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【欠損奴隷を治して高値で売り付けよう!】破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します  作者: みんと
第一章

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第22話 ハイ・フェアブラッド(上)★


 その日はずいぶんと平凡で当たり障りない一日だった。

 暇つぶしにぶらついていた奴隷市場で、あの装飾品を見つけるまでは――。


 俺はいつものように、アーデと共に奴隷市場を散策していた。

 奴隷市場には、なにも奴隷だけが売られているわけではない。

 大勢の人がいつも集まるので、ちょっとしたお祭りみたいになっているのである。

 美味しい串焼きの屋台や、焼き菓子の出店も出ている。


 他にも、ちょっとした本や骨とう品を売るオッサンや、古着や中古の宝石を売るおばさんもいる。

 だから、一日中ぶらついているだけで、暇することがないのだ。

 俺はふと、装飾品を売っている店で立ち止まる。

 なぜだか、その首飾りに惹かれたのだ。


 その首飾りは、青色の宝石がはめ込まれており、まるでエルフの眼のように輝いていた。

 といっても、アーデの眼は緑色なんだけどな。ベーゼの青い眼に色がよく似ていた。

 けど、宝石はベーゼの青色よりもさらに澄んだ青色で、まるで深海か宇宙をその中に宿しているような深みがあった。

 俺はそれを手に取って、確かめる。

 すると、店のオッサンが話しかけてきた。


「お、お客さん。目の付けどころがいいねぇ。それはたまたま仕入れることができた一品ものでさぁ。なんでも、エルフにまつわる宝石とかなんだとか。ぜひ試しに着けてみてくだせぇ」

「エルフにまつわるねぇ……。アーデ、ちょっと着けてみないか?」


 やはり、エルフの瞳のようだと思った俺の想像は、あながち間違いではなかったようだ。

 そしてエルフといえば、隣にいるアーデ。


「わ、私がですか……?」

「当然だろう。男の俺がするようなデザインじゃないし……。きっとアーデに似合うと思うぞ?」

「い、いいんですか?」

「ああ、試しに着けてみるだけだ」


 俺はアーデの首に、その首飾りを通してやった。

 すると、アーデが首飾りを身に着けた瞬間――。

 なんと首飾りの宝石が、まばゆい青色に光だしたのだ。

 まるで、アーデに反応するかのように、宝石が光を放つ。

 俺はその光景に、見とれていた。


「な、なんだこれは……」

「わ、わかりません……。どうして私に反応したんでしょうか……?」

「それは……アーデがエルフだからなんじゃないのかな?」

「でも、こんな宝石があるなんて、きいたこともありません……」


 いきなりの出来事に、アーデは困惑していた。

 どうやらアーデ自身にはなにも心当たりがないようだ。

 光を放ちはじめた宝石に、店のオッサンも驚いていた。


「こりゃあ驚いたなぁ……。まさか本当にエルフのお嬢ちゃんに反応するとはねぇ……。なあ、お客さん、そちらのエルフの嬢ちゃんはなにものなんだい?」

「さあな……? ただの俺の専属奴隷だが……」

「もしかしたら、実はエルフの中のやんごとなき身分の方だったりしてな」

「まさか……」


 もしかして……と俺も思ったが、でもアーデは小さなエルフの村の出身だ。

 アーデ自身も、生まれたときからずっと村で暮らしていたと言っていた。

 だから、王族の血を引いているとかなんてこと、あり得ないと思うんだが……。

 帰ったら、一応ベーゼにもきいてみよう。


「なあ、この首飾りはいくらだ?」

「まあ、最初は500Gの値段をつけていたんですがね……。今のを見ると、どうやらこの宝石にはもっと価値がありそうだ。500000Gでどうです?」

「それは高すぎる。最初はそんなつもりなかったんだろう? だったらせめて5000Gだ」

「売った!」

「よし、買った」


 少し高くついたが、アーデに反応したこの首飾り……気になる。このまま放っておくわけにはいかないだろう。

 俺は首飾りを買って帰ることにした。

 それに、アーデによく似合っていることも事実だ。


「アーデ、それは俺からのプレゼントだ。ただ、ここじゃあ目立つから、今は俺が預かっておく」


 アーデが身に着けていると、宝石はずっと光ったままだ。

 さすがに奴隷市場でそんな光る宝石を見せびらかすように着けているのは、危険だ。

 襲って奪ってくれと言っているようなもの。

 ここは奴隷市場……それなりに治安も悪い。

 俺は購入した首飾りをポケットにしまった。


「いいんですか……? 私にこんな高価なもの買っていただいて……」

「構わん。これはアーデに一番似合うだろうからな。それに、あの光……気になるだろう……? 持って帰って調べてみよう」

「ありがとうございます……。そうですね……確かに私も気になります……」


 もしかしたら、アーデのことがもっとわかるかもしれない。





 俺は家に帰って、首飾りをアーデの姉――ベーゼにも見せた。

 試しに、首飾りをベーゼにも着けてもらう。

 しかし、どういうわけか、ベーゼにはなにも反応を示さなかったのだ。


「おかしいですねぇ……」

「つまり、エルフならみんな反応するというわけじゃないのか……」


 じゃあなおさら、なぜアーデにだけ反応したのかわからないな。

 これはもっと調べてみる必要がありそうだ。


 そういえば、うちにはもう一人エルフがいたな。

 ハイエルフ料理専門店「温故知新」を経営する――ハイエルフのマシアスだ。

 といっても、マシアスはアーデたちエルフとは違って、ハイエルフ。

 つまり、似て非なる種族だ。

 まあ、見た目はあまり変わらないんだけどな……。

 ハイエルフのほうが耳が少し長くて、色も白く、寿命が長いという違いがある。

 

 一応、ハイエルフのほうが純粋なエルフの血に近いらしい。

 だからもしかしたら、マシアスにはもっと強く反応するかもしれない。

 俺はマシアスを呼び出した。


「なあ、マシアス。この首飾りをつけてみてくれ」

「なんですかこれは……? 私にプレゼントですか……?」

「いや、これはアーデの首飾りなんだ、すまない」

「いえいえ、まさか奴隷の私にプレゼントをもらえるとは思ってませんので……冗談ですよ」

「お前にも今度なにか別のものをやろう」

「そ、そんなつもりで言ったのでは……!」

「いや、いいんだ。お前も店の経営を頑張ってくれているからな」


 頭をなでると、マシアスはうれしそうにほほ笑んだ。

 一応、マシアスは俺の数倍長生きしているはずなんだがな……。

 どうにもこいつは子供っぽい感じがある。

 マシアスが首飾りをつけると……ベーゼのときと同じく、宝石はなにも反応を示さなかった。


「おかしいな……ハイエルフのほうが血が濃いんじゃなかったのか……?」

「どういうことですか……?」


 マシアスが困惑しているので、俺は事の経緯を説明する。

 

「実は……この首飾りは、市場で見つけたんだが……。エルフにまつわるものらしいんだ。それで、これをアーデがつけたところ……」


 俺は説明しながら、もう一度首飾りをアーデに着けさせる。


「この通り、青く光り輝いたんだ……。けど、ベーゼとマシアスの場合ではなにも起こらない。これはどういうことなのかと思ってな。マシアス、なにか知らないか?」


 長生きでハイエルフのマシアスなら、なにかこのことについて知っているかもしれない。

 俺が光り輝く首飾りを見せ、説明すると、マシアスは驚いた顔で絶句した。


「ま、まさか……いや……まさかな……」

「どうしたんだ……? やっぱり、知っているのか……?」

「いえ、これがそうだとはまだわかりませんが……。ある特定のエルフにしか反応を示さない宝玉があるというのは……伝説できいたことがあります。まさか実在するものだとは……」

「ある特定のエルフ……? それはどういうものなんだ……?」

「はい、伝説では、王家に伝わる宝玉だと……。つまり、アーデちゃんはエルフの王族の血を引いている可能性があります」

「な、なんだって……!?」


 俺はびっくりして、アーデのほうを見る。

 アーデは困惑しながら、なにも心当たりがないという。


「わ、私……そんなの知りません……。だって私、ただの村人だったんですよ……?」

「そうだよな……。でも、もしかしたら、なにかアーデも知らない事情があるのかもしれない」

「そ、そんな……。嘘です……! だって、お姉ちゃんのときは反応しなかったもん……!」

「アーデ…………」


 アーデはいきなり王族の血なんて言われたものだから、ひどく混乱していた。

 そして、青い光がぴかぴかっと点滅すると、アーデはふらっと横に倒れた。


「アーデ……!」


 俺は思わず、アーデを支える。

 もしかしたら、だいぶショックが大きかったのかもしれないな……。

 アーデは疲れているのか、意識が朦朧としているようだった。


「アーデ、お前はもう休んだほうがいい。俺がベッドまで連れていこう……」

「すみません……ご主人様……」

「いや、いいんだ。びっくりしたよな……。今は休め……」


 俺はアーデをお姫様抱っこで、ベッドまで連れていき、寝かせる。

 布団をかけてやると、アーデはすっと眠りについた。


 戻ってきて、俺はベーゼとマシアスと、三人で話を続ける。

 ベーゼはアーデがいなくなると、タイミングを見計らって、こんな話をしてきた。


「エルド様……実は……」

「なんだ……? 深刻な顔をして……」


 アーデがいないタイミングで話をするということは、なにか聞かれたくない話なのだろうなと思った。

 次の瞬間、ベーゼの口から、驚くべき事実が発せられる。


「実は……お察しの通り、アーデと私は血の繋がった姉妹ではないのです……」

「なんだって……!? やっぱり、そうなのか……。どういうことなんだ……?」

「アーデは、私が幼いころ、父がどこかから連れてきた子なのです……。それからは、実の姉妹のように育てられました……。けど、私も父から詳しい話をきいたわけではないので、実はほとんどなにも知らないのです……」

「そうだったのか……それにしては、顔がそっくりだけどな……」

「そうですか……? エルフはみな、このような顔をしています。ヒト族から見ると、みな同じ顔に見えるかもしれませんね」

「そういうことか…………」


 そういえば、マシアスもかなり似ている気がする。

 エルフはみんな親戚程度には似るということなのか。


「じゃあやっぱり、アーデにはエルフの王族の血が流れているのか……?」

「もしかしたら、そうなのかもしれません……」

「だったらなんで村に住んでいたんだろう……」


 そこも、なにか訳ありなのかもしれないな。

 ベーゼの父がなにか事情を知っているだろうが、きっと彼も村が襲われたときに殺されているか、もしくは奴隷にされているか……どこにいるかはさっぱりだ。


「きっと、父は王族に繋がりのある人物だったのだと思います……。それで、アーデを引き取って自分の娘として育てていたのかも……」

「まあ、そういうことなのかもな……」


 でも、そんなやんごとなき血を引いているのなら、どうしてそんなちっぽけな村に住んでいたのか……?

 事情があるにしても、もっと普通のエルフの街で暮らしていても、おかしくないはず……。

 それに、盗賊に襲われて村が壊滅するなんて……つまり、ろくな護衛や警備もされていなかったってことだろう……?

 じゃあ、なにか事情があるにしろ、それはどうせろくでもないことなんだろうな……。

 表ざたにできないような、なにか悪い事情なんだろう。

 アーデが王族側から大切にされていたのなら、盗賊に襲われて村が壊滅するなんてありえないはずだ。

 もしかしたら……村が襲われたのもなにかそれと関係が……? いや、それは考えすぎかもしれないな……。


 俺にはもう一つ疑問があった。

 エルフの王族にしか反応しない宝玉……そんなものがあるとして。

 なぜハイエルフには反応しなかったのだろうか。

 ハイエルフのほうが、エルフよりも血が濃いと言われている……つまり、ハイエルフにも反応してもいいはずだ。

 俺はマシアスに尋ねる。


「なあ、マシアスはハイエルフなんだろう……? おまえらの理屈だと、エルフよりハイエルフのほうが高貴なんじゃないのか……?」


 俺がそう言うと、マシアスは首を横に振った。


「いや、エルフの王族というと……ハイエルフよりもさらに上の存在だ」

「そ、そうなのか……!?」

「ああ、彼らは原初のエルフ――『崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)』と呼ばれているんだ」

「でも、アーデの見た目は普通のエルフだぞ……?」

「それはおそらく、身分がバレないように、何者かが魔法で細工をしているのかもしれないな……」

「そんなことができるのか……」

「彼らの魔法を使えばいくらでも可能だ」


 だとしたら、本当にアーデが崇高なるエルフの血(ハイ・フェアブラッド)である可能性も……。

 まさかアーデが王族の血を引いていたなんてな……。

 びっくりだ。


「これから……どうしようか……」


 アーデは王族の血を引いていながら、あんな村に護衛もなしに暮らしていたんだ。

 きっとなにかそうしなければならなかった事情があるってことだ。

 そしてきっとそれはろくでもない事情だ。

 もしこのことが公にバレれば、アーデがどうなるかわからない。

 俺も、もしアーデ自身が王族として戻りたいというのであれば、引き留めるつもりはない……。だが……。

 もしそれがアーデ自身の幸せにつながらないのだとしたら……。


「今のところは、なるべく隠しておいたほうがいいかもしれませんね……」

「だな……」

「アーデが……心配です……」


 やはり血は繋がっていなくても、ベーゼはアーデのお姉ちゃんなんだな……。


「大丈夫だ。アーデは俺が守る」


 俺は、そう硬く決意した。

 アーデは俺が最初に買った奴隷だ。

 そんなアーデが誰かに害されることがあるなら、それは俺が守る。

 そしてもしアーデが王族として正式に復帰できるのであれば……そのときは……俺は――。

 

 

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