第5話・旅の仲間は『邪魔魔女レミファ』
随所に休憩を挟みながら道場での半日が経過した──木刀で打ち倒され破壊された『コケシ木人』数体が転がる道場で、木刀を構えハァハァと呼吸を整えているカナの姿があった。
大きく息を吸い込み、落ち着いたカナが木人の次の攻撃に備えて構えた時──ヤゲンの声があった。
「半日が過ぎた、稽古終了だ」
木刀を床に放り投げてカナが言った。
「ただ、木偶人形に木刀で攻撃されただけで、なにも教えてもらっていませんけれど?」
「本当にそう思うか……おまえ、一度も木人の木刀を体に受けていないだろう。全部木刀で受け止めて弾き返して、反撃に転じた」
「そう言われてみれば、なんでだろう?」
カナが放り投げた木刀を拾い上げて、ヤゲンが言った。
「おまえ、科学召喚されてコチの世界のレザリムスに来る前に変なゲームやっていなかったか? 『腐れ転生者とか悪役令嬢を追い詰めて撲殺する』みたいなゲームを?」
「やっていました」
「やっぱりな、あのゲームを作成したのは。おまえの世界から召喚されてレザリムスに来ていた、ゲームプログラマーだ」
「えっ!?」
「以前、レザリムスでも安易な腐れ転生者が大量発生した時期があってな」
「カメムシとかマイマイガが、大量発生するようなモノですか?」
「まぁ、そんなようなものだ……大量発生した転生者に怒ったレザリムスの住民が「出ていけっ!」と、転生者を生きたままそれぞれが、イメージしている地獄に流して追放したコトを記念する『腐れ転生者追放記念日』が誕生した。その時にいたプログラマーが、おまえの世界にもどって、気力でウ●コになる前にゲームを作ったんだろう、ゲームプレイをする中で、剣術が無意識に刷り込まれた」
「じゃあ、あたしが召喚されたのは、偶然や召喚請負業者の気まぐれじゃなかったと」
「あぁ、おまえはレザリムスで必要とされたから科学召喚された……免許皆伝だ、おめでとう。この先も精進を怠るなよ」
コケシ木人たちが、カナに向かって口々に。
「オメデトウ」
「オメデトウ」
と、カナの免許皆伝を称えた。
剣術指南道場から出たカナは、大通りを挟んだ向かい側にある喫茶店のテラス席で、こちらに向かって手を振っている召喚請け負い業の男の姿を見た。
男が座っているテーブルには、魔女っ子のような小柄な少女が椅子に座って、カナの方を見ていた。
ピンク色の魔女っ子帽子。
丈が短い、ヘソ出しのピンク色の上着。
ピンク色のマフラー。
太モモ丸出しの、ピンク色のショートパンツとピンク色のブーツ。
手には玩具のような、魔法のステイックが握られている。
カナが召喚請け負い業者の男の所に、向かおうと左右をよく確認しないで大通りを横断しようとしたその時──暴走してきた女ミノタウロスの群れに弾き飛ばされた。
「あがぁぁぁ!?」
白目を剥いて空中に舞ったカナの体が地面に頭から落下する。
嫌な音が頚椎から聞こえ、カナの首が妙な角度に曲がり、視界が真っ暗になった。
◇◇◇◇◇◇
数分後──ガキッという音が聞こえ、カナの視界が元にもどる。
カナは、いつの間にか喫茶店のテラス席の椅子に、無意識に座っていた。
テーブルを挟んだ向かい側の席には、召喚請け負い業者の男とピンク色の魔女っ子少女が座っていた。
「あれ? あたし、いったいどうなって?」
召喚請け負い業者の男が言った。
「再生に十分間か、最初にしてはまあまあだな。剣術の稽古も終わったから魔勇者退治に出発してくれ」
召喚請け負い業者の男が、ピンク色服の魔女っ子をカナに紹介する。
「ここにいるのは、魔女っ子レミファだ……魔勇者を倒すパーティーのリーダーを探していた。彼女と一緒に仲間を集めて魔勇者を倒してくれ……頼むぞ」
邪魔魔女レミファが言った。
「よろしく、カナどの……ぜ」
ふっと、レミファの肩の辺りを見ると、黒い奇妙な生物がいた。
真っ黒で、尖った耳とワシ鼻、吊り上がった目と耳まで裂けた口、鋭いカギ爪の手と黒いコウモリの羽と先端が矢印状になった尻尾。
景品のヌイグルミくらいの大きさの、その生物はレミファの肩に両腕を乗せてカナの方を見ていた──どう見ても、悪魔そのものだった。
カナはレミファに、肩にいる謎の生物について質問してみた。
「その肩のところにいる、黒い変なの何?」
レミファがサラッと答える。
「悪魔です、あたしは悪魔から力を貸してもらって反射魔法が使えるので……ぜ、あたしは死後、悪魔との契約で魔界で悪魔に生まれ変わって。ある悪魔軍団の一員になるのコトが決まっています……ぜ」
「悪魔と契約って」
「アチの世界の魔女っ子アニメとやらに登場する、マスコット的なキャラだと思ってくだされば……ぜ、害はありません滅多に出てきませんから……ぜ、旅のリーダーとなるカナどのがどんな人物なのか、魔界から見に来ただけですので……ぜ、では、仲間を集めて魔勇者打倒の旅に出発しましょうか……ぜ」
肩にいた悪魔が消えると、レミファは椅子から立ち上がって言った。
「旅の仲間は、あと二人……ヒゲ面で、石頭で大剣や長剣や短剣を装備した大男の魔法戦士──『ヒーラ・ガナ』と 花魁言葉を話す、魔矢使いのエルフ狩人──『ヌル・ヲワカ』 ……カナどのがいたアチの世界とは別のアチの世界にラーメンとかいう食べ物を食べに行っている……ぜら、二人が戻ってきたら。出発だぜ……ら」
こうして、カナの最初の冒険がはじまった。
異世界セミの鳴き声が聞こえてきた。
「カナ、カナ、カナ、カナ」