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第六回『遺産』『無差別』『大切』

 どうも、お久しぶりです、兄琉です。

 今回のお題は『遺産』『無差別』『大切』です。


 それでは、どうぞ!




 三題小噺第六回『無差別に一途な思い』




「……僕と、付き合ってくれませんか?」


 春は、出会いと別れの季節。目まぐるしく世界が変わっていき、人々もまた変わっていく。

 散りゆく桜の木の下で、僕は心臓の高鳴りを必死に抑えながら想いを口にしていた。

 移ろいゆく心の中でただ一つ変わらないこの想いは、伝わるのだろうか。


鳴神(なるかみ)……君……」


 目の前の彼女は頬を桜色に染め、一瞬だけ、視線が交わる。

 小刻みに震える彼女の体。彼女もまた、同じように緊張しているのだろうか。

 僕は彼女から視線を外さない。何があっても、逃げ出さないと誓ったのだから。


 そう、彼女が何故か両拳を顔の前に構えて、ステップを刻みだしたとしてもだ。

 桜色の頬が薔薇の様に赤く燃え上がり、地面を蹴り推進力を増した拳が飛んできたとしても、僕は微動だにしなかった。


「今日だけで何人に告白してんのよアンタはぁあああああああ!!」


 彼女の右ストレートが綺麗に顔面にめり込み、鼻からは彼女の顔よりも赤い噴水があがる。

 名誉の為に言っておくと、避けようと思えば避ける事は出来た。しかし、甘んじて拳を受けたのだ。なぜなら、


「フフ……それが君の愛の形かい?」

「気持ち悪いわっ!」


 あぁ今日もまた愛を伝える事が出来た、と満足げな表情で僕は意識を手放していった。




「鳴神、君また振られたのかい……」

「残念ながら……難しいもんだね、告白ってやつは」


 次の日、一人の男が僕の顔に張られたガーゼを見て、呆れた声をかけてきた。

 男の名前は長谷部夕樹、僕に話しかけてくる数少ない男だ。


「これでお前の【無差別】告白も今月に入って15回目か? 頑張るねぇ」


 因みに、まだ新学期が始まってから4日目だ。

 確かに少し多いかもしれないが、それよりも気になるところがある。


「待て、無差別とはどういう事だい? 僕だって誰でもと言う訳じゃない」

「いやいや、回数と女のタイプがバラバラ過ぎてもう無差別告白事件って言われてるぞ?」


 彼は軽くため息をついて、頬に手をついた。相変わらず演技の上手い男だ。


「だけどその話を流しているのも君だろう? お陰で僕は振られる毎日だ」

「……ばれてたか。まぁでも、俺のお陰で告白の舞台は作りやすいだろう?」

「まぁ、ね」


 結局はギブアンドテイク。僕の告白話を聞かせる代わりに彼は女の子の情報を渡す、と言った関係が築かれていた。


「しっかし、見合いの話もいっぱい来てるって言うのに何でまた普通の子に手を出すかねぇ」

「見合いは愛がないじゃないか、僕は愛を伝え合いたいんだ!」


 拳を握りしめて勢いよく立ちあがる。周囲の視線がツララの様に突き刺さるが、気にしない。

 確かに、祖父の残した【遺産】目当てに僕の元には多くの見合い話が転がり込んでくる。

 だがそこには愛がないのだ。愛を伝え合う事が出来ない以上、見合いを受ける訳にはいかないのだ。


「ま、まぁ女なんて星の数程いるさ、頑張りな」

「……星ってのは手が届かないモノなのだけれど……」

「「…………」」


 気まずい沈黙が場を支配する。

 窓から流れ込む暖かな風が気持ち程度、和ませてくれた。


「……そんなお前に朗報だ、今日転入生が来るらしいぞ」

「随分と、無理やりだな……」

「女生徒で随分と可愛いとの話だ、期待していいんじゃないか?」


 無視して話を続けられる。どうやら転入生は随分と良家のお嬢様らしい。

 だが愛を伝えるかは見てから決める。それが僕が決めたルールだった。


「席につけぇー、HRを始めるぞー」


 そうこうしている内に担任が教室へと入ってきて、教室の空気を察知する。

 全体的にそわそわと落ちつかない雰囲気。時折入口に視線を向ける生徒が多いのがその空気の原因を明らかにしていた。


「あー、何故かお前らも知っての通り今日から転入生が来る。おーい、入ってこい」


 担任は長谷部を一瞥して、入口に声をかけた。

 ゆっくりと音を立てずに横滑りをする扉。全員の視線が一か所へと集中し、そして全員が息を飲んだ。


「初めまして、日向香織です……よろしくお願いします」


 扉を通って出てきたのは、綺麗と言うより可愛い、という言葉が似合いそうな少女だった。

 155センチ程度の身長に肩まで届きそうな少し癖のある茶色がかった髪の毛。大きな瞳が教室を見渡し、一瞬だけ視線を下に向けた。

 緊張を微塵も感じさせないその佇まいからは良家の雰囲気を感じさせ、教室は静まり返っていた。


 一方僕の心は、教室の空気とは逆に熱くなっていたのだけれど。


 そんな僕を長谷部が、ひどく冷めた目でいたのは気にしないでおこう。




「鳴神さん、何かご用ですか?」


 その日の放課後、僕は彼女を呼び出していた。

 場所は昨日と同じ桜の木の下。彼女は何も分かっていない様な顔で小首をかしげていた。


「実は、貴女にお話ししたい事があって……」


 一時の沈黙。二人の間を舞い落ちる桜の花びらが明確に時を刻んでいた。

 高鳴る鼓動を抑え、僕は何度言っても慣れないあの言葉を口にした。


「……僕と、付き合ってくれませんか?」


 彼女はひどく驚いた表情を見せ、口に小さな手を当てる。

 久方ぶりに見たその反応を見て、僕は彼女に愛を伝えてよかったと心から感じた。

 だが、すこしだけ時間が経って彼女の様子が少しだけ変わる。


「鳴神さん……会って間もない貴方に失礼かもしれませんが……」


 彼女はしっかりとこちらを見据え、目を外す事無く語りかけてくる。

 そして僕は、結局はいつも通りかと手を握りしめ、歯を食いしばった。


「鳴神さんは、告白する時しっかりと相手を見てあげていますか?」


 突然だった。てっきり普通に断られるだけかと思えば、そのどちらでもない返答。

 一瞬理解が追いつかず、意味の無い言葉が口をついて出てくる。


「今の鳴神さんからは愛を伝えたい、誰にでもいいから自分の愛を受け入れて欲しい、そのように感じるんです」


 たたみかける様に、こちらの返事を待つことなく彼女は言葉を重ねる。


「もっと、一人を……【大切】にしてあげてください」


 まるで、自分の事の様に彼女は言葉を震わせた。

 その表情からは先程までとは違う、弱弱しさすら感じさせて……僕は一歩も動くことができなかった。




「よぉ、どうだ16回目の失敗は」


 彼女の去った樹の下に座り込んでいると、一人の男がどこからともなく現れた。

 ずっと見ていたのだろう、その表情には笑みがない。


「あぁ、ようやく分かったよ……」

「おぉ……やっとか……」


 僕はゆっくりと立ち上がると、拳を天に突き上げた。


「つまり、僕は彼女……いや、日向さん一筋に生きればいいんだな!」

「……は?」

「一人を大切にしてください、って事はつまり……私だけを見てくださいって事だ! よし、日向さん、僕は今日から日向さん一筋に生きていきます!」


 男の咆哮は桜の樹を揺らし、花びらが舞いあがった。

 僕の本当の春は……これから始まる。




「いや、違うと思うんだけどなぁ……」


 男の呟きは、届くことがなかった。



 三題小噺第六回、いかがだったでしょうか?

 心の底ではこれでは駄目だと思いつつも愛に恵まれない少年は愛を叫び続ける……。

 そんな彼の心が伝われば幸いです。


 まぁ、その恋が実る事は無いと思いますがね……。


 では評価感想お待ちしてます!

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