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125:最大限の横槍

「町の雰囲気が妙に活気づいていたのは、そういう理由か……」

 翌日の放課後。オカルト研の部室に集まった清十郎や紫雨に、昨日あったことを説明した。清十郎は表情を険しくさせ、唸り声をあげる。隣でパイプ椅子に座っていた紫雨も不安な気持ちを隠しきれず、気落ちしているように見えた。

「いや、あれ……活気づくって言い方をしてもいいのかな……」

 怯えの色を目に宿した紫雨は、うつむいてつぶやく。

「活気っていうか、熱気? まるでオリンピックとかそういう、スポーツの大会で地元出身の選手やチームを応援するみたいな感じに見えるけど……悪く言えば、それしか見えてないっていうか……」

 紫雨が通い始めた中学校でもそのムーブは……「新山を担ぎ、崇める」という熱にあてられ、話題はそれ一つだった。

「年齢や男女関係なく、今町は奇妙な「一致団結」した勢いがあって、それが正しいかどうかなんて考える人もいない。至極当然のように迎え入れていて……正直怖いですね……」

 紫雨の言葉に、誰もが押し黙ってしまう。巳影もししろも切子も、その熱が膨張し広がった場面を見ているだけあって、熱狂で勢いをつけた民衆の様子は容易に想像できた。

「とっとと新山の爺を止めねえと、やばい。今すぐにでもな」

 清十郎は組んでいた足をほどき、かかとを床につけて座りなおす。それにうなずいたのはししろだったが、顔色が良いとは言えず、言葉を考えながら声を絞り出した。

「そうしたいんも山々や……でも正面から行っても門前払い。襲撃をかけようにも相手の規模がどれだけか不明瞭……情報をもっと集めて、今まで以上に慎重になった方がええと思う」

 新山たち相手は、自分たちを邪魔に思ってるのは確かだ。どう挑もうと、対策はすでに取られているだろう。故に、今すぐ動き出すというのは悪手だと言えた。

「くそ爺の裏には『茨の会』がついとる。となれば、旧日本軍から今の政府につながるパイプも疑った方がええ」

 慎重さを促すための言葉だったのだろうが、ししろがまとめたことにより、今立ちはだかる壁がどれだけ分厚く高いものかを想像してしまい、皆が皆、気力が大きく削がれてた。

「……四面楚歌、ですね」

 巳影がつぶやいて、場の空気はさらに重いものへと変わってしまった。

 かといって警察などに助けを求めることはできない。とっくに裏から手は回っているだろうし、『茨の会』がどれほど影響を与えているかもわからない。

 はぁ、と大きく息を落とし、清十郎がげんなりとした様子で言う。

「今必要なのは突破口、か」

「というか、とっかかりすらない状態ですよ」

 紫雨はうつむいたままの姿勢で言う。反撃の狼煙をあげたいところであるが、下手をすれば相手の戦力すべてを一気に敵に回す可能性もあり、数で不利なこちらは勝ち目もない全面戦争になってしまう。

「……今、新山の人たちとかは、町の中にいるんですか?」

 巳影の言葉に全員が怪訝な面持ちを向ける。それには清十郎が答えた。

「元の豪邸に戻ったって話だな。消えてた家臣なんかも今まで通りにいるそうだ」

「じゃあ……具体的に町の人たちを『月人』にしようというのなら、どこでやるつもりなんでしょうね。そのお屋敷ででしょうか」

 巳影の問いに、多分と頭につけてししろが答えた。

「屋敷内でも、結界の類いで隔離された空間で行うんやろう。前に『黛工房』が奇襲を食らった際に見た、疑似的な『土萩村』とかで、やろう。『月人』なんちゅう兵隊をストックしとくのに、現実世界じゃリスクが高すぎる」

「ならば……その()()を狙うのはどうでしょうか」

 巳影の言葉にまたしても全員が小首をかしげる。だが巳影は構うことなく続けていく。

「わかりやすく言えば、『月人』を製造する場を崩す、というか。おそらくししろさんの考える通り、現実世界ではやってないと思います。『異界化』した空間で人を変貌させている。その間、あの『月人』がおとなしく列でも作って何事もなく待機してる姿なんかは想像できません。なのに()()()()に入れた、というのなら……」

 戦った『月人』たちは、けしかけられたとはいえ、隠すこともできない凶暴性を持っていた。そんな存在がおとなしくストックされるだけで終わるかどうか。

「今の今まで新山の人たちが出てこなかったのは、『月人』の挙動をおとなしくさせる術までもっていなかったから、だと思えば。今はおとなしくストックされているかもしれません。そのストックを狙うことができれば、異界だろうと場は混乱し、少しの隙ぐらいは生まれるんんじゃないでしょうか」

「……ふむ。無策で突っ込むよりかは現実的か」

 腕を組んでししろがうなる。しかし、と顔を上げてししろは、

「せやかて、どこにその異界の入り口があるかわからんし、情報はないで」

 そこで巳影が答える前に、紫雨が「あー」と間の抜けた声を口にした。

「な、なんや」

「いや、前回『黛書房』が襲撃された際、敵はあの周辺を異界にしたじゃないですか。あれって、どれぐらいの範囲で異界になるのか謎だったんですけど……もしかして」

 ちらり、と紫雨の視線が巳影に向けられる。巳影はうなずくと「そのもしかして」と答えた。

「すでに、この町の敷地内ならどこでも異界化が可能なのでは、と思います」

 いやな可能性ですが、と付け加えて巳影は続けた。

「一枚裏にある異界は、すでにこの町そのものの規模にまで広がっているのでは、ということです」

 聞き方によっては、絶望的な答えではあった。だが、不敵な笑みを浮かべる巳影は、意気揚々として言う。

「なので、異界へ入る手段さえあれば、どこからでも連中の横っ面を殴ることができるってことですよ」

 そこに、まだ困惑気味の清十郎がおずおずと手を挙げた。

「け、けどよ飛八。どうやってその異界とやらに行くんだ?」

「入口からです。この世界からここじゃない場所につながっている小道から。そこでいろいろと試してみるのも手だと思います。だから紫雨、神木先生に許可をもらってほしいんだ」

 紫雨は巳影の言わんとすることが分かった様子で「うわー」と()()()リアクションを見せる。

「俺たちが安全さを確保しつつ、非現実的な空間へとつながる道……『帰らず小道』からなら、どうでしょうね」


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