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第十三話「マルテの特訓」


 マルテの会員登録が終わり、晴れて一両目に新しいメンバーが加わった。


 ヴェンデルはマルテを家に連れて帰り少し仮眠を取る。


 昼過ぎには彼女に街を案内して周り、十八時頃になると再び駅に戻ってきた。

 そこにはファンファニフやレドッグ、掃除屋の面々がいてマルテは口角を引き上げる。


「……え。まさか仕事とかじゃ、ないですよね?」

「そのまさかなんだよねー」

「安心しろ。今発生している勇者は一体だけだから、そんなに時間はかからないはずだ」


 ニコニコして言うレドッグに続けてヴェンデルが補足した。


 今回の勇者は一体のみ、電車で四時間移動したところにおり、戦闘が順調にいけば三十時前後には帰ることもできるだろう。


 とはいえヴェンデルたちからしてみれば、朝に戦って夜また戦うことになるわけである。

 しかし皆これが当たり前かのように受け入れていた。


「一体だけならお前の訓練もできるだろう。ちょうどいい」

「訓練で突かれるだろうけど、明日はたぶん朝六時から出ないといけないから大変だよー。まー、死なない程度に頑張ろうね。ほら行くよー」


 ファンファニフがマルテの肩に手を回してきて笑い、彼女の手を引いて壊掃電車に引きずっていった。


 壊掃電車は昨日と違って車体が小さく見える。

 マルテは一両目に乗り込んだのだが、ヴェンデルに手を引かれて車両の前方に来た。


 彼が天井の扉を開いて上にあがって怪訝そうにし、上から手を差し伸べられてマルテは顔を引きつらせ濁った「え」という音をこぼす。


「え、いや、あの……なんで屋根」


 困惑から断るのが遅れて、流されるままにヴェンデルに屋根へ引き上げられてしまう。


 足元は滑りやすく曲線のある鉄板で身体を支える場所がない。

 少し怖くなって姿勢を低くし、手で凹凸部分を掴んで少しの安心感を得ていた。


 戸惑う彼女をよそにヴェンデルは屋根を歩き、そこに設置された玉座へ向かう。


「な、何で屋根に玉座……?」


 屋根の上に椅子、という見慣れない光景にマルテはさらに困惑してしまう。


 ヴェンデルが玉座に腰かけ、屋根に白い魔法陣が刻まれて電車全体に薄い青色の結界が張られた。

 結界を見て感嘆していたマルテだったが、発車した瞬間に衝撃で体がもっていかれ、屋根を掴んでいた手が離れて宙に浮かぶ。


「あ」と声をもらした頃には、走行中の強風を受けて後ろに身体が吹っ飛ばされた。


 結界は全てのものを遮断するが、それは車内だけらしく屋根の上は強風が流れる。


 マルテは無我夢中で手を伸ばし、慌ててヴェンデルの座る玉座の上部を掴んだ。


「ぎゃああ!! ま、魔王様! 風! 風! 吹き飛ばされる!」


 風に体を後ろへなびかせながら叫び声を上げる。


 髪は散らばり波を打ち、風の乾きからか恐怖からか涙が出て風に乗って羽ばたいていた。


「悪いな。この結界の防風機能は車内にしか適応されないんだ」

「死ぬ! 死にますって! そもそも何で屋根の上に椅子!?」


 ヴェンデルの舞い上がる髪に顔をぶたれつつ、マルテは必死に椅子にしがみつく。


「敵の魔術攻撃から車両全体を守るために結界を張ってるんだが、車内だと全体をうまくカバーできなくてな。外から覆うのが一番効率いいんだよ。まあ何だ、大変だと思うが……この世界では、これが正しい列車の乗り方なんだよ」

「絶対違うだろバカぁあ!!!」


 屋根の上でマルテの叫び声が響き渡る。


 結界により防風防音の車内には何も聞こえず、しかし上にあがった者がどうなるかはファンファニフもレドッグも何となく察していた。


「今日はパセリケパーク休みだから、ヴェンデルずっと上に居とかないといけないんだよねえ」


 ファンファニフは退屈そうな表情で窓枠に頬杖をつき外を眺める。


 玉座の結界はヴェンデルが椅子に魔力を注入し形成することができるが、普通は離席すると魔力が走行中の風圧で押し流され、大気と混ざって飛散してしまう。

 なのでヴェンデルはずっとあの玉座に座っていなければならない。


 ただパセリケパークだけは椅子自体に補助魔術をかけることができ魔力の飛散を防げるので、ヴェンデルが玉座から離れても大丈夫なのである。


 壊掃電車を担当する車両型機械種はパセリケパーク以外にも何機もいる。

 しかし彼女ほど魔力保有量が多く魔術を使いこなしている者はいない。


 走行中でなければ他の機体も結界を維持できるが、走行中に玉座から離れられるのは彼女が車両担当の時だけだった。


 ファンファニフが窓を眺めていれば、前から後ろへと高速で過ぎていく景色の中にマルテが紛れ込む。


「うわああ」と声を上げているが車内には届かず、ファンファニフは「あ、流されてる」と特に驚いた様子なく言葉をこぼしていた。


 流されたマルテは最後方の結界の壁にぶつかって屋根の上に落下する。

 風圧が叩きつけてきて結界に背中を押し付けられていた。


 手元に通信魔術の魔法陣が出現し、ヴェンデルの声が聞こえてくる。


「悪い。屋根にシートベルトないんだよ。羽出してこっちまで戻ってこい」

「行けるか!!」


 戻れと言われてマルテは即座にツッコみ、強風に煽られながら最悪の電車旅を過ごしていた。


 勇者の近くまできて壊掃電車が停まり、疲れた表情で羽を出して前方へと移動する。


「はあ、はあ、はあ……と、遠……」


 最前方に着くころには息が上がっていた。


 ヴェンデルは玉座から離れ地に降り立っており、ファンファニフや他の会員たちは既に戦闘を開始している。


「遅かったな」

「あなたのせいでしょ!」


 何とでもないように言う主人に苦笑いながらも青筋を浮かべる。


 彼は魔術で金色のブレスレッドを出して渡してきた。

 装飾が何もない、ただの環ともいえるシンプルなものである。


「それ着けとけ」

「これって……?」

「魔力の放出を制御する装置だ。これを使えば規定を超えた魔力が外に出ることはなくなる。お前用に昨日作っておいた」

「え、ありがとうございますっ」

「じゃあ、行くか。これから魔術をメインに戦闘の訓練をしていく。武器を使っての戦いはそのあとに教えてやる」

「分かりました!」


 この日からマルテの地獄の訓練が始まることとなった。


 初歩的な魔術から徐々に難易度をあげていく。

 しかしながら、なにぶんこの世界の魔術は魔法陣の形や文字を暗記しなければならない難点があった。


 最初こそ魔導書を使わせてもらっていたが、それに頼りっきりではダメだとして、絵画教室のような座学も始まってしまった。

 勇者討伐の仕事は毎日休みなくあり、その合間に勉学をしてまた働き、という生活を繰り返す。


 幸いマルテは、絵心は人並にあるようで、そこに関しては問題なかった。

 しかし数多くある魔術の陣を暗記しなければならず、脳内がゲシュタルト崩壊を起こしていた。


「はあ、はあ……」


 三週間の訓練を終えて、マルテは疲れきった顔で駅の壁に手をついた。

 この三週間、毎日労働と勉強に脳を使い魔力はあっても体力はなく。


「あえ?」


 改札を出た瞬間、マルテは意識を失って倒れ込んだ。


 ヴェンデルたち三人も激務だったのか、改札を抜けると地に伏し意識はあるがほぼ死んでいるように倒れていた。


 ヴェンデルの視界にサメの尾ひれが見え、彼は視線だけ上にやる。


「まったく君らって人は……僕ループしてるんじゃないかって勘違いするくらい見慣れちゃったんだけど」


 セイニムの呆れたため息が聞こえ、ヴェンデルたちは担架に乗せられて病院に運ばれていった。


 マルテはその後、実戦を積んで順調に魔術や陣を覚え始め戦闘スタイルも確立していった。


「お前、適応するの速くないか……?」


 ヴェンデルは勇者を牽制しながら、人間を鉄槍で斬り倒していくマルテを見て驚いていた。


 普通の日本人ならこんな風に戦いには抵抗も持つだろうし、まず体がついていかないはずである。


 ヴェンデルも彼女がこの世界に適応するのには、相当な時間がかかるだろうと見越していた。


 しかしマルテは一ヶ月も経たないうちに戦いの動きに慣れている。


「こういう派手な動きで戦う感覚はゲームで覚えていますからね。それに魔術を使って補助する戦略とかもゲームと同じような感じですし」

「ああ……ソウル、ディソープションだったか」


 マルテと出会った時のことや、彼女の世界の話を思い返した。

 そして脳内にマグスの言葉がよみがえってくる。


『もしかしたらアリシア様が人間への対抗措置を構築しようとしているんじゃないかと思っているんだ』


(異世界人を転生させるだけなら、あの神はどこの誰だろうと簡単に手を出せるはずだ。俺と関わりの深いアイツなら、まず先に俺の世界と同じような人間を候補に入れるはず)


 だがしかし、今回アリシアはヴェンデルのいた場所とは違う世界の者を呼び込んできた。


 それはソウルディソープションなどという変わったものがある世界を、わざわざ選んできたということである。


 人間をためらいなく斬り倒し、自身が負傷して血が出ても怯えないマルテを見てヴェンデルは眉を寄せた。


 確かにデスゲームのようなものが人気の世界にいてその倫理観を持つマルテなら、他の世界の者を呼び込むより短期間で対人間用の戦闘員に仕上げることが簡単である。


(アイツは本当に、人間への対抗手段として呼ばれたのか……? だが、人間は……)


 だんだんマグスの考えが、あながち間違いではないような気もしてきた。

 しかしその主張を受け入れるには、少し引っかかることもあって。


 悶々とした気持ちを抱えて戦いを続け、勇者を討伐し終えてマガノ・マテリアに帰還する。


 帰ってくると珍しくも、駅でマギノス統治会の事務員の女性が待っていた。


「マグス様がお呼びです」


 こんなところまで伝令が待機して至急の呼び出しをされることは滅多にない。

 ヴェンデルだけでなく、ファンファニフたちや他の会員たちまで表情が険しくなる。


 事務員の女性は一両目の四人とアスティグ他、指定会員が数十人呼ばれて協会本部に向かう。


 本部につき建物の中に入れば、何やら重々しい空気が漂っていた。


 上層階の広い会議室に案内され、中では重鎮の三柱であるマグスとグリム、ヘクセレイが待っていた。

 マグスは皆を座らせてすぐ本題に入る。


「急に呼び出して悪いね。君たち精鋭部隊に緊急の依頼があって招集させてもらった。勇者討伐じゃないんだけど。君たちには今すぐに、シェードに視察に行ってもらいたいんだ」

「シェードに?」


 会員たちがざわつき、ヴェンデルもつい言葉がこぼれる。


 五大安全地区は管理する神器の素行の問題もあり、それぞれ外の都市から定期的に視察を行うよう義務付けられている。


 しかしシェードは最近視察が行われたばかりであり、今回のように緊急招集してまで視察に向かうようなことは滅多にない。


「壊掃電車の担当機体はパセリケパーク。メンバーはここにいる者たちと、あとは……マギアだ」

「!! マギアだって!?」

「あの戦闘狂が何で……」

「俺あの人と共闘するの嫌なんだけど」


 マギアと聞いた瞬間、皆が驚愕して嫌そうな声をもらしヴェンデルも眉を寄せた。


 マギア・マギノス――マギノス族の若い女性であり、強い者と戦いたがる好戦的な性格を持っている。


 色々なところで問答無用で戦いを吹っ掛けてくるため、一族の問題児として「マギノスの戦闘娘」という呼び名が付けられている。


 特にヴェンデルによく強襲を仕掛けてきて、いつも仕事の邪魔をしてくるため彼はマギアを苦手に思っていた。


 しかし性格や態度に難はあれど、彼女の戦闘能力は群を抜いている。

 マギノス族の中でも最も多くの魔力を有しており、マグス、ひいては古代六神器の全員と互角に戦うこともでき得る存在だった。


 彼女を除いたとしてもヴェンデルを筆頭に、ここにいる面々は統治会の精鋭ばかりである。


 治安の悪い都市に行くときは警戒するが、シェードなら戦力過剰と言える人選だった。


 マグスがわざわざそんなことをするのには理由があるだろうと、ヴェンデルの表情が険しくなる。


「なにかあったのか」


 マグスはすぐに答えず少し視線を下げ、再び皆に向き直る。


「セシルが、暴走して都市を破壊し始めたんだ」


 ヴェンデルは驚愕して目を見開いた。


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