そして、3月
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波の音が、聴こえる。
寄せては返す波の音が、すぐ傍で聞こえる。
永い、永い夢を見ていた。
君が泣いている夢。
泣くな、と言いたいのに声がでなかった。
抱き締めたいのに、身体が動かなかった。
必ず帰る。
君の待つ、あの場所へ。
君を再び、抱き締めるために。
無数の海鳥の羽が、風に遊ばれて舞い上がる。
どこかの国の酒樽だろうか。
壊れた木の破片が、浜辺にうち上がっていた。
穏やかな朝の海に、人影はない。
風は冷たいけれど、登り始めた日差しは暖かく、辺りを眩しく照らしていた。
散らばる木片の、その傍らに男の姿があった。
顔を横に向けた状態で、うつ伏せに倒れている。
身体は微かな呼吸に合わせて緩やかに上下していた。
その瞼が、小さく震えた。
彼女は、砂浜を遠くからゆっくりと歩いてくる。
水平線の先を見つめて、目を細めながら。
微かに流れてくる海からの風が、髪を緩く揺らすのを心地よく感じて微笑む姿は、春の柔らかな陽差しをそのまま現したようだ。
その笑顔の裏には深い悲しみが潜んでいたが、それに気づく者はここにはいない。
普段は心の内に秘めている想いも、今は隠す必要がない。
それが素直なありのままの表情だった。
彼女は、恋人を待っていた。
ずっと、ずっと、待っていた。
そして、出逢いの時は、再びやって来る。
【END】
これで完結です。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
作者の童話系の別作品「海の女王」と物語が繋がっています。
よかったら、そちらもあわせてお読みいただけると嬉しいです。