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第2話・科学的な召喚はデンジャラス

「どうりゃあぁぁ! よっしゃ! ダンジョン最速攻略、アイテム大量ゲット! 装備完了……うわぁ! いきなり、トラップに引っかかって死んだ? リボーン」


 後ろ髪を太い一本三つ編みにした牡蠣(かき) カナが、職場の面倒な人間関係やら、理不尽な労働時間のなんやらが原因でやっと就職できた仕事をぶっ飛ばして辞めて数ヶ月が経過した。


 毎日、自分の部屋でゲームを朝から晩まで続ける生活……『しょーもない理由で異世界に転生した勘違い無双チートの、腐れ悪役令嬢や腐れ勇者の集団を撲殺して退治していく人生ゲーム』をプレイしながら、カナはタメ息を漏らす。


(はぁ……あたし、いつまでこんなコト続けているんだろう)

 なんとか行動を起こさないと、仕事を見つけて働かないといけないのは、カナ本人も頭ではわかっている──わかってはいるのだけれど、心と体に動く気力が出てこない。

(心………折れちゃったな、なんとかしなきゃいけないけれど……気力が出ない、焦れば焦るほど)


 一日が過ぎ、二日が過ぎ……今日は、明日は仕事を探そうと思いつつも、一日が過ぎていく。

(辛いなぁ……それにしても、このゲームの内容、制作者の悪意を感じる)

 カナが『腐れ悪役令嬢&腐れ勇者/撲滅ゲーム』の最後の一人を徹夜で追い続け、ラスボスを釘を打ち付けた木製バットで葬り去りゲームクリアーして……明日こそ仕事を探そうと、立ち上がって一歩踏み出したカナは、何か柔らかいモノを踏みつけた。


「ぎゃあぁ! 踏み潰されるぅ!」

 足下を見ると、メキシカンヒゲを生やして白いティーシャツと、膝上丈までのハーフパンツを穿いてビーチサンダル姿の小人の男をカナは踏みつけていた。

(あたしの部屋に、ちっちゃいオッサン?)

 カナは自分の汚部屋を見回す、ジャンクフードのスナック菓子の空き袋とか空き缶が散乱している乙女の部屋。


(何か食べ物でも漁りに現れたのかな……ちっちゃいオッサン)

 カナは、ちっちゃいオッサンを逃がさないように注意しながら、捕まえて観察する。


 ティーシャツにハーフパンツ姿の、貧相な人相をしたちっちゃいオッサンは、手足をプラプラさせたグッタリした様子でカナに握られていた。

「死んじゃったかな?」

 半分白目を剥いて、弛緩している、ちっちゃいオッサンが着ているシャツには達筆な墨字で『負けたら働く』の文字が。

 カナが、もっとよく観察しようと顔の近くにオッサンを持ってきた。

 その時──死んだフリをしていたオッサンの目がギョロと動き、どこに隠し持っていたのか魔法使いが所持している杖の先で、カナの鼻先を突いた。

「かかったなぁ! おまえに決めた!」

「えっ⁉ なに?」


  ◆◆◆◆◆◆


 カナの体が光りに包ま彩夏は異世界【異界大陸国レザリムス】東方地域のとある村にある、礼拝堂にジャージ姿で召喚された。


 石の床に描かれた、お決まりの光りの召喚魔方円の中央に立ったカナの目に最初に映ったのは、金色に輝く巨大な 座像(ざぞう)のブタの顔だった。

 巨大な座像で手には魚を抱えて頭の左右には、牛のような角が生えていた。


 カナが視線を移すと、膝座りをした村人のような人々がカナに向かって両手を合わせて祈っているのが見えた。

「ありがたや、ありがたや……異世界から、魔勇者を倒してくださる方が召喚された」

 なぜか、言葉が理解できる村人から少し離れた場所の柱に背もたれ座っていた、メキシカンヒゲの男が酒のようなモノが入った酒盃の液体を飲み干し立って言った。


「やっと来たか、アチの世界でオレの分身が見えた者だ……期待通りの働きをしてくれるだろう」

 男の着ているティーシャツには墨字で『負けたら働く』の文字が。

 ちっちゃなオッサンと同じ姿をした、メキシカンヒゲの男がカナに訊ねる。

「言葉はわかるか? 召喚で体の欠けた部分はないか? 一度、分子レベルまで分解して連れてきたからな」


 カナは、キョロキョロしながら男の質問に答える。

「なぜか、言葉わかりますけれど……ここは、異界大陸国レザリムスのどこの町なんですか? えっ、なんであたし……自分がいる場所を理解していて?」


「よしよし、召喚時に植えつけた最低限の知識も生きているな、科学の勝利だ……考えるな、感じるんだ。科学召喚は従来の魔法召喚と異なり、自分がいる異世界の知識を得る面倒くさいステップを省略化できる利点がある、それがレザリムスでは主流になりつつある科学召喚の標準装備だから」

「はぁ?」

 男が言う科学召喚とは、データベース化したレザリムスの知識を分子分解して人間を召喚する際に、同時に植え込むコトができるらしい。


 カナの頭の中に、徐々にレザリムスの知識が浮かんでくる。

 カナのいた世界が、レザリムスでは『アチの世界』と呼ばれ。

 カナが今いる東方地域が特に、アチの世界との文化交流が盛んな地域だと知った。

「この世界って、携帯電話とかパソコンは基本使えないんですね……発電は発電生物の発電力だけで、一般には広まっていない」


「まぁな、アチの世界の人間からしてみたら不便さはあるだろうが。慣れれば案外快適な生活ができるぞ……レザリムスの生活に支障が出ない程度の、基本的な異世界知識は整ったようだな。あとは、おいおい知識を得ていけばいい」


 カナは自分に向かって手を擦り合わせている村人と『負けたら働く』ティーシャツを着ている男について質問してみた。

「で、ここにいる人たち何? あなた誰?」

「そこからか! この姿を見てわからないか」

「わからないから、聞いているんですけれど」


「しょーがないなぁ、まぁそういう知識は直接伝えないとダメか」

 男はハーフパンツのポケットから取り出した、ソーセージを食べながら答える。

「オレは偉大な『召喚請け負い業者』だ、依頼を受けてアチの世界から必要な人材を連れてくる、他の魔法召喚者と異なり最新の科学召喚を行う──おまえは召喚された。そして、ここにいるのは召喚を依頼した村人たちだ」

 村人たちは、カナに向かって。

「ありがたや、ありがたや」と、手を合わせ続けた。

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