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第096話 暗闇の野営

ほとんど誰も通らない街道に、ほんのまれだが、牧草を積んだ荷馬車がカラカラと、わだちに車輪を転がして進んで来る。見渡す限り草原で、家屋は一軒も視界にはない。いるのは馬だけだ。


時間がゆっくり流れている。バカンスなら心地いいだろうが、気がいているせいか、こうも時の流れが遅いと要らないことを考えてしまう。本当に敵が襲って来るのかってことを。


ラース・グレンに会いに行った時、俺たちに尾行が付いた。それは紛れもない事実だ。まぁ、王族が街中を歩いているのだ。理由はどうであれ、少なくとも他国のスパイは気になるところだ。それに逃亡したハロルド・アバークロンビーに魔法を使った一件もある。


問題はだ、俺たちが今も尾行されているかってことだ。そもそもあり得ないのだ。戴冠式の最中に旅立った。王嗣おうしの立場にある俺が戴冠式に出ていなかったのはなんのことはない。悪名高いキース・バージヴァルだからだ。


ブライアンに王の座を盗られて不貞腐れ、ボイコットしたとしてもなんらおかしくはない。メレフィス国民じゃなくてもそう思うはずだ。その証拠に他国の王族は誰も俺に接触を試みようとはしなかった。


出立の日時を報せた者はエリノアだけだ。もちろん、エリノアはソーンダイクにそのことは告げていよう。だから、リーマンが出発前にリストを持って来た。彼らの中に裏切りもんがいるだろうか。


答えはノーだ。誰も出立の日時を漏らすはずはない。エリノアはお友達をエトイナ山に送り込みたいらしい。それはソーンダイクも同じことだ。彼らが妨害するとは考えにくい。


あるとすれば、やはり他国の王族だ。戴冠式とか関係なく以前から俺を泳がし、ずっと監視していた。目的はやはり俺たちのエトイナ山行きを阻むと同時にメレフィスの崩壊。ちょろいと思うだろう。俺なら簡単に捕まえられると。


さらに言うなら、間違ってもカールはない。フィル・ロギンズのおかげでカールの居場所はほぼほぼ見当がついている。この旅を終え、王都に帰還したら確証が得られよう。おそらくは、今のやつに俺への興味も、構っている暇もないはず。


日が沈もうとしていた。一面赤く染まった西の空に竜王の角のシルエットが浮かび上がる。


見渡す限りの草原にぽつんと三本、木があった。どれも高さは三、四メートルほどで低い上、樹勢も衰えている。風雨にさらされているからなのだろうか。それとも、馬に葉っぱを食われて弱ってしまったのか。


馬を縛るには丁度良いようだし、俺たちはその木の袂で野営することにした。穴を掘って囲炉裏を造り、木の枝を折って、火にくべた。


どうも、嫌な予感がする。先ほどまでちらほら見受けられた馬がいない。夕暮れとなって寝床に帰ったのか。家路につく鳥の姿もない。誰かに見られているような気配も感じる。


「イーデン殿、地雷を頼みたいのだが」


うなずくとイーデンはドラゴン語を唱えた。上空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。それがゆっくりと降りて来て地面に消えた。


地雷はドーナツ状に展開した。効果範囲は半径十メートルから五百メートルの間だ。俺とイーデンを除いて他の者はイーデンが魔法を解くまで半径十メートルの円から出ることは叶わない。


もし万が一、追っ手がいれば、当然この罠に引っ掛かる。イーデンから聞いた話ではネズミやウサギなど小さなモノには反応しないそうだ。いちいち五月蠅くないのでそれはそれでいいが、馬やシカなら発動してしまう。


それでも人との見分けは認知できるので心配ない。その時点で状況は把握できるし、地雷の発する音と光を俺たちも見逃すはずはない。眠っていようとも、いざって時には対応できる。


それでもやはり、万が一ってこともある。地雷に任せっきりにせず、俺たちは見張りを交代で立てることにした。


イーデンを除いて順に一時間ずつ一人が受け持った。十人いるのだから余裕だろう。俺が見張りに立ったのは深夜だった。


月は見えず、星もなかった。たき火の灯りが届く範囲以外は真っ暗で、しかも、遮るものはない。ラース・グレンはよくもこのコースを選んだものだと思ってしまう。イーデンがうってつけの魔法を持っているから良かったものの、明日にでも問いたださないといけない。


場合によっては、今後どこを通るか行程を知る必要がある。タイガーの居場所は言わないまでも、ある程度の通過予定地は把握する。後手後手だと対応しきれるものもしきれない。


見張りを交代し、横になったすぐであった。地面に幾つもの衝撃音と馬のいななきを聞いた。


弓矢での攻撃である。飛んできた矢は地面にほぼ垂直で突き立っていた。数も尋常ではなく、それが第二波、第三波とやって来る。まるで雨のようである。瞬く間に地面が矢で埋め尽くされていく。


皆それぞれ、盾や荷物を自分の頭の上にかざし、身を守った。木の袂に身をひそめる者もいる。囲炉裏の傍にいた者はすでにハリネズミのようであった。死んでも、次から次へと矢を受けている。


一方で、木がある方はそれほどでもなかった。馬は一頭横たわっていたが、他はいななきを発し、手綱を切ろうと暴れている。間違いない、敵は炎の明かりを目標に矢を放っている。


俺は腰のブラスターで囲炉裏を撃つ。ボンっと火の粉や土が跳ね上がり、囲炉裏は地表からえぐり取られた。


暗闇である。いななきと馬の暴れる足音だけが草原に響いていた。


矢の雨は止まったようだ。思ってた通り、敵は炎の明かりを目標に矢を放っている。やがて目も暗闇に慣れ、イーデンがどこにいるか分かった。イーデンの方も俺が無事なのが分かったようで俺に向けて首を横に振っている。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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