってバリーを地面に組み伏せた。

 俺もその場によろよろと倒れる。

 くそ……出血がひどい……。


「エルド様……! なんで、わたしなんかをかばって……!」


 倒れた俺に、アーデが駆け寄ってくる。


「前に俺も、お前に助けられたからな……。その借りを返したまでだ……」

「もうしゃべらないでください……! それより、早く治療を……!」

「そうだ……。ヒール……!」


 俺は自分の腹部に向かって、自力でヒールをかける。

 そう、俺が回復魔法をこれまで練習してきたのは、こういうときのためだ。

 自分で怪我をしても、自力で治せるために、ここまで努力してきたのだ。

 俺は絶対に死ぬわけにはいかない。絶対に破滅を回避してやるのだ……!


 俺がヒールを唱えると、腹部にぽわっとした柔らかい光が差して、すぐに傷が癒えていった。

 中からじんわりと暖かい感覚が広がっていく。


「ふぅ…………これで大丈夫だ…………」

「もう、無茶はしないでください……!」

「ああ、心配かけて悪かったな……」

「でも、守ってくれて……うれしかったです……。ありがとうございます……」

「ああ、なにがあっても、俺はアーデを守る。だから安心してくれ」

「エルド様……」


 しかし、このことがエルフ王国側に知られると、また面倒なことになりそうだな……。

 純潔派からすれば、アーデが生きている限り、取り戻そうとしてくるだろう。

 そして混血派からしても、アーデという不安の種を消そうと、刺客を送ってくるかもしれない……。

 

 そう、俺はこれからもアーデを守らなくてはいけない。

 たとえ、エルフ王国そのものを敵に回すことになっても……。



 

 

 牢屋に閉じ込めたバリーに、詳しい話をきく。


「なんであんなことをしたんだ……? おまえら純潔派にとっても、アーデは唯一のハイフェアブラッドの生き残りなんだろう……? なんでアーデを殺そうとした……?」


 これには単純ではない、なにか理由があると思ったのだ。

 バリーは答えた……。


「確かに、俺は純潔派だった……。しかし、俺は混血派に雇われたんだ……。スパイだよ。スパイ」

「どういうことだ……?」

「アーデ様を殺さないと、俺の妹が殺されてしまう……。人質に取られているんだ……。だから、ああするしかなかった……! 最初はアーデ様を連れて帰る途中で、殺す計画だった」

「人質……そうだったのか……」

「俺だって、アーデ様を殺したくなんかなかったさ……! けど、家族が危険にさらされている……。俺も国や純潔派の威信は大事だ。けど、家族には代えられない……。あいつらは卑怯なんだ。混血派は……! 目的のためならなんだってやる……!」

「俺にいい考えがあるぞ? おまえも助かる方法だ」

「ど、どういうことだ……?」


 俺はバリーを解放して、アーデの髪の毛を切って渡した。

 アーデに申し訳ないが、事情を話したら了承してくれた。

 それに、俺の回復魔法を髪の毛にかければ、すぐに伸びる。


 アーデは、「だったら、私の指を切って持って行ってください!」と言い出したが、さすがにそれは止めた。

 別に指じゃなくても、髪の毛でも殺した証拠にはなるだろう。


 俺はバリーに告げる。


「これを持って帰って、アーデを殺したと伝えろ。そうすれば、お前のことは見逃してやる。はやく妹さんを救え」

「あ、ありがとうございます……! 本当に、なんとお礼を言えばいいか……!」


 バリーをこのまま拘束しておけば、いずれまた追手がやってきてしまう。

 しかし、バリーを返して、嘘の報告をさせれば、しばらくはそれでやり過ごすことができるだろう。

 それに、このままバリーを放っておけば、彼の妹も危険にさらされたままになってしまう。

 最悪の場合は、任務失敗とみなされて、殺されてしまうだろう。


「お礼はいいから、それを持って消えろ。そして二度と俺たちの前に現れるな」

「はい……もちろんです。この御恩は忘れません……! ありがとうございます……!」


 これでエルフ王国からの追手もやってこないはずだ……。

 混血派がバリーの報告を素直に信じてくれればいいが……。

 どうなることやら……。






これにてシーズン1は完結となります。

また明日からシーズン2を投稿していきますね!


お読みいただき、ありがとうございました!


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