第一回 『酒』『携帯』『火』
初めましての方は初めまして、そうではない方はこんばんわお久しぶりです、兄琉です。
今回の第一回小噺は『酒』『携帯』『火』。
ではどうぞ!
三題小噺第二回『A cat has nine lives.-執念は時に男を変貌させる-』
ねぇ、聞いた事ある?あの都市伝説。そう、ソレソレ。
お前困ってるのか?ならアレ探せがいいんじゃないか?噂だけどな。
クソ…どうにもならねぇ…アレするか。本当にあんのかよ…頼むぜ。
なんでもね、ある【携帯】の電話番号に電話すると…何でも夢がかなうんだってさ。
町には、色々な顔がある。
昼間に見せる明るい顔。
夜に見せる静かな微笑み。
朝に見せる柔らかな顔。
その中でも、道一本外れるだけでも町の表情は一転する。
男は路地裏の影にひっそりとうずくまっている。
真剣そのものの表情、無線機を握る手にはびっしょりと汗をかいていた。
恐怖に震えるその指で、ゆっくりと…無線機のスイッチを入れる。
「こちら、ドラゴン…こちらドラゴン、スカーレット応答せよ」
『こちらスカーレット…何か行動に支障が出ましたか?どうぞ』
「支障はないが、奴はこの近辺にいるとみて間違いないな?」
『えぇ間違いないわ、彼の発信機はドラゴンの半径20メートル以内にいると出ています』
「クソっ…どうなっていやがる!」
ドラゴンはあくまでも声が漏れないように小さく悪態をついた。
本当であればこのままゴミ箱の一つでも蹴倒してやりたいが、そうなると感づかれる可能性が高い。
親指の爪を口に持っていき、ガリッと強めに噛む。彼のイラついた時特有の行動の一つだ。
ザザッ!
「!!」
ドラゴンの後ろで何かが横切った!
すぐさま後ろを振り向くが、その姿はすでにない。
彼をあざ笑うかのように倒れた缶が転がっていた。
「スカーレット、いやがった…一旦通信を切るぞ」
ドラゴンはスカーレットの返事を待たずに無線機の電源を切る。
無線のノイズが向こうに勘付かれたら元も子もない。
ターゲットが通り過ぎたと思われる曲がり角に、ぴたりと張り付いた。
「(本当に…この向こうに、いるのか…?)」
ドラゴンは目を細めて臨戦態勢に入る。
彼の手に握られているのは、今回の為にスカーレットに頼んで手に入れた得物。持ち手のついた黒光りする筒状の得物はターゲットに当てる事さえできれば、相手は無事では済まないだろう。
人目に付けばドラゴンは無事ではいられない。御上の元に連れて行かれることになるのは確実だ…。
それほどまでに本気だった。
ドラゴンは緊張のあまり、自分の喉を通る唾の音がターゲットに聞かれたのではと疑心暗鬼に陥る。
「奴さえ、奴さえ捕える事が出来れば…俺たちは莫大な金を手に入れれるんだっ!」
ぎゅっと音が出るほど得物を握りしめ、ドラゴンは逸る心臓を抑えつつ角からゆっくりと覗き込んだ。
「…っ!」
目を見開いたまま、固まる。
ドラゴンは自分の息が上がるのを感じた。遂に、遂にこの時が来たのだ。
一旦角の影へと身をひそめ、通信機の電源を入れる。
「スカーレット、奴を…確認したっ!」
あくまでも小声で叫ぶ。
だが、自分の頬の肉がつりあがっていくのを抑える事は出来なかった。
『ドラゴン…遂にこの時が、来ましたね』
スカーレットの声も普段よりは嬉しそうに聞こえた。
普段から冷静で無表情な彼女にしてみればかなり嬉しい様だ。
「あぁ、しかも奴は【酒】をやっているのかは知らんが、確実に酔ってやがるっ」
『ふふ、やはり彼も疲れているようですね。我々の放った刺客に易々と引っかかってくれるとは』
「しかも現場付近に戻って来るとはな…、犯人は犯行後現場に戻るってのはあながち間違いじゃなさそうだな」
『私の分析通りだったでしょう?ドラゴン、早くケリをつけましょう。奴は狡猾です、何をするかわかりません』
「あぁ、分かったぜスカーレット」
そこで一旦ドラゴンは通信を切る。
先程の恐怖に満ちた指先とは違う、希望に満ちた震えだった。
「テメェも年貢の納め時だ…。何っ!」
思わず、ドラゴンは自分の得物を取り落としそうになる。
だがドラゴンもプロ、物音をたてる事は決してしない。
ドラゴンの動揺にスカーレットも気がついたのか、緊張が走る。
『ドラゴン、どうしましたか』
「奴めっ…!火器を持ってやがるっ!」
通信機越しに、空気が張り詰めるのがドラゴンには分かった。
震える声でスカーレットからの通信が入る。
『なんですって…こちらには気が付いているのですか?』
「いや、わからねぇ…だが奴は俺達と違って遊んでやがる。俺たちよりも火器の調子を見るのに余念がなさそうだぜ」
『ではその隙をついて突撃しては?ドラゴンならば可能でしょう』
確かに、直接対峙して一対一の決闘ならばドラゴンに分があっただろう、しかし。
「駄目だ、もし奴の武装解除をする前に周りに【火】を放たれたら逃げられちまう。生憎周りには燃えるゴミがいっぱいだ…。流石にボヤを放置して追う訳にもいかねぇからな」
『くっ…やはり高額の懸賞金がかかっているだけはありますね、狡猾で残忍なっ』
「いや…奴は、純粋なだけさ…全てに関してな」
『ドラゴン…』
スカーレットの言い聞かせる様な声に軽くため息を一つ。
一度だけ、空を見上げた。
「分かってるよ、奴のした事は大罪だ。逃さねぇよ」
『…ご武運を』
今度こそ本当に、通信機電源が落ちる。
次にドラゴンがスカーレットの声を聞くのは、全てが終わった後でだろう。
「奴が得物から注意を逸らした時が、勝負だ…」
ドラゴンはいつの間にか背中にびっしょりと汗をかいている事に気がついた。
今まで気がつかなかったのは、それだけ真剣だったと言う事だろう。
幸いにして今の季節は春。気温の変化でドラゴンの体力が激しく奪われると言う事はない。
ドラゴンはひたすらに待った。たった一瞬のチャンスをものにする為に。
そして五分後、ドラゴンにしてみれば五時間ほどの感覚だった時間が経ち、遂にその時が訪れる。
「来た…今だっ!」
一瞬後ろに下がって、体を屈めてからスピードに乗った状態で一気に影から飛び出す。
ターゲットは体を一瞬固まらせるが、その反応力は流石と言うべきか…即座に我に戻って火器を捨てて逆方向へと駆け出そうとした。
「逃がすかっ!」
それでも僅かにスピードに乗っていたドラゴンの速度には負け、ドラゴンの得物が唸りを上げた!
自分の頭上を見上げると、そこにはビルの壁で切り取られた綺麗な澄み渡る様な青空が覗いている。
ドラゴンは、顔をくしゃりと歪めると通信機の電源を入れた。
『ドラゴン、お疲れ様です』
「あぁ、スカーレットもな…」
ドラゴンは、今はただ…勝利の余韻に浸る。
「ありがとうザマス!このお礼は何と言っていいのやら」
「いやぁ、これが仕事ですから。しかし期日ギリギリになってしまい申し訳ありません」
「ワタクシ、ミーちゃんがいなくなった時どうしようかと思ったザマス。一度も家から出た事ないものザマスから…しかも三毛猫のオス、ザマス…。あぁ、よかったわねぇミーちゃん!」
「にゃぁ~」
明らかに太り気味なザマス婦人に抱えられた猫が一鳴きする。
「でも、健康診断をした時何故かマタタビを吸った跡が見つかったようですの…貴方達じゃないザマス?」
「…っ!いえいえ、めっそうもない!我々が見つける前にどこかで吸ったのでは?では、私はこれにて。これからも竜胆探偵事務所をよろしくお願いします」
ありがとうザマス~と甲高い声と猫の間の抜けた鳴き声に見送られ、男は豪邸を後にした。
「…竜胆さんお疲れ様です。」
「あぁ…紅井か、お疲れさん」
途中で男より少し背の低い女性が路地から姿を現す。
男が屋敷から出てくるのを待っていたようだ。
「ところで…あの猫の持っていた火器って何だったんですか?」
「…マッチだよ。間違えて燃えたら危ないだろうが」
「…疲れましたね」
「あのクソ猫に特上寿司全部食われたからな…当分質素な生活だぞ」
「ついでに竜胆さんの給料からあの捕獲網の代金引いておきますね、一万円」
「はぁ!?高っ!経費で落とせよ!」
「竜胆さんが無駄に黒いのがいいと言うからでしょう。スプレー買って塗装したんですから…網3,000円にスプレー1,000円、私に対する技術料が6,000円です。後、経費で落ちません」
ぐぁー、殺生な!と叫ぶ竜胆探偵とその助手赤井は自分達の住処へと帰っていったのだった。
『【私立竜胆探偵事務所】
犬の散歩から浮気調査までなんでもござれ!
竜胆が誠心誠意をもって解決いたします!』
二人は看板を一回だけ眺め、事務所へと入っていく。
大きな事件もない為金もなく、電話を引くことすらできない探偵事務所。
でも確かにそれは存在している…。
ただ…誰も知らないだけなのだった。
『酒』『携帯』『火』いかがだったでしょうか。
一気に書きあがったので何とも言えないこの気持ち…。
アホっぽい話でした。
サブタイトルにある『A cat has nine lives.』は『猫に九生あり』ということわざで、猫は執念深くなかなか死なない、何度でも生き返る。と言う意味らしいです。
猫を使いたかった、ただそれだけです。少しは関連する言葉にしたつもりですけど。
次回は『LOVE』『嫉妬』『師弟』でお送りします。
今回と同じ人に聞いたのにこの差はなんだろう。
では評価感想お待ちしております!