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第095話 チェックポイント

ラース・グレンの案内に従って俺たちは付いて行くだけだ。道中、追って来るかどうかも分からない敵を念頭に入れておかねばなるまい。少しでもその気配があれば対処する。


全てラース・グレン次第である。アンダーソン邸からリーマンと一緒に王都に帰った時はグダグダだった。移動自体に目的があり、ピシッと目的地に向かわないのはもう慣れっこだ。


いずれにせよ真っすぐタイガーの下には向かわない。方向は北に向かっていた。ヘルナデス山脈を左手に進んでいる。


街道の先の霞ががっている山はヘルナデス山脈の最高峰といわれる竜王の角だ。形は氷山のようで、頂上が尖っている。恐ろしい名と裏腹にメレフィスでは親しまれ、そのふもとにあるメイアーという都市は観光地にもなっているらしい。


メイアーは芸術家からも愛されていた。歴史に名をのこす巨匠を輩出し、今でも多くの著名人が居を構える。風光明媚な街で温泉も湧き、パワースポットでもあるという。王都から約百五十キロほどの距離にあった。


俺たちはメイアーへ向かう街道にいた。なるほど、とラース・グレンの考えを察した。悪童キース・バージヴァルは腹違いの弟をよっぽど許せない。王都から離れ、メイアーで鬱憤晴らしをしようとしている、と王都にいるスパイに思わせたかったのだ。悪くない手である。


街道の辻には必ずといって茶屋とか、お食事処があった。店の前にはたくさんの馬が結ばれ、多くの人が出入りしている。


戴冠式の余波かメイアーとの行き来の駅馬車は閑散としていた。王都に多くの人を送り届けた後だろう。帰りの便は後二、三日もすれば満杯だ。


その一方で、荷馬車とは絶えまなくすれ違った。荷台は満載でこれから王都に行って売りさばくのだろう。どこかの問屋におろすのかもしれない。今が稼ぎ時だ。


王都の周辺には多くの中小都市があった。大喰らいな王都の腹を満たすため、あるいは住居不足を補うため、自然発生的に出来た街なのだろう。王都なしではやっていけず、衛星都市として都市圏を形成している。


俺たちが進む街道の先にクレハという町がある。大きな河があり、橋が架かる。メイア―に向かう街道の途中ということもあり、また、王都で稼いだ金が落ちるのもあって、もっぱら夜が賑わう宿場町となっていた。


衛星都市としては異質だ。街道自体も含めて、王都の市民の保養と娯楽を担っている。俺たちはそのクレハには入らなかった。


密かに本街道を逸れ、脇街道を進んでクレハを迂回し、渡し船で川を渡った。その日はもうちょっと先に進めたが、追っ手の有無を確認するため、宿を借り、休むことにした。


渡し場の宿は二軒しかなかった。ほとんど客が来ないのか、宿に手入れはされていない。床がきしみ、部屋の隅には蜘蛛の巣が張っている。ベットはカビ臭かった。


川もあり、人も居ず、旅のチェックポイントとしては申し分ない。ラース・グレンも考えているようだ。


渡し場の宿も一昔前までは多くの軒を連ねていたという。街道の先には馬の生産地があり、さらに行けば金鉱の街クレシオンである。そのクレシオンが三十年前に廃鉱となり、それでこの渡し場も寂れた。


俺たちは宿の窓から渡し場を監視した。対岸へと向かう渡し船には多くの馬が乗せられていた。この渡し場は寂れたと言っても無くなりはしなかった。そもそもこの渡し場は馬を王都に運搬するために造られたものだ。本来の役目に戻っただけ。


渡し場から半日も行けば牧草地に入る。竜王の角の裾野で標高が高く、清涼地であることから王都で使われる馬のほとんどがそこで生産育成されているという。


王都側から来る船には馬の生産者と思しき者が乗っていた。手ぶらで、自分が乗る馬のみを連れている。追っ手らしき者は確認できない。


戴冠式に出ず、多くの人に紛れての出発。メアリーに行ったと思わせるフェイク。どうやら、王都のスパイたちは策に引っ掛かってくれたようだ。


だが、もし、これで本当に追っ手がいたなら。


それこそ事は深刻だ。ただのスパイでなく、敵だと認識していい。王都にいた時のように俺たちの後ろからノコノコ付いてくるような小物だったら助かる。もし、俺たちに気付かれずここまで付いて来たなら、それはただの情報収集とわけが違う。


考えすぎかもしれない。ブライアンの戴冠式は何もなかった。


いや、何もなかったのではないのかもしれない。ソーンダイク家の梃入てこいれがあったのだ。手を出そうにもおいそれとは手出しができなかった。ソーンダイク家だけではない。スパイ対策の能力を持つリーマンもいる。


もし敵がいて、狙うとしたら、俺たちだろうなと思ってしまう。俺たちが王都でシーカーと接触したのは敵の知るところだ。さらには、行動を共にしているのを掴んでいるのなら最悪だ。俺たちの目論見を大方把握していると見ていい。


魔法が誰しも使えることとメレフィスの民主制は同意義だ。どちらか一方が欠けても片方は成立しない。俺たちがここで倒れようものなら、メレフィスの夢は水の泡となって消える。


人知れず、静かに暮らすシーカーにも巻き添えを食らわしたくない。俺たちは慎重に動かなければならない。王都を離れ、人の目が及ばない土地を進んでいくのだ。敵にしても願ったり叶ったりだ。ブライアンを狙うリスクを考えたらこんなチャンス、またとない。


俺たちは、馬車が擦れ違えない程の街道を進んでいた。竜王の角は左手に大きく見えている。牧草地には多くの馬が放し飼いになっていた。


牧草地を突っ切って竜王の角へ向けて進めば、メイアーに向かう道にぶつかるかもしれない。運が良ければそれこそメイアーが目の前に見えてくるであろう。もちろん、ラース・グレンにその気はないようだ。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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