表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/126

03:因縁

「おや、こちらでしたか」

 本堂の中央、座禅を組む少年は、ちらりと視線を後方に向けただけで、すぐに前へと向き直り、目を閉じた。

 広い本堂に光源はなく、暗闇の帳が降りている。その中を、迷いのない足音が床の上を進んでいく。

「どうかしましたか? どことなく、ナイーヴになっているように感じますが」

「……」

 声に背を向け、座禅を組む少年は無言のままだった。

「やはり、昼間見た少年の……彼の動きが、気になっているのですね」

 声の主が薄笑みを浮かべていることは、口調でわかった。

「確か……『地蓮流(じれんりゅう)』でしたね、桐谷さん。あなたの流派は」

「うるさいぞ、高橋」

 桐谷と呼ばれた少年は座禅を解き、立ち上がる。

「何をしに来た。用があるならさっさと言え」

 闇の中でほくそ笑む気配がした。

「招集です。『茨の会』メンバーは、集まるように、と」

「……それだけをさっさと言えばいいものを」

 苛立つ声をそのままに、暗闇の中、少年は踵を返し歩いていく。

「失礼失礼。僕、おしゃべりが好きなんですよね」

 クスクスと笑う気配が闇の中から薄れていく。少年は忌々しげに目を尖らせ、吐き捨てた。

「苛つくホトトギスだぜ。せいぜい鳴いて、撃たれてしまえばいい」



□□□



「悪徳な霊媒師……?」

「そう。通称『ホトトギス』。おしゃべりで口がうまく、騙されちゃう人が多いんだ」

 柊切子は湯呑みをすすりながら、憤慨した様子で言う。

「それは霊感商法みたいなものですか? ツボとか仏像を売りつけたり?」

「それだけやったら、かわいいもんやけどな」

 柊切子の隣で同じく湯呑みを片手に持ち、ちゃぶ台に頬杖を突く相澤ししろが、不機嫌さを丸出しにして口をとがらせていた。

「厄介なんは、その『ホトトギス』が()()()()()()、ゆうところや」

 実習棟の四階の一番奥にある準備室は、『オカルト研』の部室として扱われていた。通常の教室よりも一回り大きい作りで、中央には畳をしき、ちゃぶ台を起き、招かれた巳影は用意してもらった座布団の上で、他の二人と同じく湯呑みをすすっていた。出されたお茶は昆布茶で、塩味が効いていた。

「霊障による攻撃や呪術、悪霊のコントロール……ついにこの町、土萩町で最後の坊さんまで倒れてもうた。今この町の仏閣は全滅。お祓いができる専門家はゼロ。霊的にかなり不安定になっとる」

「まるでサイバーテロですね……。そんなことをして、一体何を企んでるんです?」

「サイバーテロの言葉を借りるなら、サーバーをすべてダウンさせることそのものが目的じゃないかな、って私達は踏んでるんだ。安全機能を潰したうえで、何か動こうとしている」

 巳影の疑問に、柊切子は「憶測含む、だけど」と付け加え答えた。

「ウチらは簡単に言えば、民間の霊媒師のみたいなもんや。切子とウチと、専門分野は違うけど、今この町で心霊を相手にまともに動けるんは、ウチらだけや」

「そうだったんですか……」

 さらりと説明されたが、実はかなり切迫した状況なのではないだろうか。

(やっぱりこの土萩町には……何かある)

「まあ、そんなわけで何かの足しにと『オートマタ』を作ってたところなんや。……地蔵で」

「お互いにわか知識しかない状態でやるものじゃなかったね。……地蔵で」

 リテラシーが高いのか低いのか。

「それで、君のことを聞いてもいい?」

 こちらを見る柊切子、相澤ししろは真剣な面持ちだった。二人の目を見て、巳影は頷く。

「俺は……春からこの町、土萩町に来ました。『茨の会』というものを探しに。ご存じないですか」

 相澤ししろが視線を柊切子へとよこす。だが柊切子は小さく首を横に振った。

「それは……どういう組織や集団なのかな」

「まだ俺にも分からないことだらけですが……確実なことは一つ」

 言葉を区切り、一拍置いて口を開いた。

「それは……『茨の会』は、俺の仇です」

 かすかに、頭の中で獣が身を動かす気配がした。

「お二方は……二年前の『あかね団地事件』をご存知ですか」

 巳影の言わんとするところが伝わったのか、二人の少女に緊張の気配が走った。

「俺は……『あかね団地事件』の、生き残りです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ