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61:奇妙なほつれ

「……と、出る前に聞いとかなきゃ。その「()」ってどんな外見なんですか? 特徴とかあれば教えて下さい」

 立ち上がりかけた巳影が声を挟んだ。それに清十郎は、自分でも失念していたようで、浮かした腰をパイプ椅子に戻した。

「そうだったな、伝えてなかった。そいつの見た目は十歳ぐらいで、ショートカットの女の子だ。着の身着のまま連れ出されたのなら、かなりズタボロな格好をしているはずだ」

「……十歳ぐらいの、女の子」

 至極真面目に言った清十郎の言葉から、紫雨は引きつった笑いを浮かべる。それに清十郎は一瞬の沈黙をおいた後、声を荒げた。

「い、いや違う! 俺は至って健全健康な人間だ、()()()()()なんざねえからな!」

「もうその慌てようがマジモンじゃないですか」

「なんだマジモンって!」

 ケラケラと笑う紫雨の頭へ、ししろがげんこつを落とした。

「いぎゃ! な、何するんすか!」

「人の恋路を茶化すな」

「こ、恋路……っつー表現かはわからんが……」

 今度は清十郎がむず痒そうな顔をする。

「話しを戻すと、その子は十歳ぐらいの女の子で、その子が少なくとも昨日の夕方以前からいなくなってる……で、OKかな」

 切子が紫雨とししろの間に割って入り、簡潔に状況をまとめた。それに巳影は眉をひそめる。

「でも、そんな女の子が町中をふらついていたら、話の一つぐらい聞きますよね……」

 狭い田舎町ではウワサが流行りやすい。だがそれらしい話はまだ一度も耳にしていない。

 清十郎は険しい顔になり、力なく首を横にふる。

「町中での話は一切信用できねえ。裏に新山の爺さんが……『土萩町管理組合』がいるなら、町の人間はみんなが諜報員とでも言っていい。この町じゃあの爺さんが絶対的な存在なんだ」

「目撃情報を聞いて回るってのはもってのほか、ってわけですか」

 巳影は腕を組んで宙を仰いだ。同じように切子も腕組みして、眉を寄せた。

()()()()()、というのを考えないとだめかもね。足で探すとしても私たちだけでは少なすぎるし、『土萩町管理組合』に嗅ぎつけられる危険もある」

 切子の言葉に全員が押し黙ってしまい、それぞれが難しい顔をする。その重苦しい空気の中、ししろのスマートフォンが呼び出し音を鳴らした。ししろは画面に表示される相手の名前を怪訝そうに見た後、通話ボタンをタップした。

「なんや、帆夏」

「帆夏……?」

 巳影は首を傾げた。一体何用だろうか。聞く前に、ししろはスマートフォンをスピーカーモードにして手近な場所に置く。

『やあやあ皆の衆、久しぶりだね。どうやら詰んだ状況らしいじゃん』

「……なんでそんなこと分かるんだ」

 思わずぼやいてしまう巳影だった。だがその声を拾ったスマートフォンは、得意げに言う帆夏の声を広げた。

『暇人の……ごほん。私の情報網ナメないでよ? まだ入院中だけど、調べ物するだけならなんの問題もないんだ~』

 帆夏の声の向こうから、カタカタとキーボードを高速で打つ音が聞こえた。

『事情は把握済み。ついでに新山のお爺さんのデータベースにも潜ったところ、向こうもまだ見つけられてないみたいだね。だからみんなが同じように探しても意味はないよ。ローラー作戦やってる向こうのほうが、圧倒的に数で有利だもん。そんな連中でもまだ見つけられてない』

「そういうからには、何か別案があるのか?」

『くふふ。もちろん』

 巳影の言葉に、帆夏が通話越しでほくそ笑む様子が簡単に浮かんだ。

『お探しの相手は『暗鬼』。ウワサ話を実体化する力の持ち主。今町中を賑わせているウワサ話は、この『暗鬼』が実体化させてるわけだけど、その際には「ウワサ話のコア」を『悪鬼』が生み出すんだよ』

「コア……?」

 オウム返しにつぶやき、巳影は清十郎を見やる。だが清十郎には心当たりはないらしく、首を横に降った。

『そのコアがある限り、ウワサ話は流れ続ける。コアは流したウワサ話が広まるほど肥大化し、やがて現実の問題として固定されるんだ。今『飛頭蛮』が巷に出てるのはこのためだね』

「初めて聞く話だな……じゃあ、そのコアを見つければ、実体化したウワサ話は……」

 巳影の言葉を、スピーカーからの声が遮った。

『見つけただけじゃダメ。壊さないといけない。壊せば、ウワサ話の内容ごと、起こってる出来事は消滅するんだ』

「へえ、そんな解決策があるんだ」

 聞きに回っていた紫雨が感心の声を上げた。だが、巳影は眉を寄せてちらり、と切子へと視線を送った。

「……妙だね」

 視線に気づいた切子は、巳影の言わんとしたことを理解したようで、そんな言葉を返す。

「……。な、なあ帆夏。その話ってどっから聞いたんだ」

『もちろん『土萩町管理組合』にクラッキングして調べたよ。爺さん周りを調べれば出る話かもしれないけどね』

 その言葉に、再び切子と目を合わせる。

「ねえ帆夏ちゃん。切子だけど……そのコアのある場所って、分かる?」

『大体はウワサ話の出どころになった場所の近くにあるはずだよ。んで、そのコアは現実問題になるほど肥大化するから、言い方が少し変だけど、「若いコア」を見つけていけば『悪鬼』に近づけるかもね』

「……つまり、新しいウワサ話を追っていけば、近くに『暗鬼』がまだいるかも……ってこと?」

 言葉を詰まらせている巳影と切子の横で、紫雨が声を上げる。

『そそ。コアを生み出したらしばらくの間、『暗鬼』はそこを動けないらしいんだよ。なぜかまではわからないんだけど、どうかなこの情報。……もしもし?』

 帆夏が返ってこない返事を催促する。場に落ちた沈黙は、何かを思案している巳影と切子の二人から生まれていた。

「どないした」

「不自然、というか……状況が食い違ってるというか……」

 ししろの声に、切子は歯切れの悪い言葉を返す。

「ししろさん、実はちょっとおかしいことがあるんです。今の段階だけで言うと、実は……」

 巳影は浮かび上がった疑問を言葉にし、スピーカー越しにいる帆夏へも説明を行った。その内容には、誰もが眉を寄せていく。

「……ということなんだけど」

 話し終えた後、皆困惑した様子でいた。

『うーん。ひとまずは『暗鬼』を追っかけるしかないんじゃない? 事実はともかく、今はその『暗鬼()』の安全が優先でしょ』

「色々腑に落ちないけど……考えてばかりもいられない、か」

 巳影は頷いて言う。スピーカーから言う帆夏の意見が、一番建設的なものだった。

「まずはウワサ話を追って、あの人達よりも先回りしましょう。この疑問は、ひとまず後回しで」

 全員がスッキリしない、と言った様子で腰を上げた。


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