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プロローグ 前編

誤字脱字があれば、報告していただけるととても喜びます

紅星(ステラ)


 才能のある生物にのみ発現する特殊能力のことであり、発現する際に紅い流星が瞼の裏に映ることが理由としてそう名付けられた。

 

 人類がそれを初めて確認したのは、紀元前2600年頃。古代メソポタミアの王、ギルガメッシュだと言われており、ギルガメッシュはその身に宿った紅星を使い、神の時代を終わらせたのだと伝えられている。


 ギルガメッシュ以降も古代エジプトの王ファラオ、神の子イエス・キリスト、簒奪王ヴォーティガーンや、それを倒し王となったアーサーとそれに従う円卓の騎士、日本で言えば聖徳太子や平安の世を支配した平清盛など、挙げ出せばキリが無い程に紅星を持っているとされる人間が歴史に名を残していることが多い。


 この世界にはペテルギウスと呼ばれるスポーツがある。紅星を持つ人間同士が、決められたルールの範囲内で戦い勝敗を決めるというものだ。

 その始まりは西暦80年のローマにて建設されたコロッセオ。紅星を持つ人間を剣闘士として同族や猛獣、或いは紅星の無い人間等と戦わせて賭け事を行ったことがきっかけとされている。

 そして純然たる殺し合いの興行は、時代が進むに連れてスポーツとしてルールが確立されていき、今では世界で一番人気なスポーツとされており、オリンピック競技の一つにもなっている。


 


 国立平家星高等学校。

 平清盛が造ったとされる、紅星を発現させた子供達を集めて教育する施設が元となっている高校のことで、紅星を持っている人間にのみ入学可能。


 日本で最もペテルギウスに力を入れている高校である。




 2025年4月1日。


「なあ、ひとつ聞いても良いか?」

「なに?」


 平家星高校の入学式の日。

 自宅から高校に行くまでの道中、皺一つない綺麗な制服に身を包まれた2人がゆっくりと歩いている。

 最寄駅の前で合流してから続く静寂に包まれた世界の中で、初めてその静寂を壊したのは、セットのされていない黒髪のショートヘアーを携え、平均点な地味めな顔に眼鏡をかけているどこにでもいそうな地味な男。


 対して、返事をするのは艶やかな黒髪をひとつ結んでポニーテールにした美少女。整った顔立ちの中で目を引くのは、ほんの少し吊り目がちな目と血のように赤い瞳。スカートの下からは黒タイツが覗かせている。

 

彩那(あやな)って俺と同じ平家星高校に入学するんだよな?」

「急に目が腐ったの?私の制服見て分からない?」


 地味な男からの質問に、彩那と呼ばれた美少女は当然だという態度で答える。

 

「いや、分かるよ。分かるけどさ」

「じゃあ何を疑問に思ってるの?」


 地味な男が額に指をつきながら唸ると、彩那は地味な男の前に回り込んで聞く。

 

「いや、だって彩那って紅星持ってないじゃん!!」


 地味な男は叫んだ。

 人の目がある歩道で叫んでしまう程に、この出来事は地味な男からしてみれば到底理解不能なものだった。


 それもその筈、地味な男と彩那は幼馴染であり、最後に会った日には高校は別々になる云々の話をしていたのだから。

 

「ええ、そうね」


 そんな叫びを受け、彩那は何事もなかったかのように平然と答えて歩き出した。

 

「ええ、そうね。じゃなくて、俺が入学する高校は入学するには紅星を持ってないといけなかった気がするが?」


 彩那に早歩きで追いついた地味な男は、スマホで高校のホームページを開いて見せた。

 

「気のせいじゃない?」

「そうか。気のせいかぁ……って、そんな訳あるかよ」

「巴は私が同じ高校にいたら不満?」

「……ぐぅ」

「それに、私からしてみれば紅星なんてあってないようなものよ。特に巴のそれなんてね」

「くっ、否定できないのが悔しい。だが、俺は成し遂げてみせるさ。世界を救うという偉業をな」


 巴と呼ばれた男は、覚悟と決意を現すように右手に力を入れ拳を握りしめる。

 

「そう。それは素晴らしい心意気ね。ところで、もうすぐ入学式始まっちゃうけどどうする?」

「へ?まじ?」

「大まじ」


 巴はスマホを改めて見て時間を確認する。画面に表示されていたのは入学式が始まる5分前の時間。

 

「おいおい入学早々遅刻とか洒落になってねえぞ。彩那、さっさと行くぞ。急げ、どうなってもしらんぞ!!」


 巴は彩那の言っていることが正しいことがわかると、スマホをしまって直ぐに走り出した。

 

「まったく、いつも通り騒がしいね。それじゃ、先行くから」


 それを追う形で彩那も走り出すと瞬く間に巴を抜かしていき、ついには巴の視界から居なくなってしまう。

 

「しまった、俺の方が走るの遅いんだった」



―――――――――――――――――――――――


「すいません!己己己己(いえしき)(ともえ)遅刻しましたぁ!!」


 入学式の会場である体育館の入り口近くを歩いていた教師は、遠くから聞こえてきた大きな声に驚いた。それはその声を上げたのが、地味目な男だったからだ。教師は人は見かけによらないのだと改めて思い、気を取り直してダイナミックエントリーをした巴に声をかける。


己己己己(いえしき)君ね。とりあえずまだ始まったばかりだけど、途中から入るのも進行の妨げになってしまうので裏で話だけでも聞きましょうか」

「ありがとうございます先生。だけどお気遣い結構です。俺は世界を救う男になる男ですから」

「うん。ごめん、ちょっと意味わかんないかも」

「じゃあ行ってきます」


 先生の返事を聞いて巴は、体育館の扉に手をかけた。

 

「行かないで!?私の話聞いてた?」


 巴が体育館の扉にかけた手を、先生は慌てて掴んで扉から離した。

 

「勿論聞いてないですよ」

「なんで!?」

「なんでって、それは世界を救う男になる男だからですかね」

「今から入っても式の邪魔になるって言ってるんです」

「先生。俺は負けませんよ」

「誰に!?」


 先生に向かって歯を見せて笑った巴は再び体育館の扉に手をかけ、勢いよく開いた。


『それでは新入生代……』


 開くと同時に、入学式の司会の進行が動揺によって止まり、生徒や教師、保護者や来賓の人からの視線が一斉に巴に集まる。


「こんなに見られると恥ずかしいな」

「あんなに自信満々だったのに!?」


 顔を火照らせ、さらに体を縮こまらせながら、生徒達の座る席へと歩いて行き、静かに座った。


『え、えー改めまして、新入生代表挨拶。新入生代表、黒野彩那(くろの あやな)さんお願い致します』


 司会によって紹介された新入生代表の名前は、幼馴染と全く一緒だった。


(黒野彩奈?いや、紅星を持ってない人間が新入生代表になれる訳ない。きっと同性同名なんだろうな)


「はい!」

 

 そうして高らかに返事をして席から立ち上がったのは、つい先程巴のことを追い抜いて見えなくなった幼馴染。


(いやお前かい)

 

 巴は思わず突っ込みそうになったところを拳に力を入れてグッと堪える。

 

 そして彩那は静かに、されど力強く歩き出す。

 巴が入ってきた直後であることを忘れたかのように静まり返った式場に、足音がこだまする。

 華麗、鮮やか、優雅。世界中にある賞賛の言葉は全て彼女の為にあるのだと、式場に集まった人間達は錯覚しただろう。それは巴の周りに座る生徒達も例外ではない。


(……こいつらは駄目だな)


 そんな彼ら彼女らの情けない姿を見て、巴は彼らに対して落胆すると共に、光を写さない真っ黒な瞳を向けた。


 彩那による新入生代表挨拶は筒がなく終わり、当たり前のように拍手喝采が起きる。その音色の中、彩那は何の感情も感じさせない無機質な表情を浮かべながら静かに席へ戻っていった。


『校長式辞』


 次に司会の進行で立ち上がったのは、如何にもな年老いた白髪の老人だった。老人は杖をつきながらゆっくりと壇上に上がり、マイクの前で話し始める。

 

『どうも、校長の平清重(たいらのきよしげ)じゃ。あまり長いとお互いのためにならないので、簡潔に話すのじゃが……とりあえず新入生の皆さん、まぁ適当に頑張るのじゃぞ』

(短っ……大丈夫なの?これ。いや、こっちとしては楽なんだけども)


 校長はゆっくり杖をつきながら元の席へと帰っていく。


『生徒会長による歓迎の言葉。生徒会長、春宗武蔵(はるむね むさし)

「はい」


 次に返事をして立ち上がったのは、短い白髪と、白を基調とした着物を身につけ、そして腰に二振りの刀を差しているのが特徴的なイケメンだった。

 

『拙者達在校生は、貴殿ら新入生の入学を快く歓迎するてござる。校長ではないが、拙者は貴殿らに1つだけ言うでござる』


(拙者?ござる?)


 巴は産まれてから時代劇以外で初めて聞いたその一人称と語尾に困惑する。


『それは紅星の使い方についてでござる。紅星というのは容易に人の命を奪ってしまえるものがあるでござる。だから使い方にはくれぐれも気をつけるでござるよ』


 武蔵の言葉に心当たりがあるのか、数人の新入生がピクっと小さく肩を震わせた。


『そして2つ目』


(2つ目?1つだけじゃないのか)


 巴は突如生えてきた2つ目にまたもや困惑した。

 

『精一杯楽しんで欲しいでござる。そして拙者を楽しませて欲しいでござる』


 武蔵はにっこりと微笑んで壇上から下りていく。

 その後も式は何事もなく進行していき、閉会式も司会の最後の言葉を残すのみとなった。


『以上で第68回、国立平家星高等学校入学式を閉会致します』


 入学式が終わり、生徒達は続々と外へ出て行く。例に漏れず巴も人の流れに流される。


「はぁ、こんなことなら落ち着いてから行けば良かったなぁ」

 

 1箇所が決壊したダムのように、生徒達は我先にと出口から出ようとしている。巴は途中で馬鹿馬鹿しくなり、流れに逆らわずにぼーっとし始めると、直ぐに運良く体育館から出ることができた。


「それにしても退場がない入学式なんてあるんだな」


 外に出られた巴は、目の前に広がっている新入生達が体育館から続いている道に詰め放題かというくらい詰まっているのを見て、式が終わってから今に至るまでに思っていたことをとりあえず呟いてみた。

 

(えっと、次に俺が行くのは……寮か。ということはここにいる人達の殆どは今から寮に行くんだろうな)


 そう推測したところで、前方の人集りがざわつき始める。巴が背伸びをしながら何事かと遠目で確認すると、水色髪のサイドテールの女子生徒と黒髪の男子生徒が言い合いをしていた。


(これだけ人数がいるんだからトラブルの1つや2つ起きるよなぁ。早く寮に行って荷物の整理とかしたいなぁ)


 巴は暇潰しとばかりにまったりトラブルを眺めながら列が進むのを待っていると、水色髪のサイドテール女子が黒髪の男子生徒の首を左手で掴み始めた。水色髪のサイドテール女子はそのまま左手を上げ、黒髪の男子生徒を地面から浮かしていく。


「あれはまずいな」


 命の危険を感じた巴は足に力を入れて跳び上がり、体育館の壁を蹴ってちょうど右手を振り上げた水色髪サイドテール女子の背後に着地すると同時に、振り上げていた手を掴んで下ろさせた。


「それ以上は辞めた方が良い」

「あ?誰だテメェ。今いいところなんだよ」


 水色髪のサイドテール女子は黒髪男子生徒の首を絞めていた左手を離し、巴を睨みながら掴まれた手を振り払う。


「まぁ落ち着け。一体何があったんだ?」

「黙ってろや地味メガネ不細工。イキり高校デビューはもう済んだろ。さっさと失せろ」

「……口悪いな。普通に傷つくぞ」

「うっせぇ。そもそもこいつがオレのケツを触ってきたのが悪りぃんだよ。まじで気色悪りぃ。死ねや」

「なるほど、痴漢か。おいあんた。それは本当か?」

「じ、事故だったんだよ。僕は後ろの人に押されて」

「そんな訳ねえだろ。こちとらはっきり揉まれたんだぞ。今すぐ殺してやる」

「ひ、ひぃぃ」

「大体事情はわかった。君、悪いが一旦寝ててくれ」

「な、何をするん……」

 

 巴が黒髪の男子生徒に近づいて首に当身をすると、ガクりと気を失って地面に倒れた。


「こいつは警備員にでも引き渡すとして、問題は君だ」

「あ?んでだよ。オレは被害者だろうが」

「今紅星を使おうとしたな。それも殺すつもりで」

「どうせ死んだ方がマシなクズなんだから別に良いだろうが」

「確かにどうせ死んだ方がマシなクズかもしれないが、それとこれとは話が違う。さっきの生徒会長の話を聞いていなかったのか?」

「聞いてる訳ねぇだろ。ってか地味メガネ不細工の癖に入学式ではしゃぐなよ。恥ずかしいぞ」

「あんまり人前で地味メガネ不細工って言うなよ。すっごい傷つくし、すっごい恥ずかしいんだからな。代わりに、そうだな。俺のことは世界を救う男とでも呼んでくれ」

「はぁ?何言ってんだてめぇ。地味メガネ不細工で厨二病患者とかキモ属性てんこ盛りじゃねえか。さっさとオレの目の前から消え失せて三種のチーズ盛り牛丼でも食べてろよ。それか1人で真っ暗の部屋の中に体育座りして勝手に泣いてろカスが」

「俺は世界を救う男になる男だ。地味メガネ不細工ではあっても厨二病では断じて無い!」

「それが厨二病だって言ってんだよ。妄想なら勝手にてめぇの脳内だけでやってろ。オレはてめぇのおままごとに付き合ってやる程暇じゃないんだよ。なんならてめぇでストレス発散してやっても良いんだぞ?」

「それは名案だな。俺は丁度ストレス発散代わりに君の顔面をぶん殴りたかったんだ」

「ちょっと待った。話は聞かせてもらったでござるよ」


 水色髪サイドテール女子と地味メガネ不細工厨二病な巴のボルテージが最上級に上がった所で、その横から生徒会長の春宗武蔵が話しかけてきた。

 

「てめぇ、い、いつからそこにいた!」あ


 水色髪サイドテール女子は、声がした方へと目を向けて見覚えの無い人間を見つけると、指を差して言った。

 

「何言ってんだ。さっきからずっといたぞ」

「はぁ?さっきっていつだよ」

「俺が痴漢を気絶させたところ辺りだよ」

「そうでござるね。にしても拙者は気配を殺していたのに良く分かったでござるなぁ」

「流石に人が飛んできたら分かる。まぁ分かんなかった人も居るみたいだけど」

「てめぇ後で殺すから覚えとけよ。んで、あんたは一体誰なんだよ」

「え、お前マジか……」


 ほんの少し前に挨拶をしていた生徒会長のことを知らないらしい水色髪サイドテールに、巴は軽蔑の目を向けた。

 

「その気持ち悪い目をオレに向けるな地味メガネ不細工厨二病。おい、てめぇはそんなに有名なのか?」

「拙者は生徒会長の春宗武蔵(はるむね むさし)でござる。先程も挨拶をさせてもらったでござるが、聞いてなかったんでござるね」

「聞く訳ねぇだろ」

「普通は聞く訳ない事無いんでござるがね。まぁそんなことは置いておいて、其方らはお互いに戦いたいと思ってるでござるよな?」

「ああ」

「はい」


 生徒会長に質問された2人は、お互いを睨みつけながら返事をする。

 

「なら、今から拙者がその場所を提供できるでござる。お互いが何にも気を遣わずに気持ちよくストレスを解放することができる。そんな場所でござる」

「良いね〜。分かってんじゃん生徒会長さんはさ」

「ボコボコにしてやる」

「2人ともやる気満々でござるな。それじゃあ拙者についてくるでござる」


 そう言って先導するように生徒会長が校舎の方へ向かって歩き出すと、人混みがモーセのように割れていき、道ができてしまった。2人は何も言わずに静かに生徒会長の後ろを着いていった。




 円形の巨大な建造物がそこにはあった。

 それはかつて古代ローマが放った威光であり栄光。

 全ての怒り、全ての悲しみ、全ての恨みを集結させた憎しみの権化。

 

 そして、ペテルギウスの原点。


「でっか…」


 水色髪サイドテール女子は、巨大な建造物の雄大さに目を見開き、そして呆気に取られたかのように口を半開きにしている。


「コロッセオか」

「これはローマのコロッセオを参考に設計された平家星円形闘技場でござる」

「テレビで見たことはあったが、実際に見るとかなり大きく見えるな」

「感慨深いでござる。拙者も初めてこれを見た時は息を呑んだでござるからな」


 目を閉じながら腕を組んでうんうんと頷いている生徒会長を横目に、巴と水色髪サイドテール女子はコロッセオの中へと入っていく。


「だから貴女は無礼にも程があると言っているんですわ。皇家の次期後継者であるわたくしを差し置いて新入生代表挨拶?ふざけるんじゃないわよ。この一般庶民が」

「ええ、そうね」

「ええ、そうね。じゃなくてですわね!」

「まぁまぁ落ち着くのじゃ。白黒はっきりさせる為に、お主らをここに連れてきたのじゃからな」


 闘技場の中には、桃色のロングヘアーを携えた如何にもお嬢様のような話し方をする女子生徒と、巴の幼馴染でつい先程新入生代表挨拶をした彩那、そしてその2人を連れてきたのだと言う校長がいた。


「彩那じゃねえか」


 巴は桃髪ロングヘアーお嬢様に絡まれていた彩那に近づいて行き、そのまま話しかける。

 

「巴。どうしてここに?」

「それはこっちのセリフだ。それに、いつ新入生代表になったんだよ。ってかどうやってなったんだ」

「どうやってって言われてもね。きっと私が1番強かったんでしょうね」

「ちょっと、このわたくしを無視して会話しないでくださる?」


 割って入ったのは桃髪ロングヘアーお嬢様。

 

「えっと、この人は?」


 巴は彩那に聞く。

 

「知らない」

「知らないの!?」

「なんか入学式終わってから絡まれたの」

「さっき自己紹介しましたよね?鳥頭が過ぎるんじゃないですか?」

「ええ、そうね」

「だからそれやめなさい。わたくしは皇雅(すめらぎ みやび)。由緒正しい皇家の跡取りですわよ」


 雅は扇子を広げて仰ぎつつ、腰に手を当てて自信満々に話した。

 

「皇さんね。俺の名前は己己己己巴(いえしき ともえ)だ。これからよろしく」

「悪いですけれど、わたくしは貴方みたいな一般庶民と仲良くするつもりはないですからね」


 握手をしようと手を差し出した巴は、雅にそう言われたことにより、気まずくなりながら差し出した手を戻した。

 

「で、こいつが……そういえば名前知らないな」


 巴は近くにいる水色髪サイドテール女子を紹介しようとした所で、彩那と同じように何も知らないことに気づく。

 

「オレは雑魚共と馴れ合うつもりは無い」

「なんですの、この口の悪い人は」

「いや皇さんも大概だけどな」

「巴も面倒臭い人に絡まれたみたいだね」

「いや、俺の場合は自分から絡んでいったというか、首を突っ込んだというか……」

「おい生徒会長。こんなどうでもいい話は良いからさっさと戦わせろよ」


 イライラが最高潮に達したのか、水色髪サイドテール女子は何故か微笑んでいた生徒会長に言う。

 

「校長。先に来ていたところ申し訳ないんでござるが、拙者が連れてきた2人にペテルギウスをさせても良いですか?」

「ふむ、お主がそう言うならいいぞ」

「はぁ!?どうしてわたくしよりも平民が優先されるんです?おかしいですわよ。先に居たのもわたくしなのに」


 それに食いつくのは雅だ。

 

「お主らはずっと喧嘩しててペテルギウスどころじゃなかったじゃろうが」

「ですがっ!」

「2度は言わんぞ」

「っ……分かりましたわ」


 断られてもまだ粘ろうとする雅に、校長が威圧する。雅は突然のそれに、思わず息を呑んだ。そして一歩下がっていった。


 ペテルギウス。

 それが国際的スポーツとなる前は、お互いが生身で紅星を使って戦い合う殺し合い染みたものだった。現在ではとある天才科学者が仮想現実の技術を発展させたことにより、肉体を仮想空間に移動させ、その仮想空間の中で安全に戦うことが出来るようになる。そして派手な能力のぶつけ合いなどが人気となり、ペテルギウスは国際的なスポーツへと昇華していった。


 2人はそれぞれの用意された部屋に案内され、入試の時のように仮想現実へと移動する機材へ手を触れた。

 

『やり方は入試の時につけたことがあると思うでござるが、何か分からないことがあったら聞くでござるよ』


 各部屋から巴と水色髪サイドテール女子の姿が同時に消え、2人の姿が円形の闘技場に現れる。その闘技場を囲むように観客席が2階にあり、そこから生徒会長や校長、彩那や雅が闘技場を見下ろしている。


「ようやく地味メガネ不細工厨二病を潰せるな」

「だから地味メガネ不細工厨二病って呼ぶな。俺には己己己己巴って立派な名前があるんだ」

『それじゃあ2人とも準備は良いでござるか?勿論開始の宣誓も知ってるでござるよね』

「大丈夫です」

「問題ねえよ」


 2人は生徒会長の質問に同時に答えた。

 生徒会長は小さく笑いながら頷く。

 

『ペテルギウス開始』

「「紅き流星に捧げろ(ディヴォート・ステラ)」」


 最初に動きを見せたのは巴。

 ポケットから一本のキュウリを取り出し、くるりと回す。


「なんでキュウリなんて持ってきてんだよ」

「お腹が空いたから腹ごしらえをってな」

「馬鹿にしてんのかてめぇ」

「そんなことはない。野菜換装(ゲミューゼヴァッフェ)(シュヴァート)


 キュウリが突如剣へと変貌する。

 巴の紅星は【野菜を武器に(ゲミューゼヴァッフェ)】。手にした野菜を武器に変えることができる能力だ。

 

「あははははははははは。ちょっと待って、きゅうりが剣になったんだけど。キュウリを剣に変えれる能力ってか?あー、面白すぎて腹筋痛いわ。人生で初めて笑いで泣いたわ」


 水色髪サイドテール女子は、対面している男のしょぼい紅星を見てその場でしばらく笑い転げ、両目から薄ら流れる水滴を制服の袖で拭う。


「で、そんな外れ紅星でオレに喧嘩売ってきたとか、マジで馬鹿すぎるだろ。地味メガネ不細工厨二病で馬鹿ってマジで終わってんな」


 そして改めて体勢を整え、目の前にいる地味メガネ不細工厨二病な馬鹿な男に軽蔑の目を向けながら紅星を使おうと右手を前に出す。

 

「俺はそうは思わないな。何故なら俺は、世界を救う男なのだから」


 巴はそう否定し、地面を蹴って走り始めた。

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