表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

彼女は魔王で

   








「ま、おうって……」


 あのバケモノたちをまとめる王だから、てっきり似たような獣みたいな外見だとばかり思っていた。

 けれど、目の前にいるその魔王はどう見ても人間の女性―――しかも美女にしか見えなかった。


「……てか、()()()()()って何? 勇者のオッドんを呪ってこんな世界に転生させておいてよく言うよ!」


 それよりも、あたしが引っかかったのは()()()()()って言葉だった。

 それって恋人同士とか、好きな人にとか、そういうときに使う言葉じゃん。

 あたしはそれがどうにも気にくわなかった。


「言葉の通りよ。何にも聞かされていないお嬢さん」


 その言い回しが余計にピキっと、あたしの何かに触れてくる。苛立たせる。腹立たせる。


「私と勇者様はかつて、元居た世界で死闘を繰り広げていたの…熱く熱く、溶けてしまうかのような苛烈な戦い…そして、その戦いの中で私は気付いたのよ。こんなにも激しい感情をぶつけてくれたのは勇者様(このひと)が初めてだって……」


 彼女は断言した。

 『この死闘こそ愛の証なのだ』と。愉悦感に浸っているような、恍惚とした顔で。


「勇者様ともっともっともっと激しく熱く苛烈な死闘()をぶつけ合いたい……だけど、どんなにそう願ったとしても、やがて戦いには終わりが来てしまう…」


 その戦いの結末だけはオッドんから聞いていた。魔王とは刺し違えたんだと。そのせいで二人は共に命を落としたんだと。


「だから私は死の間際にね、お(まじな)いをしたのよ。例え死が私たちを分かつとも、何度も何度も生まれ変わって、そうしてずっとずっとずっとずっとずーっと。この人と戦い続けたい、愛死合(あいしあ)えますようにって」

「ずっと…?」


 あたしは急いでオッドんの方を見た。

 振り返った先のオッドんは俯いたままあたしと目を合わそうとはしない。


「そうよ、私たちはもうずっとずっとずっとずっとずーっと愛死合(あいしあ)ってはまた別の世界で生まれ変わってと、転生を何度も何度も繰り返し続けているの…()()()()()()()()。私たちはこんなにも強い強い強い運命で結ばれているのよ。素晴らしいでしょう? 羨ましいでしょう?」


 高らかに笑うその様子は魔王というよりも、まるで魔女といった感じで。

 あたしは思わず言葉を失った。魔王への恐怖というよりもそのイカレっぷりに、だ。

 

「そんなに、転生を…繰り返してたの…?」

「そうよ。勇者様を倒しても私が後を追いかけて死ぬし、私を倒したとしても勇者様は強制的に死ぬ(まじな)いが掛けられている…そのおかけで、この世界で丁度99万9999回目になるわね」


 無言で居続けるオッドんに代わって、魔王は楽しそうに語っていた。まるで自分のことかのように、得意げに。

 一方であたしの中ではドンドンと憤りが募っていった。魔王に対しても。自分に対しても。


「そんな…一方的な感情なんて、運命でも愛でもない…ただの不幸な(のろ)いじゃん!」

「あらぁ、知らないの貴方? 愛することも(のろ)うことも、力の出処は同じなのよ?」


 悔しくて堪らなくて。あたしは更に言い返そうとした。

 が、しかし。


「止めろ咲寿!」


 突然オッドんがあたしを押し倒した。

 あたしはオッドんと共に地面に倒れ込んだ。

 その直後、二人が立っていたはずの場所が、真っ白に光り輝いていた。


「―――()()()()()()()()

 

 閃光、という言葉が相応しい輝きだった。

 その閃光が魔王から放たれ、そして輝きが止んだ後。

 そこには言葉通り何も無くなっていた。背後にあったブランコも、ブロック塀も、その奥の民家までも。山の向こうまで塵芥となって消えていた。


「あ、あ……」


 嘘のような現実の光景に、あたしはまともな悲鳴さえ上げられなかった。

 何もかもが凍り付いて冷たく感じてしまいそうな中で、ずっと抱きしめてくれているオッドんの温もりだけが、頼りだった。


「花濱咲寿…心配するな。絶対にお前の平穏は守るから…」


 だけどその温もりは、優しい言葉を残してあたしから離れようとした。

 やだ、行かないでって叫びたかった。

 けれど、そう言える声すらあたしは恐怖で出なくなっていた。


「―――信念貫きし光の精霊よ、我が剣と化して力を与え給え!」


 あたしをその場に残してオッドんは魔王へと駆けていった。立ち向かっていった。

 そうして剣を振り上げ、魔王が生み出すバケモノと鍔ぜり合っては薙ぎ払っていった。

 何回かバケモノ退治に連れて行って貰っていたっていうのに、そんなものの比じゃないくらいにその戦いは激しさを増していった。

 沢山のバケモノたちはそこらで倒れているあたしや友達たちなんか目もくれずオッドんだけを狙っていて。

 だけど、オッドんはそれで怯む様子もなくて。

 むしろバケモノたちを圧倒する力を見せつけていた。


(ホントに、勇者みたいじゃん……)


 その一騎当千と言えそうな実力は、まさに勇者という字が当てはまる。

 けれど、その凄まじさを見せつけられればられるほどにあたしはオッドんが遠い人物になっていくように感じた。

 越えられない深い深い一線が目の前に出来上がっていくような気がした。


(そりゃそうだよね…何回も転生してたんだし…)


 知らなかった。それも当然だ。彼はそんな話してくれなかった。教えてくれなかった。もし聞いていたら、答えてくれたのかな。

 どんな世界を転生していたのかとか、どんな人たちと出会ってきたのかとか。どんな最期を続けてきたのかとか。

 あたしが呆然とその場に座り込んでしまっている間にも、勇者と魔王の死闘は繰り広げられていった。周囲の家々を、街並みを破壊して。辺りに悲鳴と叫び声を轟かさせて、恐怖と絶望をまき散らして。

 

「これが…オッドんの運命なの……?」


 愉しそうに悦に浸る魔王と相反するかのように、オッドんはとても苦しそうな横顔を見せていて。これが最期だという覚悟の顔を見せていて。

 あたしも思わずオッドんと同じ顔をしていた。


「やっぱ……だめだよ、それじゃあ…!」


 居ても立っても居られなくなって、気付けばあたしは自分を奮い立たせて駆け出していた。

 彼らが見せつけてきた越えられない一線(運命)を飛び越える勢いで、走り出していた。







   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ