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第098話 ゴーストタウン

草原の丘を登るとその先に街が見えた。多くの建造物があったが、そのほとんどが石積の外壁だけで屋根は崩れ落ちていた。丈の低い雑草が街路を覆い、樹木が家の中から枝を伸ばしている。ゴーストタウンである。


街の名はクレシオン。三十年前までこの近くで金が採掘されていたらしい。黄金都市と称されていたようだが見渡す限り石と木と草ばかりで過去にそう呼ばれていたのが嘘のようだ。


金が出ていた時は賑わっていたという。メレフィス国のみならずエンドガーデン全土から多くの人々を集めた。もちろん、シーカーもそれに紛れていた。ラース・グレンも若かりし頃に来たそうだ。街の人々は誰しも気前よく、食うに事欠かなかった。


朽ち果てていようともその面影も残っていた。巨大な建造物が幾つもあり、教会の大きさも王都の大聖堂とそん色ない。驚くべきは塔である。高さは百二十メートルにも及ぶ。メレフィスでは城と呼べるものは竜王の門ただ一つだけであった。


当然、クレシオンにも城がない。しかし、塔があった。当時、街の有力者たちは黄金のおかげでバージヴァル家に匹敵するほどの力を得ていた。城が許されないとなれば塔を建てるまで。財力にものを言わせ建てたのがこの塔であった。


彼らにとって塔は解放のしるしであった。市民は誇りに思い、神に祈るように塔を見上げ、繁栄を感謝したという。


栄華を誇ったクレシオンも今はもう見る影もない。ただ、塔だけは健在であった。全て石造りの強固な造りで、周りの建造物が朽ち果てようとも未だその形を保っていた。


ラース・グレンはまさしくそれを城に見立て、敵を迎え撃つ構えだ。まずはクレシオンに敵が潜んでいないか確かめる必要がある。


イーデンはシュガールを放った。一匹が五十センチほどの大きさで五百匹に及ぶ。それが一斉にクレシオンに向けて進んでいく。


まるで川のようである。地を這うシュガールの群れは街に到達したかと思うと右に左に散って行った。俺たちはクレシオンを臨むこの丘で、ただ待てばよかった。





路地は雨が降れば川となったのだろう。家具や生活用品があちらこちらに点在している。


崩れかけた壁や扉の無い窓より、車輪が外れ傾いている馬車や草に埋もれる肖像画、割れた手鏡の方へ目が行ってしまう。生活の痕跡だけが残り、使っていた者がいないのはやはり不気味だ。


崩れた壁にツタが絡まり、家の中から木の枝が伸びている。人が全くいないと言っても死体は幾つかあった。離れられない理由があったのか、取り残された者達。


クレシオンの不幸はすぐ近くに芸術の都メイヤーがあったことだ。メイヤーにとっては幸運といえるのだが、金持ち達はこぞってそこに移って行き、健康な者や事情がない者はそれに従った。


クレシオンはメイヤーに、人も金目の物も根こそぎ持って行かれた。産業も農業もなく、金と消費だけの街だった。それが無くなってしまえば捨てられるのも道理だ。


俺たちは、このゴーストタウンを掌握している。敵は今のところ確認できず、イーデンのシュメールは未だ街中に広がり、索敵に余念がない。おかげでゴーストタウンの中を安心して進むことが出来る。


搭の名はガーディアンというらしい。ドラゴンの来襲に備えて監視塔を造りたいと時の王アンドリューに請願した。もちろん金も積んだ。別にもう一つガーディアンが建てられるぐらいの金額だった。


ガーディアンという名の由来はドラゴンから街を守る。といっても、ドラゴンの来襲なんて考えづらい。実は王の搾取から街を守る象徴としてそう名付けられたという。俺たちはそれを登って行く。


何の冗談か、俺たちはまさにその王権と対峙している。頭頂部に上がるとイーデンはシュガールの半分ほどを戻した。最大範囲の地雷を張るには魔力が足りないからだ。


塔は百二十メートルもの高さだった。当然、見晴らしがいい。頭頂部の形状は半径十メートルの円形で、監視搭というだけあってとんがり屋根はなく、視野は三百六十度解放されていた。竜王の角も俺たちが通って来た牧草地もよく見渡せる。


これほどの高低差があれば幾らなんでも昨日の、あの矢は心配ないだろう。逆に俺たちの方の矢は勢いが増し、かなりの飛距離を稼げる。地の利に通じるあたりラース・グレンもなかなかの策士だ。


イーデンがドラゴン語を唱える。空に大きな魔法陣が現れ、ゆっくり降りて来てクレシオンの街に消えて行く。塔を中心に半径五百メートルの円内に地雷がくまなく張られた。


ただし、地雷というだけあって地面に接しているところ以外では発動しない。屋根伝いで来る敵には、自在に動けるシュガールと俺のブラスター、そしてカリム・サンとシーカーの弓が対応する。冒険家のハロルドも狩りをする。当然弓は扱える。


準備は整った。後は敵が来るのを待つだけである。ふと、シーカーの女が、頭頂部を縁取るツィンネと呼ばれる鋸壁きょへきに走り寄った。そして、凸部分の上に立ち、南の方角を指す。


俺たちがクレシオンに入る前に待機していた草原の丘だ。うようよ兵士が現れ、十人五列に陣を組み、弓を構えた。


追っ手は小隊―――。これほどの数の兵が俺たちを追っていたとは夢にも思わなかった。


多くの人を伴っての移動は地方領主や行政区画のトップに必ず目を付けられる。俺たちは戴冠式を利用して旅立ったが、敵も戴冠式を利用したということか。


田舎に帰って行くおのぼりさんツアーを装った。にしても、あざやかと言わざるを得ない。俺たちにまったく気取られずに付いて来た。相当な間隔の距離を保ち、追跡して来たんだろう。兵も優秀だが、斥候もよっぽど優秀だ。指揮官は言うに及ばずである。



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「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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