表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/141

12:因縁の浮上

 遠くから、鐘が鳴る音が聞こえる。

(……)

 人ならざる者が、自分の名前を呼んでいる気がする。

(……うるさい)

 誰かが話しかけてくる。

(……うるさい。うるさい)

 手が熱い。腕が熱い。燃えているようだ。

(……ああ、苛々する)

 視界には赤い色しか見えない。眩い。

(……ああ、ああ、ああ)

 このまま、何もかも。

(壊れてしまえばいい)

 壊れて、壊して、朽ち果ててしまえば。影すら残さないぐらいに、焼き尽くして。

(壊してやる……!)


 そんな顔するなよ 親友


「……ッ!?」

 ぐらり、と視界が揺れた。

(……俺は、何を……)

 まるで頭が鉄塊になったかのように、重い。それを首だけでは支えきれず、思わず膝をついた。

『力を解除する』

 霧煙る脳内で響いた獣の声に、飛八巳影は弾かれたように顔を上げた。

「そうだ、敵……!」

 駆け出そうとしたが、落ちた膝が上がらない。バランスを崩し、砂利道の地面に倒れ込んだ。

「くそ……ッ!」

 両手を地面につき、小石ごと手を握りしめた。だが、全く力が入らない上に、立ち上る炎の揺らめきは破裂し、輪郭すら失った。火の粉と散った火柱を視界の端に捉えつつ、巳影はなんとか顔だけを上にあげた。

「まさか、僕の死霊を爆散させるとは……素晴らしい火力ですよ」

 砂利を踏む音が近づいてくる。高橋京極は薄笑みを消し、閉じた扇子を下げながら足を止めた。

「ですが、完全に『星撃』の力をコントロールできていないようですね。何故君にその力があるのかはわかりませんが……」

 閉じた扇子の先端がゆっくりと持ち上がり、地面に這いつくばっている巳影へと向けられた。

(ほ、星……何を言っている?)

 同時に、ひときわ大きな鐘の音が鳴る。高橋は月夜を見上げ、忌々しげに顔をしかめた。

「制限時間切れ、ですか。まあいいでしょう……」

 つぶやくと、高橋は踵を返して砂利道の奥へと歩いていった。

「ま、待て……」

 砂利に着いた膝が、固い地面の感触を覚えた。わずかな浮遊感が体を包んだかと思うと、視界が暗転する。

「巳影くん!」

 耳に届いた声は、混濁しかけていた意識を一瞬でクリアにした。

「はっ……」

 気がつけば、アスファルトの地面にうつ伏せで倒れていた。膝や手に、もう砂利の感触はない。

「巳影、どないしたんや! 急に倒れて!」

 切子とししろが側にしゃがみ込み、焦りの表情を見せていた。

(な、何だ一体……俺はさっきまで……)

「無駄ですよ、飛八くん。言ったでしょう、彼女らには知覚できない場所にいたのですから」

 かろうじて残った力で顎を上げる。少し離れた位置に、あの黒い法衣を着た青年が立っていた。

「いささか特殊な空間だったので、経過した時間も少しずれています。ですが」

 高橋は法衣から一枚の札のようなものを取り出した。その札は焼け焦げ、ボロボロになっている。

「僕の駒を一つ砕いた戦いは、現実のものです」

 夜風が吹いて、高橋の手の中にある札は灰へと姿を変え、流れていった。

「君の奮闘に免じ、今は退きましょう」

「ま、待て! あんたは一体……目的は何なんだ!」

 高橋が扇子を広げると、口元にあててほくそ笑んだ。

「今は伏せておきます。ですが近いうちに分かるでしょう。君の探している『茨の会』もまた……ふふふ」

「……『茨の会』だって……!?」

 高橋の法衣に、きらめく光が差し込んだ。切子がナイフを投げ、もう一本放つ。

「ざーんねん」

 カツン、と乾いた音が鳴り響き、投擲用のナイフが地面に落ちた。そこにはもう、黒い法衣の影すら残っていなかった。

「ししろ」

「消えた。知らん移動術か目眩ましか……この場にはもうおらん」

 まだ指の間にナイフを構えていた切子は、首を横に振るししろの言葉に舌打ちを残した。

「何なんです、あの人……」

 震える膝を押さえながら、巳影はなんとか上体を起こした。ひどく疲れ、虚脱感が強いものの、なんとか息を整えて立ち上がる。

「こっちも聞きたいことばかりだよ。君はいきなり倒れるし、『ホトトギス』は君の探す『茨の会』だなんて口にするし」

「ただの胡散臭い霊媒師……だけやないな。何があった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ