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第093話 戴冠式

王都はスパイが溢れている。もちろん、メレフィスは手をこまねいているわけではない。ゼーテ国から何人もの王族が秘密裏に竜王の門に入ったと聞いている。


リーバー・ソーンダイク王太子が指揮を執り、リーマン・バージヴァルが補佐する。スパイ戦ならリーマンの十八番おはこ。宮中でなら尚更だ。やつがいるならアーロン王の時のような事は起こらない。


それでも、もしやという場合もある。魔法に関わる人間が王都から二人もいなくなるのだ。俺たちは出発までの間、聴衆に混ざり、ブライアンが人々に身をさらす一時だけでも護衛する。


当然、俺たちはリーバー・ソーンダイクらの護衛計画には入らない。リーバー・ソーンダイクは張り切るだろう。ブライアンを守り切って、ゼーテ国の力をメレフィス全国民に見せつけるいい機会なのだ。


聴衆に混ざって王を守ろうっていうのは俺たちの勝手な行動だ。組織的に動いていないので何かあったら対処しようってレベルになるのだが、まぁ、いないよりはましと考えてくれてもいい。ソーンダイクがどれほどの数の王族を揃えているかわからない。だが、少なくともこっちは魔法に対応できる者が二人もいる。


少しばかり気掛かりなのはラキラ・ハウルだ。今回の戴冠式で王都に向かっているかもしれない。


すでに魔法解禁の件は公にされている。魔法省新設で魔法の取り扱いがすでに議会で話し合われているからだ。ブライアンによる権力移譲も都市伝説かのように市井に漏れ伝わっている。人々の間ではそれを信じるか信じないかで盛り上がっていた。


新王の、最初の御言葉は多くの人々を集めるに違いない。そう言った訳でラキラ・ハウルも来る可能性はある。彼女もローラムの竜王と約束したのだ。王国と歩調を合わせないといけない。その目で真偽を確かめたいと思うのは至極当然のことなのだ。


入れ違いになってしまわないだろうか。最悪、入れ違いになったとしてもラキラはすぐに引き返してくれると思いたい。俺がいない王都に長居はしないはずだ。


そうなれば多少の時間のロスは否めない。といっても、ブライアンの安否には代えられない。リスクの大きさから考えて、やはり出発は戴冠式直後がベストなのだろう。


俺はそれをエリノアに告げた。エリノアは竜王の門に旗を掲げる段取りも考えていたようだ。俺の案はそれより時間を大きく短縮できる。ふと、緊張感が抜けた素の表情をエリノアは見せた。どうやら戴冠式後に旅立つ案は気に入ってもらえたようだ。





戴冠式は大聖堂で行われる。法王がゼーテ国の自治領からお出ましとなっていた。法王の手によって王冠がブライアンの頭に乗せられ、王笏と宝珠がゆだねられる。その他にブライアンは法王から“信仰の守護者”という栄誉称号を頂く。


ブライアンは王となったと同時に教会から特別な爵位を得たということだ。教会の風下に立ったとも言える。それはアーロン王暗殺を教会も承知していたと裏付けられる。エリノアは全方位くまなく手を打っていた。大した女だ。王権を上手く切り売りしている。


それを考えればキース・バージヴァルはバカというほかない。エリノアの場合は高く売りつけている。キースの場合はくすめ捕られようとしていた。


多くの人々が大聖堂の前に集まっている。ブライアン王はまだ姿を見せていない。現れるのは階段のずっと上の、大聖堂の正面扉からだ。俺たち観衆は階段を登れず、大聖堂からずっと下の広場にいる。


メレフィス全土から人々が新王を見ようと大聖堂に押しかけていた。それに例の新王の御言葉だ。噂が本当か真偽を確かめずにはいられないのだろう。広場には収まりきらず、街路にまで溢れかえっている。王の姿が見える広場は芋を洗うようであり、身動き一つ出来なかった。


今何かあれば大変なことが起きる。人々はパニック状態に陥り、将棋倒しでもなったら多くの命は失われる。新王誕生というのに縁起でもない。


昨夜、リーマンが俺の部屋に現れた。俺の出発が戴冠式後だと知って会いに来た、というのは表向きで、本当の理由は契約の旅のメンバーリストを見せるためだった。


メレフィスは二十人でゼーテも二十人、イザイヤ教徒は十人、合計五十人が第一陣としてエトイナ山に向かう。


注目すべきはメレフィスの二十人だ。リーマンに言わせれば、一人を除き残り全てがカール・バージヴァルの御学友らしい。そもそもエリノア自体がカールの元恋人なのだ。言うまでもなく、誰か分からない一人を加え二十人全てにエリノアは面識を持っている。


その中には女性も含まれている。エリノアのお友達たちなのであろう。魔法についての閣議が開かれた時、エリノアは契約の人選だけに口を出した。リーマンが何を言わんとしているか分かる。エリノアは何かを企んでいる。


ブライアンの後見人にもならなかった。魔法にだけ注力しているようにも見受けられる。下級貴族の出だから魔法に対しある種、憧れがあったのかもしれない。しかし、あのエリノアだ。そういったセンチメンタルな考えは心の隅に仕舞っているのだろう。


つまり、リーマンは俺に警告をしに来たのだ。多くは語らなかった。リストを見せ、その者がどういうやつか言えばその先は別に言う必要もない。言うなれば、これはサービスだ。


無料ほど怖いもんはない。リーマンは俺とエリノアに喧嘩でもさせようと思っているのか。いや、おそらくは、そこまでは考えていない。お試し品ぐらいに思っておこう。


冗談はさておき、言うまでもなくリーマンはソーンダイクに肩入れしている。エトイナ山への旅先でエリノアの二十人の動向がゼーテ国メンバー全員の安否を左右するのは言うまでもない。


ちゃんと監視しとけよ。それをわざわざ俺に言いに来た。リーマンめ、小賢こざかしいまねを。



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どうぞよろしくお願いいたします。


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