魔勇者が滅した数ヶ月後……原っぱの小川に転がる、魔女のシャレコウベ
これは、カキ・クケ子一行が魔王城で魔勇者と戦い。魔勇者が自ら作り出した『勇者玉』で自滅して。
赤いガイコツ化したクケ子こと、カナが自分のアチ世界に帰ってから、アチで仕事探しをしていた時のコチ世界のお話し。
◇◇◇◇◇◇
今は城主不在の魔王城【マオーガ】近くの、のどかな原っぱに金物が触れ合う音を響かせて。
竜が引く馬車に乗った、金物職人の行商馬車がやって来た。
鍋や剣を吊るした馬車を停めた。その昔、へたれの最低勇者『メッキ』の大パーティーメンバーの一人として。
その昔──穏和な良い魔王『ダゾ』の城に攻め込んだ元戦士の鍛冶屋は、懐かしそうに魔王の城を眺め呟く。
「懐かしいな、城の外見はそんなに変わっていないな……ダンジョン食堂にいた勇者や冒険者パーティーの残党を、一人の女性が集めて軍団を作っているらしいという噂は聞くが……今のオレには関係ない」
戦士の鍛冶屋は、馬車の中に向かって言った。
「おっちゃん、魔王城近くの原っぱに到着したぞ」
馬車の後方扉が開き、中からメキシカンヒゲを生やした、アチの世界のラフな格好をした男が降りてきた。
『負けたら働く』と、プリントされた、ティーシャツを着ていて。足にはサンダルを履いている。
金物行商の馬車から降りた、科学召喚請け負い業のおっちゃんは背筋を伸ばしてから、肩から提げていた革のショルダーバックの中から取り出した酒を一口飲む。
元戦士の鍛冶屋が言った。
「本当にこんな、原っぱで馬車を降りてもいいのか? 町まで連れていってもいいんだぞ?」
「いや、この場所に用があるから」
「そうか、ところであんた『桜菓』っ名前の和洋中華折衷の魔女を知っているか? 額にお札を貼った変わったヤツだが」
「いや、知らない……オレが知っているのは、邪魔魔女『レミファ』だけだ」
「そうか、それじゃあ、ご安全にな」
金物の触れ合う音を響かせた馬車が去ると、科学召喚請け負い業のおっちゃんは、方位磁石のような魔具を取り出して呟く。
「この近くか……レミファの頭蓋骨があるのは」
近くを流れる小川の中を覗くと、白いシャレコウベが水の中から眼窩で、こちらを見ていた。
「城から、ずいぶん離れた場所に飛んできたものだ……幸い水で洗われていたから、魔女の頭蓋骨は汚れていない。下顎の骨も付いたままだ」
邪魔魔女の頭蓋骨を小川の中から拾い上げて、平らな石の上に置いた科学召喚師のおっちゃんは。
ショルダーバックの中から取り出した、トンガリ魔女帽子をレミファの頭蓋骨にかぶせて、口に魔法のステッキをくわえさせて言った。
「魔勇者の娘が、東の厄災になって動き出した……赤いガイコツ傭兵の力が必要だ」
科学召喚師のおっちゃんは、小瓶の中に入っていた魔法薬を、レミファのシャレコウベに垂らしながら呟く。
「まさか、西の大魔導師『ナックラ・ビィビィ』流派の末端弟子の一人だったオレが、科学召喚以外の術を使うことになるとはな」
おっちゃんは、取り出した数枚の魔導カードを、レミファの頭蓋骨の中に丸めて押し込んだ。
「頭蓋骨から肉体を再生できる魔導術と、クケ子の世界と繋がって往復できるゲートを自由に開ける力を与えた……レミファは、敵の魔法攻撃を反射する力だけは誰にも負けていないから、その力だけを特化して磨けばいい」
空間に開いた魔法円のゲートに向かって、レミファの頭蓋骨を放り投げながら、おっちゃんが叫ぶ。
「赤いガイコツ傭兵のカキ・クケ子を、アチの世界に迎えに行って連れてこい!」
魔法円の中からレミファの声で。
「指を立てたら、この野郎ぜらぁ!」
そんな、声が聞こえてきた。
~おわり~