第14話 デュラハンの首★
「は……!??!?! ん……!?!?!? なんじゃあれ……」
奴隷市場を歩いていて、俺は思わず足を止めた。
そこにいたのは、一人の少女――のはずだった。
いや、待て。
首が、ない。
俺は自分の目を疑った。どこを見ても、頭部らしきものは見当たらない。
だが、その少女は普通に鎖につながれながら、手を動かしていた。
生きている……のか?
俺は店主に話しかける。
「こ、こいつは……どうなっているんだ……?」
「へっへっへ、驚いたかい? こいつはな、デュラハンっていう伝説の存在よ」
「デュラハン……!?」
「ああ。だが、こいつはちょいと変わってる。普通のデュラハンは、自分の首を持ってるもんだが……こいつはどこを探しても首がねぇ」
「……どういうことだ?」
名前だけならきいたことがある。
だが、この世界にデュラハンが存在していたなんて。
しかも首を持ってないとは……。
まったく、謎の多い奴隷だな……。
「どういうことだ……? 首がないが、生きているのか?」
「ええまあ、ですがこいつは首がないもんで、眼も見えませんし口もきけません」
「だろうな……」
「そこまでならまあ、普通の欠損奴隷と同じなんですが、このとおり見た目が不気味なんで誰も買わねえんでさぁ。珍しいから売れると思って仕入れたんですがね」
「そうか……そりゃあ、そうだろうな」
俺は、もしかしてと考える。
デュラハンは、はじめからデュラハンだったのだろうか。
「なあ、こいつは初めからこうだったのか?」
「……? それは。どういうことでしょう?」
「この少女は、はじめから首がなかったのかときいているんだ」
生まれたときから首がなかったなんて、そんな生物が存在するだろうか。
だとしたら、そいつの親はどんなだ?
そいつの親も首がないのだろうか?
そんな種族が存在するとしたら、もっと公になっているに違いない。
「さあどうでしょうね。少なくとも、奴隷となったときにはすでにこの感じでしたが……こいつの生まれまでは知りませんねえ。なんせ、口もきけぬもんですから」
「そうか、とりあえずこいつをくれ俺が買おう」
「お! まいどお買い上げありがとうございます! おめがたかいね」
俺はそのデュラハンの少女を買って帰った。
◆
家に帰って、デュラハンをとりあえず椅子に座らせる。
「おい、腹は空いてないか?」
たずねるも、どうやら耳もないからきこえないらしい。
とりあえず、俺は自分の疑問を試してみることにする。
デュラハンが、もしなにかの拍子に普通の人間からデュラハンになったのだとしたら……。
これはいっしゅの、呪いか病気のようなものではないか。
だとしたら当然、治療する方法もあるってことだ。
「えい! ヒール!」
俺はデュラハンの首元に手をかざし、回復魔法を発動した。
すると――。
ぶわっと光が広がり、皮膚が波打つように変化する。
次の瞬間、ズズズッ……と何かが伸びてきた。
まるで生まれたての芽が伸びるように、首の断面から新しい肉が形作られていく。
そして、完全に再生したとき――そこには、涙ぐんだ美しい少女の顔があった。
デュラハンの首は、治療により元通りになったようだ。
「お、おい……その……大丈夫か……?」
俺が尋ねると、少女はあたりをきょろきょろと見まわした。
そして、自分の顔を不思議そうにぺたぺたと触る。
「か、かかかかか顔が……ある……!??!?!?」
そして、うれし涙を流す。
「うわああああああああん!!!! お顔がもとにもどったよおおおおおおおお!!!!」
ひとしきり泣き止んだあと、俺は元デュラハン少女から事情を聞き出す。
「それで、いったいなにがあってあんなことになっていたんだ……?」
「それが……実は、私は……伯爵家の侍女でした。主人の娘の身の回りの世話をしていたんです。でも、ある日突然、盗みの濡れ衣を着せられて……処刑台に送られました」
「そんなバカな……」
「でも……私、何もしていません! 本当に冤罪なんです! でも、誰も信じてくれなくて……」
アリーナの声が震える。
「首をはねられたのに、なぜか死ななかった……私はずっと、生きてるのに死んだ者扱いされて……」
「なるほどな……そんな事情があったのか……」
少女の話によると、彼女は冤罪で首をはねられるめにあったのだという。
だが、彼女は処刑台で首を跳ねられたのにもかかわらず、死ななかった。
死ねなかった。
なんの因果か呪いかはしらないが、彼女に死ぬことを神はゆるさなかったのだ。
それから、彼女は必死に逃げたのだという。
逃げている途中で、奴隷商に捕まり、今に至る。
「ご主人様……ほんとうにありがとうございました。もう一生あのままかと思っていました……!」
「まあ、首が生えてきてほんとうによかったよ。あのままだと、俺も困るところだったしな」
デュラハン奴隷なんか、どう使っていいのかもわからない。
そういう性癖のやつになら、需要があるのかもしれないが、さすがにニッチすぎるだろう。
だがまさか、俺の回復魔法でデュラハンの首までも生やせるとはびっくりだったな。
ということで、デュラハン少女のアリーナは、俺のもとでいったん預かることになった。
そして数日後には売れていった。
「ご主人様、本当にありがとうございました!」
「まあ……お前が幸せなら、それでいい」
俺がそう言うと、アリーナは満面の笑みを浮かべた。
「次のご主人様も……私を普通の人間として扱ってくれそうです! 私は、これからやっと、新しい人生を生きられます!」
「……そうか。それはよかった」
アリーナの旅立ちを見送りながら、俺はふと思う。
「ああ、やっぱり俺のやってることは、悪い商売じゃないのかもな」
アリーナは顔はよかったからな。
あんな美人が首もないまま生きるのは、もったいない気がする。
今度の主人のところでは、うまくやれるといいな。
また冤罪なんかかけられたら、たまったもんじゃない。
定期的に、様子をみてやることにしよう。
とにかく、一件落着でよかった。
それから手紙が何通か届いたが、元気でやっているそうだ。
あれから、首にも異常はなく、困ったこともないという。
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