第七回『ビジネス』『国語』『葬る』
三題小噺第七回は『ビジネス』『国語』『葬る』です。
闇に紛れて暗躍する男たちの行く末は如何にっ……!
ではどうぞー。
三題小噺第七回『真実は闇へと向かう』
しん、と静まり返る部屋の中に木霊する何かを叩くような音。
人がいるはずであるのに、彼らの声は一切発する事はない。
皆恐れているのだ、隙間を縫うように滑りぬけるモノに……。
だが、だからこそ、人との交流が困難だからこそ成り立つ【ビジネス】と言うものがある。
言葉を伝える方法は何も口で喋るだけではない。
紙に書く、サインを送る、モールス信号で交信する。互いに視線を交わさずとも、顔を突き合わせずとも言葉を通わせる事は出来るのだ。
そうした手段を用いて、決して伝える事の出来ないはずの情報を伝える事は非常に価値が高いものとなる。
「その情報は簡単には譲れないな……」
当然の如く実際に話している訳ではないが便宜上話している様にさせていただこう。
こちらの言葉に相手は苛立つ様に音を高める。監視者に一睨みされた様だが心配はない。こちらの動きが漏れることはあり得ないのだから。
「ならば、コイツの情報と交換でいこう」
「出し惜しみはよせ……お前が隠し持っている情報の断片はこちらも掴んでいるんだ」
熱くなっては負けだ、表向きはどうであれ中は微動だにせずにクール。これが一番いい。
案の定相手は迫るタイムリミットに痺れを切らし、苦渋の決断を迫られる。
交渉時間には限りがある。こちらとしてもあちらとしても次の案件が待ち構えている以上時間は割けない。もって後2分と言ったところだろう。
「もし、こちらがリークした事が漏れたら俺がどうなるか分かっているのか……」
「その可能性は、0%、だ。証拠は確実に、一片も残らず、闇へと【葬る】事を誓おう」
この一言が重要。人間は自分の言って欲しい事を相手に自信を持って言われるとそれに縋ってしまう傾向がある。
所詮、人間は自分を守るために信じたい事だけを信じるものなのだから……。
「……っ。仕方、ないか……受けよう」
「成立、だな」
相手に顔が見えないのをいい事に、ほくそ笑む。この上なく計画通り。後は最終段階へと移行するのみだ。
この段階になると媒体は紙がいい。確実な証拠、そしてより高度な伝達が可能となる。
必要最小限の情報だけを記入して綺麗に、この上なく丁寧に折りたたんでいく。
相手も同じことをしている気配を感じ、お互いに準備ができた事を確認する。
「いくぞ……」
「あぁ、3・2・1……GO……」
タイミングを見計らい、互いに交差するように紙が放物線を描く。
大丈夫、まだ、見られてはいない。次こそが一世一代の大勝負。
速やかに紙を仕舞うと、偶然を装い持っていた棒を床へと落とす。
静まり返った部屋に響く落下音。そして驚き音を立ててしまう交渉相手。
監視者の眼が勢いよく180度回ってこちらに向き、落ちたものと怯えている交渉相手へと向かった。
未だ渡した紙は相手の手元にある。隠す暇もなく襲い来る、監視者。
もう、逃げる事は……出来ない。
「この紙は……なんだ」
地を震わせる様な低い声に脅える一人の男。
有無を言わさず取り上げられた紙が開かれていった。
「……【葬る】、か」
そう、紙には【葬る】とただ一言だけ書かれてあった。
だがそれこそが男の知りたかった情報なのだ。
「俺の【国語】のテストでカンニングをするとは……いい度胸だな、ちょっと来い!」
「ひぃいいいいいい!」
男は教室から引きずられる様に出て行き、ほぼ同時に終了のチャイムが鳴り響いた。
「長谷部、どうしたんだそんなに笑って」
「あぁ、鳴神か……いや、カンニングはダメだなと思ってね」
「……やはりお前がやったのか」
「でもお陰で、また面白い情報が聞けたよ。ところで鳴神、君また振られたのかい……」
「残念ながら……難しいもんだね、告白ってやつは」
こうして、何事もなかったかのように、時間は動き始めたのだった。
『真実は闇へと向かう』、いかがだったでしょうか。
完全に雰囲気で押し切った短編でしたが楽しく書けたので良かったです(`・ω・´)
皆さんはどこで結末が分かったのでしょうか?
では評価感想お待ちしております。