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59:結託

 甘い時間の終わりは、およそ1ヶ月後の夜だった。

 廃寺へと現れた大人たちに押さえつけられ、抵抗もむなしく、見ていることしかできなかった。

 少女は、大人しく封印されることを受け入れた。自分が鬼で……『暗鬼』と呼ばれる災厄のシンボルなのだと知ったうえで、これ以上迷惑はかけられないと、泣き笑いの表情で、閉じていく柱の中に消えていった。

 無力。あまりにも、無力。

 巨大な柱だけが残った廃寺で、少年はうなだれつづけた。やがて朝日が昇り、昼間の明るさが差し込んできた頃、俯いたまま廃寺を後にした。

 ただただ、自分を嫌悪した。力のない、何者にもなれなかった、無力な自分を。



 □□□



「よお」

 昼休み。ししろからオカルト研の部室に集まるよう連絡を受けた巳影は、そこで待っていた意外な人物の登場に面食らった。

「お、大場さん……?」

「神木せんせーに無理言って、お邪魔してる」

 首には関係者である証のプレートを下げていた。大場清十郎は、備品であるパイプ椅子に座り、神木冬弥とは面識があることを説明した。幼い頃に遊んだ面々の一人だという。

「し、しかし。帰られたのでは……」

 昨日の夜、とても友好的な場面とは言えない最中で去っていった清十郎を、誰一人引き止めることはできなかった。しかし今目の前にいる青年は、捨て鉢にもなっておらず、視線を合わせても、はぐらかすことはなかった。

 昨夜に比べて、随分と印象が違う。

「やることができた。そのために、お前らの力をかしてほしいんだ」

 真っ直ぐに巳影を見る目には、ごまかすような気配は感じられない。

「その代わり、俺もお前たちに協力する。『飛頭蛮』の討伐にも手を貸すし、その根源をなんとかするつもりなら、手駒として使ってもいい。……おそらく、根っこにいる相手は同じだ」

「相手は同じ……?」

 巳影は眉をひそめた。そこに、清十郎が言葉を投げかける。

「……『茨の会』。お前が追いかけてるってもんが、どうにもチラついてるんだ」

「……!」

「すまねえ。お前のことは、相澤から聞いた。『あかね団地事件』……俺も知ってるぐらいの出来事だ。だからってわけじゃないが……手がかりを探すぐらいなら、協力できる」

 清十郎はパイプ椅子から立ち上がると、深々と頭を下げた。

「こっからは俺一人じゃどうにもならねえ。だから手を貸してくれ。今回の件で、どうしても……「救いたいやつ」がいるんだ」

 清十郎の絞り出したような声に、巳影は口を開く変わりに右手を差し出した。それをきょとんと見つめている清十郎に、巳影は苦笑して言った。

「今回のことで、大場さんが言う「救いたいという人」がいるのなら、俺からも協力申し出ます。それが解決と、『茨の会』に迫れることなら、なおのこと。利害一致です」

「……利害一致、か。変な言葉使うな、お前」

 清十郎は若干気恥ずかしそうに笑い、巳影の右手を取った。

「すまねえな。爺さんたちは信用ならねえし、裏がある。だが俺が直接行っても、門前払いがオチだ。ひっそり探るような手もねえ」

「自分も、あの人たちを全面的に信頼することはできません……なのでここは一つ、あの人に「板挟み」になってもらいましょう」



 □□□



『と、いうわけで。お願いできますか、来間さん』

「……エグいことお願いするんだね、飛八くんって」

 かけてきた電話の主は、おそらくしれっとした顔で言っているであろう。来間は顔を引きつらせながら、昼食であったカップ麺から手を離した。

「いやいや。それ以前に大スクープなんだけど。封印から「鬼」が何者かに連れ出された……? 一体誰が、何のためにそんなことを?」

『それを探ってます。新山さんたちは何かを隠していると思うので、来間さんにはそれを突き止めてほしいんです』

「いやいや、いやいや。俺の雇い主だよ、新山さん。確かに善人ではないかもだけど、いくらなんでも「鬼」を連れ出すことに協力してる、なんてことはないでしょ……本末転倒じゃないか」

『じゃあどんなことでもいいので、新山さんサイドの情報の横流しをお願いします』

「言ってることが犯罪者じみてきたよ!? 雇い主の情報の横流しって何!?」

 その後も無理難題は続き、飛八巳影との通話を終える頃には、カップ麺はすっかり伸び切ってしまった。食事は諦めて、ペットボトルのお茶を開けた。

「はぁ……なんなの最近の子って。ズカズカ言っちゃうんだから……」

 安物のお茶を喉に流し込み、来間は一息つく。

「……まあ、でも。飛八くんの話が本当なら……「面白く」はなりそうだね」



 □□□



「と、いう感じでさっき来間さんも巻き込みました。これで多方面から情報が集まるかもしれません」

 紫雨以外の全員が揃った部室内で、巳影以外が言葉を失っていた。

「お前……怖い」

 清十郎は明らかに引いていた。

「巳影くん、その……なんていうか、手心というものをね……」

 切子は言葉を探しているが、うまく見つからない様子だった。

「……胃、胃が……」

 ししろは腹部を押さえている。顔色は悪かった。

「まずは「鬼」を連れ出した者たちと、その理由を探る必要がありますが……今まで通りのパターンならば、『茨の会』が連れ出したとしてもおかしくありません」

 一方巳影は勝手にまとめへと入っていた。

「現時点で『茨の会』の情報は皆無。ならば他の情報が出てきそうな、新山さんたち『土萩町管理組合』を探ってみるのはどうでしょう」

 巳影の言葉に、切子が小首をかしげた。

「え……それは来間さんに任せたんじゃないの?」

「来間さんも調べます。でもあの新山さんが見逃すとは思えません。どこかで勘付かれるでしょう。疑いと関心は来間さんへ行きますから、その間を突いて我々で決定打になる情報を探しましょう」

 さらりと言う巳影に、ししろが苦しげに歪む顔を上げて、虫のなく声で聞いた。

「巳影、お前……最初からそのつもりで持ちかけたんか……?」

「はい」

 巳影は澄んだ笑顔で頷く。ししろはその後何も言うことなく、ちゃぶ台の付近で体をぐったりと横たえた。

「じゃあ早速今日の放課後から動きましょう。紫雨への連絡は俺がやっときますから」

 心なしか、巳影の表情にははつらつとした活力があった。


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