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71:オールラウンダー

 蒼い光を持つ刃と、冷たく研がれた刃が交差する。よく映画などで聞く甲高い金属音は聞こえず、分厚い鋼同士が衝突したような、一瞬の重低音が堂内に広がっていった。

 上から振りかぶり、来間の頭めがけて落とした清十郎の太刀は、来間の刀に迎えられる。来間は半歩下がることで清十郎の一撃の打点をずらし、太刀に添えるような形で出した刀は、吸い付けられるように添えられ、衝撃を逃がす。

 清十郎は太刀を引いて、更に一歩踏み込んで突きを繰り出す。それに来間は伸びて迫る刃に自分の刀の峰を当て、大きく前に踏み出した。

 突き出した太刀の勢いに乗るように、刀の峰は火の粉を生みながら前へと滑っていく。突きをいなされ、懐に飛び込んできた来間を、清十郎は大きく飛び下がって遠ざけた。そこを来間は追わずに、満足そうな笑みを浮かべた。

「いい感触だ。刃物同士がぶつかり合う充実感……やはり打ち合い斬り合いはこうじゃないと」

 来間は幸せを噛みしめるようにして笑う。それに対し清十郎は何も返さず、二回目の攻防を仕掛けた。今度は左から横薙ぎの一閃が、かすかに来間のスーツに引っかかった。清十郎が踏み込むよりも半分ほど遅く後ろへと引いたにもかかわらず、足元は乱れず追撃しようと更に前に出た清十郎へ刀の切っ先を向けた。

 清十郎は先程の「刀の峰でのいなし」を思い出し、突きを出そうとした腕を引っ込める。瞬時に手の中で太刀の柄を回転させ、刀の先端を左下へと垂らす。

 その体はまだ、踏み込んだ勢いを残したまま。その加速に体の軸を乗ると、左下から右上へと太刀を走らせた。

 が、その更に下。太刀の軌道をしゃがんで回避し、立ち上がると同時に刀で清十郎の太刀を真上へから打ち上げた。

 太刀は下からの衝撃に耐えきれず、清十郎の右手から弾き出された。

 跳ね上がった蒼い光は、穴の空いた天井を突き抜け、曇り空の中へと四散し形をなくしていった。

 衝撃は清十郎の足元にまで及び、バランスを崩して尻もちを着く。倒れかけた清十郎は慌てて起き上がり、後ろへと下がった。しかし来間は清十郎を追うことなく、間合いの外で相手が戦闘態勢を整えるまで待っていた。

 顕現。短く吐き捨てるように言い、右手の中に再び蒼い光をまとう太刀を一振り、握りしめる。

「精神力の類……闘気や霊気、そういったものを束ねて形にした剣、か。いつでも取り消しが効きそうで便利だけど、長期戦には向かない力だね」

 来間の視線の先にある蒼い光は、先程まで握られていたものよりも鈍く、暗い。

「精神に由来する力なら、そのコンディションがダイレクトに反映される。今再び君が持っている太刀はなんというか……さっきまでのものと比べてハリがない。低いクオリティなのは、君の気持ちの消耗を現して……」

「ペラペラうるせえ!」

 清十郎は地面を蹴って、一気に間合いを詰めた。右から太刀を走らせ、飛び退いた来間がいた場所を薙ぐ。

 一閃、二閃、三閃。がむしゃらに突っ込んでくる清十郎の太刀を、来間は時に体を傾けただけで回避し、刀でいなし、また手にした鞘でコツン、と太刀の腹を突いて軌道をそらした。

 離れた位置で、固唾をのんで見守っていた巳影と紫雨は、目の前で繰り広げられる剣戟にさらなる戦慄を覚えていく。

 震える手を強く握って、紫雨は歯を食いしばっていた。

「ウソだろ……相手になってない……?」

 勢いとスピードが乗り、力を理解した使い手が放つ刃物を、短時間に何度も何度も回避する。それどころか。

 清十郎の突きを、来間は半歩前に出ることで、紙一重の回避を成功させた。すぐ横を抜けていく太刀に向けて、刀……を握った拳が、鈍い音を立てて清十郎のみぞおちへと突き刺さった。

 前に出る勢いを利用され、清十郎は腹部に強い痛みと熱を覚える。思わず膝をつき、うずくまってしまった。

 うつむくその背筋めがけて、来間が刀を振り下ろす。清十郎は歯を食いしばり、痛みをねじ伏せながら体を横に投げ出し、転がることで来間の刀から遠ざかった。

 すぐに立ち上がり、構えるものの……清十郎の膝はかすかに震え、痛みで顔は苦悶の表情を浮かべていた。

「……ただ戦い慣れてるってだけじゃない。これは、「剣の勝負」なのに……」

 うめくよう呟いた巳影へ、紫雨は眉を寄せた。

「人は武器を持つと……特に刃物を持つと、つい「刃物ありき」の動きになってしまうんだ。斬れば大ダメージを受けるか与えるか、だから……注意と意識はどうしても武器を当てることを考えて動く」

 師から座学で聞いた話を思い出し、巳影はおののいていた。

「だけど、だからって武器以外で攻撃しちゃいけない、なんてルールはない。柄を握った手で殴ろうと、蹴り足を飛ばそうと……戦い方は人次第。でも、そう簡単に動けるもんじゃないんだ」

 武具の訓練を積めば積むほど、動きそのものが武具ありきの動きとなり、基礎として体に刻み込まれる。武具を中心にして、戦術戦略を練って広げていく。

「剣で斬り結んでるのに拳が出る……普通はありえない。洗練されたセオリーを破る選択肢を選べる……その余裕、思考、行動力……」

 清十郎の斬り下した刃の上を、来間の蹴りが飛んだ。肩口にそれを思いっきり受けた清十郎はたまらずうめき、後ろへと下がってしまう。

「あの人は、接近戦の「オールラウンダー」だ。自分にすら縛られない戦いができる……!」

「……っ。ど、どうすりゃそんなヤツに勝てるんすか……」

 息を呑む紫雨は、すがるような目で巳影に聞く。しかし、巳影はその視線に答えられない。小さく首を横に降って、震える手をだらりと下げた。

「接近戦においてはもう……勝ち目はない」

 また、重低音で腹の底を叩くような鈍い音がなる。

「これで二度目かな。君から太刀を奪うのは」

 弾き飛ばされた蒼い太刀は、瓦礫の一部に衝突すると、地面に転がる前に粒子の塊へと変わり、輪郭を拡散させて消えていった。



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