表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/48

第7魔・勇者を倒す前に迷路食堂で腹ごしらえ

邪魔魔女レミファは、自分の故郷の方言を少し気にしてカナと会話をしています

 しばらく行くと、壁に木製のドアがあり『迷路食堂』の看板が、壁から突き出た金具に吊り下げられているのが見えた。

 レミファが言った。

「ここで、腹ごしらえをしていきましょうぜ……この先は、魔勇者が増築させた城へ続くトラップ迷路だ……ぜ」

「まだ、食べるの? さっきゼリースライムを食べたばかりなのに」

「小腹が空きました」

 食堂の中に入ると、村娘姿のウェイトレス 一つ目(モノアイ)種族の少女が元気よく接客の声を発した。

「『迷路食堂』にようこそ、空いている席にどうぞ」

 カナたちは、隅の空いていたテーブル席に座る。

 店内は人間の客と、異形の客が特に敵対する様子もなく、ごくごく普通に食事をしていた。

 店の壁には、料理名が書かれた沼ドラゴンの竜皮紙が貼ってあった。

 一つ目のウェイトレスが、カナたちの席に水を運んできてオーダーを聞く。

「二杯目の水はセルフサービスですから……ご注文はお決まりですか?」

 カナたちは『気まぐれシェフの・お任せ肉の大皿盛り合わせ』を注文した。

 料理が出てくるまでの間、店内の客同士の会話が耳に入ってきた。

「本当だって、迷路の中で見たんだよ……薄暗い迷路を歩き回って遊んでいる、十四歳くらいの少女を」

「オレも見た、笑いながら迷路の中を城の方へ走って行った……幽霊か?」


 そんな会話を聞いている間に赤身肉の塊のような全身に目がある、百目族のシェフが大皿に盛られた塩蒸し肉料理を運んできて言った。

「『 気まぐれシェフのお任せ肉の大皿盛り合わせ』お待ち、塩蒸ししたばかりで熱いから気をつけて食べてくれ……謎肉があったら聞いてくれ、説明するから」


 ガナが背中に岩塩の結晶が生えている、トカゲを摘まんで口に運ぶ。

「うむっ、少々しょっぱいが、美味美味」

 百目のシェフが言った。

「お客さん、それは味つけの塩トカゲで普通は食べないものですぜ……あんたたち、もしかして魔勇者を倒しに行くのかい?」

 レミファが骨つきの紫色をした肉に、かぶりつきながら答える。

「そのつもりだけれど……ぜ」

 レミファの言葉に店内が一瞬静寂する。そして、一部のパーティーを組んでいる人間たちの間から哄笑が起こる。

 笑いに混じって、小バカにしたような会話が聞こえてきた。

「また、バカが迷路に迷い込んできやがった」

「まったくだ、お子さま気分のお遊び迷路と勘違いしてやがる……魔勇者さまの魔力で、返り討ちにされて泣きながら逃げ帰るのが関の山だ」


 ガナとレミファとヲワカはニヤニヤしながら。

 腐れ勇者の軍門に下った、人間たちの話しを聞いていた。

 やがて、小腹を満たして椅子から立ち上がったヲワカが言った。

「そろそろ、行くでありんす……カナどの、いや異名『カキ・クケ子』どの」

 カナの異名を聞いた人間と、異形の者の表情が固まる。

「カキ・クケ子だと……悪魔の赤い傭兵」

「マジかよ、ついにこの迷路に呪われた赤い傭兵が来たのかよ」

 カナたちは迷路食堂を出て迷路を進んだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 やがて迷路は、ガラッと雰囲気が変わり石レンガの陰気な迷路へと変わる。入り口の案内プレートには『この先、一般客の侵入禁止』の文字が、さらに進むと壁には。

 生命保険の宣伝プレートや墓石専門店の宣伝プレート、葬儀屋の宣伝プレートなどが目立つ位置に貼りつけられていた。

 一番後方を歩きながら、カナがレミファに訊ねる。


「ねぇ、さっきなんで。あたしの登録名を聞いた途端に、食堂にいた人たち沈黙したの?」

「カナどのは、知らない方がいい……ぜら」

「教えてよ……なんか変なのよね、いつも戦いの途中で意識が途切れて。気がついたら戦いが終わっていて……敵対する人間が怯えている……いったい、あたしの意識が飛んでいる間に何が起こって? おわぁぁ!?」

 いきなり、カナの足元の床に四角い穴が開き、カナの体が暗く深い穴の中に落下していった。

 穴の中から「グギッ」という嫌な音が聞こえた。


 迷路の壁がクルッと回転して、魔勇者の軍門に下った、腐れパーティーの人間たちが壁の裏側から現れた。

 腐れパーティーの数名が歓喜の声で言った。

「やったぞ! 食堂でメシを食っていた仲間から、悪魔の赤い傭兵がそっちに行くから注意しろと連絡を受けたけれど、たいしたコトなかったな」

「この穴に落ちて生きているヤツなんて……んっ、今なにか聞こえなかったか? 穴の方から?」

 男がそう言った時。穴の縁に白い女の指先が現れた。

「あ"あ""あああ……あぁぁぁ」


 地の底から聞こえてくるような不気味な女の声が聞こえ、首が妙な角度に曲り、全身が紫色と緑色を混ぜ合わせたゾンビ色に染まったカナが、落ちた穴を這い上がって現れた。

 片方の眼球が抜け落ちて、ぽっかりと黒い眼窩が開いている。

 

「あ"あ"あ"ああああぁぁぁぁ……あぁ」

 ヨタヨタと迫ってくる顔色が悪いカナを見た男たちが、恐怖の絶叫をして逃げ出す。

「こいつ、神に見放された呪われたゾンビ属性だ!」

「近づくと不幸になるぞ! 逃げろ!」  

 男たちが慌て逃げ出して姿が見えなくなると、カナに近づいたレミファがゾンビ化したカナに、手の平を差し出して。

「お手っ」と、言った。

 首をかしげた状態のカナは、犬のようにしゃがむとレミファの手の平に手を乗せて、お手をした。


 レミファが言った。

「さあ、魔勇者がいる城の広場に向かいますぞ……カナどの、おっと今はクケ子どのでした……ぜら」

「あ"あ"あ"ああ……あ"あ"ぁぁ」

 今度はカナを先頭にして迷路を進む。

 壁から飛び出してきた槍が、カナの頭を貫通する。

 呻くカナ。

「うぅッ!」

 自己再生力で赤い頭蓋骨の穴はすぐにふさがった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ