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第十九話「ニノス・グレゴリー」

 話している間にも勇者の魔術が列車へと放たれ、衝突音と結界に弾かれる音が鳴り続ける。


 人間や戦士たちが門の付近からこちらへと走ってくる。


 ヴェンデルは全体数を見て少し怪訝そうにした。

 予想していたよりも、数が少ないように思えるのである。


「マルテ、ファンファニフ、レドッグ。人間と戦士の牽制はお前たちに任せた。俺とニノスで一気に勇者を叩く。ニノスもそれでいいな」

「……僕はヴェンデル以外いないようなものと思ってるから」

「あ、おいっ」


 ニノスは前方を向いてヴェンデルたちを見ず、再び飛行して勇者の方へと戻っていった。


 ヴェンデルが飛行魔術で飛躍しすぐに彼を追いかける。

 二人の背を見送り、ファンファニフは渋い顔をした。


「うーっ! なによあれー! いくら神器って言ってもやっぱ私ニノス様好きじゃないわ」

「まあまあ。そもそも戦力にならないと思われてたらこの任務に指名されてないだろうから、ニノス様もちゃんと評価はしてくれてると思うよ」

「ふん。ニノス様の評価なんて要らないわよ。次、依頼の指名きても蹴ってやるんだから」

「戦士たちを討伐してあの二人が戦いやすいようにしたらきっと褒めてもらえますよ」


 レドッグとマルテは不満を噴き出すファンファニフをなだめ、戦士と人間の制圧に取り掛かった。


 ヴェンデルとニノスは勇者の魔術を飛行で避け、二方向に分かれて勇者に魔術を放つ。


 土煙が絶えず舞い、空気を裂く甲高い音や爆発音、衝撃音が一帯を占めていた。

 ヴェンデルは周囲の音に負けないよう、声を張ってニノスの名を呼ぶ。


「お前が無事でなによりだが、なんで急に増援要請なんか」

「別に。ずっと一人でやってるのも飽きてきたから呼んだだけだよ」


 ニノスも普段より大きく声を出してヴェンデルに投げつけた。


 二人とも魔術を放ちながら、戦いの緊張感もなく会話を進める。


「色んな人と仕事してる君には分からないだろうけど、一人で人間討伐するのって結構寂しいんだよ」

「……寂しい、ね。らしくないことを」

「そんなことより僕は疲れてるんだ。早く終わらせたい。君も無駄におしゃべりしてないで手を動かしなよ」

「動かしてるだろーが! 何ならお前の方が避けてばっかで攻撃入ってないって」

「ごめん聞こえない。長年一人で人間と戦ってきて疲労が蓄積してるのか耳が遠くなったみたいだ」


 話している途中で言葉を遮ってきてヴェンデルは額に青筋を浮かべて顔を引きつらせる。

 ニノスは変わらずの無表情でヴェンデルを煽っていた。


「神器が二人もいるんだ。さっさと終わらせて帰るよ。三十分で終わらなかったら、依頼主の特権使って本部にクレーム入れとくから」

「お前なあ。援護要請しといてその態度は、ってうるさっ!」


 文句を言おうとした途端、ニノスが勇者へ爆撃魔術を連発して轟音を鳴らしまくり会話どころではなくなってしまった。


 ヴェンデルは手で片耳をふさぎつつ、絶対わざとだろ、と心の中で呟く。

 ため息をついて会話を諦め、再び戦闘に意識を戻した。



「こんなにあっさり終わるとは……」


 ヴェンデルは呆気にとられて呟いた。


 勇者のクリスタルが砕け散り、紫の小さなカケラの群れが空を舞い消えていく。

 それと共に戦士や他の人間たちも消滅していった。


 ここに到着してから勇者の討伐までにかかった時間は約二十五分。


 普段は人間をより多く討伐してパラスを多量に手に入れるため、数時間かけて勇者を撃破している。

 今回はパラスではなく、あくまで勇者撃破が目的のため早めに終わらせるに越したことはない。

 それに加えて神器が二人もいるので通常より戦闘はしやすい。

 だがしかしそれにしてもあまりに簡単に倒せてしまった。


 普段一人で戦うニノスが今回、援護要請したことに違和感を覚えるくらいに。


(まさかこいつ……本当に寂しかったのか?)


 ヴェンデルは少し戸惑い眉を下げてニノスへ目を向ける。


 彼は勇者を倒しても特にヴェンデルたちに礼を言うこともなく、巨門に破損がないかを確認していた。


「……お前、ツンデレか」

「なに。変な属性つけないでよ。言ったでしょ、一人で戦うのに飽きたからって」

「でもいつものお前なら普通に倒せるくらいの相手じゃなかったか?」

「ふーん。ヴェンデルは僕にずっと一人で戦っとけっていうんだ? 冷たいなー」

「別にそんなこと言ってないだろ。めんどくさい彼女か」


 ニノスが悲しがるような仕草を見せるが、その言葉は棒読みで表情もいつも通り無である。


 ヴェンデルは呆れてため息をつき頭を押さえた。


「まあ、討伐以外に用があったのは事実だよ。僕ら神器は滅多なことがない限り自分の管理する地区を離れられないから、セシルの件も伝達された情報でしか把握できない。だから君と直接会って詳しい話を聞こうと思ってたんだよ」


 マガノ・マテリアには神器が二人いて、現在はマグスが主に都市の管理を担っている。

 そのためヴェンデルは都市の外に出られるが、他の地区は管理する神器が一人しかいない。


 都市を空けることもできないので神器は簡単に外へ出られないのである。


 閉じた環境になるのを避けるため、壊掃電車で巡回する会員を通して定期的に情報交換をしてはいる。


 ただ今回、神器が神から与えられた地区を破壊するなどという事件が起こったことで、ニノスは早めに状況を把握したいと思っているのだろう。


「任務も終わったことだし、せっかくだから中で休憩していきなよ」

「え……あ、ああ」


 誘われてヴェンデルは驚き、遅れて承諾の意を返した。


 ニノスは普段、用事が終われば会話もなく一人で帰って行ってしまう。

 こうして自分から誘ってくることなど滅多とないのである。


 ヴェンデルがマルテたちを呼び、壊掃電車に乗る。

 ニノスも同乗するがそのまま屋根に上がった。


 パセリケパークが動き出し車両が門に近づくとニノスは手を前に出し、足元に白い魔法陣を展開させる。

 巨門がニノスの魔力に反応し、門の中の空間が黒く染まっていった。


 パセリケパークがそこに向かって突き進み、門を潜ると視界が少し暗くなる。

 マルテは車窓へ寄って外の空を見上げた。


「空が暗い……」


 窓の外、建物を見おろす空には日の光も、月や星の光もない。

 白雲もなく、ただ一面、真っ黒な景色が広がっていた。


 至る所にある薄紫の街頭が淡く視界を照らしている。

 これらがなければおそらく何一つ見えないだろう。


 黒に染められた世界は巨大な白い門の異様さを強調させていた。


「パンドラは暗い闇の空間に都市を浮遊させているから、太陽みたいな自然の光源がなく常に夜なんだよ」


 ファンファニフは困惑するマルテに説明してやる。


 常に夜のためパンドラは気温が低く、温度差で車窓が白み始めていた。


「でもずっと夜だと不便じゃないですか……? 農作物とかも育ちにくいでしょうし」

「農作物はここでは育てていないから関係ないよ」


 電車の屋根の戸が開き、ニノスが車内に戻ってきてマルテの疑問に答えた。


 目を合わせず、前方の席に座りながらも言葉を続ける。


「ここはそもそも、ヒトが住めるような環境にしてる訳じゃないから。利便性を追求する必要はない。統治会からもここは壊掃電車の中継地点じゃなくて、ただの倉庫としか思われてないしね。勇者や人間が外から干渉できないこと以外に何もない寂れた土地だから」


 神器に対しても口うるさく干渉してくるマギノス統治会も、パンドラにはあまり関心を示していない。

 もっとも、ニノスにとってはその方が楽にできて都合がいいようだが。


 パセリケパークは駅に着いて停車する。

 パンドラの駅は大きくなく、他のビルと同化するように四角い簡素な造りをしていた。


 車両の扉が開くと、しみ込むような冷気が体を撫ぜる。

 ニノス以外の全員が寒そうに腕をさすり、マルテは思わず「さむっ」と声をこぼした。


 ヴェンデルが魔術で冬用のコートを出してマルテに手渡し、自分の分も出してコートに身をつつむ。

 ファンファニフやレドッグも防寒具を出して暖を取った。


 パンドラの協会支部は街の端にあり、ニノスはヴェンデルたちを連れて支部に向かった。

 マルテは興味深そうに周囲を見回しながら歩く。


 たまに明かりのついた建物が見えるだけで街はひとけがなく、静かな空気が流れていた。

 五人の足音が少し大きく聞こえる世界に、電子音が現れる。

 ヴェンデルの目の前で通信魔術の魔法陣が出現し、全員足を止めた。


『ヴェンデルさん! 緊急事態です』

「? アスティか。どうしたんだ」


 魔法陣からアスティの声が聞こえてくる。

 何やら焦っている様子でヴェンデルは怪訝そうに問いかけた。


『マグス様が、暴走しました』

「……は?」


 ヴェンデルは驚愕して目を見開き、数秒遅れて声をこぼした。

 報告を聞いてニノスが珍しくも口角を少し上げる。


「どうやら始まったようだね」

「……何の話だ」

「君には送られていないようだけど、アリシア様が僕ら神器にある使命を下したんだ」

「使命だと」

「アリシア様が望んだのは、ただ一つ……この世界の全てを破壊し、始まりの白の世界に戻すこと」


 ヴェンデルはニノスの言葉を聞いて目を見開いた。

 脳内でかつての記憶が再びよみ返る。


『全部、最初の白に戻すの。君を連れてきた、あの日のように』


 水色の瞳を激情に揺らし、長く白い髪を神々しく眩しく輝かせる。


 ヴェンデルの記憶にこびりついて離れないその少女は、この世界を創り上げた神――アリシアだった。


「今頃、マガノ・マテリアは血の海だろうね」


 ヴェンデルは唇を噛みすぐに踵を返し、門から外へ出ようとする。

 しかしパンドラに鎮座する白い門に、巨大な鎖が幾重(いくえ)にも巻きついた。


「僕が門の封を開けない限り、ここからは出られないよ」


 ヴェンデルは振り向いてニノスを睨む。


「何のつもりだ、ニノス」

「これは、神の意思なんだよ。神がこの世界の破壊を望んだ。それがアリシア様の意思だというなら、僕はそれに従うまでだよ。今マグスはマギア・マギノスにいる者たちを殲滅している」


 ニノスは手を前に出し、足元に黒い魔法陣を展開させる。

 手元にトンファーが出現しそれを手の中で回して構えた。


「僕はここで、君たちを消し潰す」


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