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第十六話「カタストロフ・ノヴァ」

 セシルはマルテたちの方へ手を向け、青い魔法陣を展開させる。

 数秒もなく鋭い氷塊がいくつも生成され二人のもとへと放たれた。


 二人とも回避し結界を出して防御する。

 しかし氷の雨は止まず防御を解除する隙がなくなってしまう。


「っ、このままじゃ攻撃ができない」

「神器セシルの特性は速射性と多段攻撃だからね。ターゲットを分散させて何とか隙を作るしか……」

「燃えろおおお!!」


 後方からファンファニフの雄たけびと共に大きく魔力反応がしてマギアは後ろを振り向く。


 多量の魔力を含んだ炎の渦が横切りセシルに叩きつけられた。

 セシルは氷の魔術を止めてすぐに上空に回避し、攻撃が放たれた場所へ目を向ける。

 そこにはファンファニフとレドッグ、アスティや他の会員たちがいた。


 ファンファニフは愛武器の斧、ジャガーノートを前に構え、刃先に魔法陣を展開させて電撃魔術を放つ。

 彼女を中心としてレドッグや他の会員たちも魔術を発動させ一斉射撃を行った。


 セシルは魔術の雨の中を転移で回避し、避けきれないものは結界で簡単に防いでしまう。


「っ、ダメだ。僕らの魔術じゃ通らない」


 ファンファニフが多量の魔力を込めても結界は破れずアスティは唇を噛んだ。


 セシルは回避を辞めて結界を張ったまま空中で止まる。

 氷槍を突き出してその先端から巨大な白い光線を放った。


 高濃度の魔力を放つ光線に会員たちは皆、結界を張っても無意味だと悟ってしまい防御を諦めてしまう。


 ファンファニフとレドッグ、アスティが会員たち全員を覆う結界を張るが、簡単に砕かれる。


 光線が叩きつけられる寸前、会員たちの後方から莫大な魔力を持った黒い光線が放たれセシルの術に激突した。


 爆風と轟音が鳴り響き皆の髪や服を大きくなびかせる。


「どんだけ高火力の魔術打ってんだよ。殺す前提にしろもうちょっと加減しろよ」

「!! ヴェンデル!」


 ヴェンデルの声が聞こえてファンファニフは嬉しそうに声を上げる。


 声のした方へ視線を向ければ、ヴェンデルが呆れた顔をして口の血を拭いながら歩いてきた。

 他の者たちも彼を見て安堵する。


「加減する必要なんてありません。全てを破壊するんですから」


 セシルが魔法陣を発現させた瞬間に青い電撃が速射され、ヴェンデルは即座に炎の魔術を放って術を相殺した。


 術の衝突で大きな爆発音が発生し、空気を揺らして突風が吹き荒れる。


 ヴェンデルは空中に飛躍し、セシルに少し接近して魔術を放つ。

 彼女も魔術を放って相殺し、二人の激しい術のぶつかり合いが始まった。


 大きな音が鳴り続き、衝撃で周りの空気が押し出される。

 神器二人の魔力が惜しみなく放出され周囲を破壊していた。


 ヴェンデルが皆を守るために広範囲に結界を張っているが、他の者がそこから出て戦いに乱入しようものなら即座にチリと化してしまうだろう。


 術が大量に発動しては消え、赤や青や緑の光が絶え間なく舞い景色を多彩に染めていく。

 その色を目に焼き付けながらファンファニフは呆然と立ち尽くしていた。


「セシル様があんなに魔力を使うところ、初めて見た」

「やっぱり、本気の神器相手に俺たちじゃ無理だ……こんな戦いでまともにやり合えるわけがない」


 うなだれる会員たちの言葉を弾くように、マルテとマギアは術の雨をぬってセシルに攻撃を仕掛けていた。


 回避と結界でセシルからの攻撃を受けないようにしつつ、マギアは黒い鎌で斬りかかりながら同時に魔術を放つ。


 マルテはヴェンデルの邪魔にならないよう後方からライフルを構え、魔術を組み込んだ弾丸を撃ち放った。

 それと同時に別の陣を展開させて魔術を発動し、セシルの足元から鎖を出現させて彼女の動きを止める。


 そこにヴェンデルが術を叩き込むが、彼女は鎖を破壊し上空に転移して回避した。

 セシルはヴェンデルを冷めた赤い目で見おろす。


「あの方が悲しむから、なるべくあなただけは生かせるようにしようと思ったのに……そこまでするのなら、そこにいる人たちと共に地の果てに消えなさい」


 セシルが片手を上に挙げると、天空に巨大な金色の魔法陣が描かれた。

 その陣を見てマギアとヴェンデルは目を見開く。


「!! あれは……」

「まずい。マギア、マルテ! 撤退だ!!」


 驚くマルテの腕を引きヴェンデルは会員たちのいる場所に転移する。

 マギアも眉を寄せてすぐに後に続きその場から離れた。


 風が吹き荒れ、金色の魔法陣に莫大な量の魔力が蓄積する。


「全員街から離れろ!! 神器の固有神術だ!!」


 ヴェンデルが声を荒らげて会員たちに退避するよう促した。


 神術とは、神の力を与えられた神器だけが発動できるもの。

 神器の持つほぼ全ての魔力を消費し、高火力をもって周囲すべてを破壊してしまう。

 どれだけ魔力の多い者が多重に結界を張っても防ぎきれない脅威的な術だった。


 全員が驚き、すぐに壊掃電車まで転移する。

 しかし今から発車したとしても隕石衝突の影響からは逃れられないだろう。


 マルテは電車まで行かず、足を止めてセシルを見上げた。ヴェンデルは慌てて振り返る。


「よせ! あれは単純な結界じゃ防ぎきれない!」


 逃げるより先にセシルが詠唱を唱え、金の魔法陣が一層強く光った。


「神器セシルの名に置いて、敵を穿つ刃をここに――カタストロフ・ノヴァ」


 光に導かれ、天空から巨大な隕石がこちらに襲いかかってきた。

 ヴェンデルは舌打ちし、壊掃電車までの範囲の結界を何重にも展開させる。


 飛来する隕石は氷中都市を覆う氷を結界ごと割砕し、都市の中へ侵入して大きな影を落とした。


 豪風と強圧で周囲の建物の瓦礫が吹き飛び、ヴェンデルの結界に打ち当たる。

 巨大な隕石の影に飲まれて、マルテは空を見上げブレスレットを外して魔力を解放させた。


「! お前なにして」

「このまま逃げても、隕石の攻撃は避けきれない。ヴェンデルさんたちは大丈夫かもしれませんが、他の人たちは死ぬ可能性が高いです。だからと言って、あの魔術は防御することも迎撃することもできません……普通なら」


 マルテは左手に魔導書を出す。

 ここに来る途中に電車で読んでいたもので、後ろにあるページを開いた。


「この本に一つだけ、セシルさんを傷つけることなく鎮圧する方法が書かれていました。普通ならできない術ですが、今この状況なら発動条件が揃っています。あの隕石も、処理できる、都合のいい方法です」

「そんなものあるはずが……」


 マルテは身体の血管に意識を集中させ、意図的に魔力を外に放出していく。

 彼女の中にある膨大な魔力が、巨大な薄紫の光の柱となって空を穿った。


 足元に白い魔法陣が刻まれ、マルテは詠唱を口にする。


「これは神にあだなす忌みの術。ことわりを破壊する悪の楔」


 その文言を聞いてセシルとヴェンデルは目を見開いた。


「まさか……!!」

「その詠唱は……マルテよせ!! それには代償が」

「器の力を虚空に返し、我が望みの糧とする。御神の力に抗う罪を、この身に刻んで摂理を穿つ! 封じよ、ブラスフェミー・ウェッジ!!」


 マルテはヴェンデルの制止を聞かず術を発動させた。


 詠唱を終えた瞬間、セシルの出していた金の魔法陣が勝手にセシルの魔力を吸い取り始める。

 彼女は唇を噛みマルテへ魔術を放とうとした。


 しかしそのために出した魔力も陣に吸い込まれてしまい、セシルは術の発動ができなくなっていた。


 上から降っていた巨大な隕石は硬い高音を鳴らして破砕し、魔力の光の集合体になって陣に吸収されていく。


 それと同時にマルテの身体が指先から崩壊し、魔力の白い光の粒と化していった。

 肉体が砕ける度に激痛に襲われてその場に崩れる。


「マルテ!!」


 ヴェンデルが駆け寄る前にマルテの身体は全て消滅してしまい、魔力の光が金色の陣へと流れていく。


 陣には莫大な量の魔力が蓄積され、セシルが陣を消そうとしても彼女にはコントロールできなくなっていた。


 セシルを挟むように、彼女の足元に巨大な白い魔法陣が出現する。

 二つの陣から強烈な電撃が放たれ、轟音を響かせてセシルを貫いた。


「ああああ!!」


 セシルの口から濁った叫び声が吐き出されるが、雷撃の音にかき消されて飛散していく。


 眩しい光にヴェンデルは目の前を腕で覆った。

 電撃に彼女の意識が強制的に遮断され陣が消え去り、空中にいたセシルは下に墜落する。


 ヴェンデルは慌てて彼女のもとまで転移して受け止めた。

 意識はないが呼吸はあり、電撃を受けた体には傷一つついていない。

 しかし彼女の身体には一切、魔力がなくなっていた。


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