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52:円卓会議(ちゃぶ台)

「つまりは、遊撃部隊を作りたいんだよ」

 来間堂助は刀を納刀しながら、にこりと笑う。

「新山さんたちが第五の『独立執行印』が不安定になってる原因を探している間、俺たちが町に現れる『飛頭蛮』を狩る。田舎町とはいえ結構広いからね。俺一人じゃ限界があるからさ」

 腐臭は次第に薄れていく。だが空気の淀みまでは抜けきらず、息をするにも喉に粘りつくような感覚が残っていた。

「どうかな。()()()には俺と『飛頭蛮』を狩っていく……という提案は」

 来間の笑顔は、顔に張り付いたような「造形のいい」ものであった。



□□□



「……っちゅうことやねんけど……どう思う?」

 翌日の放課後。オカルト研の部室でししろは全員が集まるなり、昨日の出来事を話した。ちなみに紫雨はこの学校のジャージを着せられ、ししろがしれっと紛れ込ませた。

 話を聞いた切子は押し黙り、紫雨は心底面倒くさそうに顔を歪めていた。

「俺としては……疑わしいんですが」

 ちゃぶ台を円卓よろしく囲った四人の中で、巳影が手を上げて言う。

「全体的に、話が妙というか……筋が通ってないわけじゃないんですが」

「てか、新山のじいさん側もモロ部外者頼ってるじゃないですか。その来間って人。どの口で言ってんの? って感じですよ」

 巳影に続いて紫雨も不満の声を上げた。それに巳影は頷いてから、ぼそりと言った。

「けど、実際『飛頭蛮』っていう化け物は出てるから、被害が出る前に抑える、というのなら……俺はひとまず賛成ですが、全面的に信用したくないですね」

「……スッキリせんのはみんな同じかぁ」

 ししろはため息を着いて、手前に置かれた湯呑みでお茶をすする。

「……結構な危機であることは、確かだと思う」

 しばし間をおいたあと、切子が口を開いた。

「来間堂助……界隈じゃ結構有名な人だよ」

 切子は目の前の湯呑みを見つめながら続けた。

「妖魔、心霊退治のフリーランス。どこの勢力にもつかず、ふらりと現れては「魔」を斬っていく……それも、徹底的に」

「徹底的?」

 切子の言葉選びに巳影はただならぬ雰囲気を感じ、思わず呟いてしまう。それに切子は「うん」と小さく頷いた。

「殲滅、根絶、壊滅。彼が通った後には浮遊霊ですら近づかないって言われてる。その執拗さから『魔物喰い』、なんて通り名で呼ばれてるぐらいだよ」

 その場にいる全員が押し黙ってしまう。重くなった空気をごまかすかのように、ししろはわざとおどけた調子で「ま、まあそんな人からの要請や」と話を強引に戻していった。

「ウチも利害一致するものはあるし、第一被害が出るんならなんとかしたいと思とる。でも全面的に信用はできへん……急に新山のじいさんらが出張ってきたのには、意味があると思うからな」

「なら、協力するふりをして、怪しいところを探っていくのはどう?」

 湯呑みのお茶を息で冷ましつつ、紫雨が言う。

「まだ僕に「ブースト」がかかってる間なら……多少()()()調()()()はできるかもしれないけど」

「嬉しい申し出やけど……その「ブースト」とやらはどのくらいまで続く?」

 ししろは不安げな様子を隠せないままだった。それに紫雨は手の平を握り、

「ぶっちゃけあと二日程度です」

「……二日、かぁ……」

 ぺたん、とししろは額からちゃぶ台に突っ伏してしまった。

「二日で『土萩町管理組合』の裏を洗いつつ、町中に出没する『飛頭蛮』を退治し……」

 うつ伏せになったまま、ししろは頭を抱えている。その様子があまりに不憫に感じた巳影は、隣に座る切子へこっそりと訪ねた。

「あの……ししろさん、なんでこう消極的というか、いつもらしさがないんですか?」

 聞かれた切子は眉を少し寄せ、おなじくこっそり、ししろへと聞こえない程度の声で返す。

「新山さんね……ししろのおじいちゃん、なの」

「……祖父?」

「昔から厳格な人で、ししろが唯一頭の上がらない人なんだ」

「な、なるほど……」

 意外な関係図ができてしまった。

「それに『土萩町管理組合』はただの組合じゃないの。この町の裏の顔。『独立執行印』という、かつての因習を管理してきた、大昔から続く組織。新山さんは、代々続くその旗頭だからね」

 町の裏事情に通じる人間なら、誰もが萎縮してしまうのも当然だ、と言う。

「でも、そんな組織が高橋京極たちの暗躍に、なんのアクションも見せなかったのかってのは……確かにと思うところだよ」

 加えて、あの新山という老人からは『茨の会』という名前が出た。一体、どこまで何を掴んでいるのか……巳影としては、問いただしたい気持ちでいっぱいだった。

「ひとまず、協力しときませんか? どうするにも『土萩町管理組合』が壁になっちゃうなら、壁になる理由から調べないとダメでしょうしね」

 紫雨がサラリとまとめた。ししろに至っては、ちゃぶ台に突っ伏したまま、ブツブツと声を垂れ流していた。

「何も僕ら全員がその「遊撃部隊」に参加するわけじゃないですし。というか、そんなにすばしっこい相手なら、飛八さんと柊さん以外捕まえられないでしょ」

「じゃあその間に、何があったのかをお前とししろさんで調べるってことか」

「一番無難だと思いますよ。従うフリでも見せとかなきゃ、そもそもの目的である「結界の強化」すらままならないっての」

 紫雨は白けた様子でため息をついた。

「じゃあ俺と切子さん、紫雨とししろさんで動くか」

「ここまで来ると、あと一人ぐらい動ける人がほしいっすね」

 紫雨のボヤキも当然に思えた。おそらく巳影が想像している以上に、これからの行動は制限されてしまうだろう。

「ま、そんな融通の効く人なんて居ませんが」

「居たとしても、今は都会の大学生だしね」

 紫雨のないものねだりに、切子は苦笑した。

「……ほな、ウチの方からその旨、じいさんに返事しとくわ……」

 言うししろは、まだちゃぶ台に額をくっつけたままであった。

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