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第089話 ブロンズ像

シュガールの得た情報は遠く離れていようがあるじへと届けられる。ハロルドの生体電流信号を感知し、そこに近付いているのか、遠ざかっているのか、イーデンは手に取るように分かる。もちろん、お任せ機能付きだ。


そのシュガールを、イーデンは五十体ほど放っていた。アンダーソン邸で戦った時は俺を丸呑み出来るほどの巨大なシュガールを三十体は出していた。放ったのはたった五十センチほどのシュガールだった。イーデンはまだ余力を残している。


イーデンが、終わりましたと俺に言った。呆気なかった。ものの十五分か二十分ぐらいだ。


全然懲りないというか、何か対策でもあるというなら逃げるのも理解できる。だが、ただ闇雲である。めげないという面で言えばハロルドはストレスに強く、精神的にも身体的にもタフといえる。それに長城の西から生還した。やつはよっぽどツキにも恵まれているのだろう。実際今回も恩赦されようとしている。


いや、恩赦は二日後に出される。今は恩赦が出される前だから、かっこうとしては王太后陛下が召し上げて、その王太后陛下から俺に従僕という形で与えられる。エリノアに頼んだのはそのためだ。


二日待ってその後で自由の身になればやつとしては万々歳であったろうが、やつにもう選択の余地はない。幸運かどうかは本人の受け取り次第というわけだ。


やつにとって悪い話ではないと思う。やつの目的と俺の目的は合致しているはず。逃亡し、どこかでぶっ倒れているハロルドの下へ俺たちはこぞって向かった。


ハロルドはやはり道に横たわっていた。多くの通行人は恐れで固まり、助けに近づく者はいなかったようだ。おそらくはシュガールから逃げ惑い、襲われたところを見たのであろう。魔法を目の当たりにすれば誰にでもわかるはずだ。道に横たわっている男を攻撃した相手は王族。


その王族ってぇのが俺たちってわけだ。カリム・サンとフィル・ロギンズがハロルドを肩に担いて石畳を引き摺って進む。人々は割れるように道を開けた。畏怖の念が伝わってくる。馬車にぶち込み、竜王の門へと急がせた。


魔法云々もそうだが、道に転がっていた男を連れていくのがキース・バージヴァルっていうのも良くない。見物人らは男の末路を思い巡らす。想像たくましく男の色んな死に方を思いつくかもしれない。俺に追われていた理由も面白がって話すだろう。今夜は酒場で大盛り上がりだ。


やがて竜王の門に入り、意識が朦朧としている内に俺の部屋に入れた。こいつの行動を止めるには鎖や首輪ではどうにもならない。それは二回の逃走で身に染みた。こいつは自分がしたいことしかしないのだ。


早々に、目的が一致していることをこいつに理解させないといけない。追いかけっこやかくれんぼなぞしている暇はない。


椅子にうなだれてハロルドが上目使いで俺たちを見ている。虚ろだったハロルドの視線はやがて焦点が合い、話を聞けると判断した俺はパワード・エクソスケルトン、別名・強化外骨格をハロルドの前においた。


「これがなにか知っているな」


「知らない」


力なくチラッと見ただけ。


「私には関係ない」


興味がないようだ。自分の発掘現場からこれが出てきて、それを俺が持っているとは夢にも思わない。それよりもこいつの今の関心事は、発掘でもないのになぜ自分が王族に拉致されたかだ。そんなのは今から俺がこいつの頭から綺麗さっぱり吹っ飛ばしてやる。


「関係ない? それが大ありなんだな。これはおまえの発掘現場で拾った」


ほらな。ハロルドの目の色が変わった。いきなりスイッチが入ったようだ。強化外骨格に飛びつき、手に取って、細部を確認している。


「ハロルド、それは凄いぞ。身に付けると何百倍の力を出せる。見せてあげようか」


ハロルドがうなずいた。俺は強化外骨格を装着する。さほど時間はかからなかった。前の世界ではタキシードを着るように身に着けていた。


ブロンズ像が俺の机に置かれていた。ペガサスのような馬が翼を広げていて、今にも飛び立とうとしている。その左右の翼を俺は馬の背中側にくっつけた。そして、首も左側に曲げてやった。


「どうだ?」


そのペガサスを、俺はハロルドに手渡した。


「信用するか?」


ペガサスを受け取ったハロルドの目の輝きは尋常ではない。ペガサスの重みをしっかり感じ、トリックでないと確信するとペガサスを捨てた。床にゴトンとペガサスの落ちる音がする。


言葉も出ないのか、俺に近づいてくるとまた強化外骨格を触り、嘗め回すように見る。


「これ一つだけですか? 見つけたのは」


「残念だがな。発掘現場はアーロン王によって埋められている」


「私が呼ばれたのは発掘を再開しようというのですね」


「いいや、残念だがそうではない」


ハロルドは眉をひそめた。自分が呼ばれた理由を考えているのだろう。はっとし、一歩下がった。秘密を知っている人間を亡き者にしようとキースはたくらんでいる、とでも思ったか、顔が強張っている。


「心配するな。出所はここにいる者しか知らないが、別に秘密にしているってわけではない。俺はこれを着て、王都でも、州都でも大暴れしている」


ハロルドは、はぁ? って顔をした。


「では、発掘なされればよろしい。殿下はそれがいかに強力か、身を以て御存じなのでしょう。なぜなさらないのです」


「これは誰にも動かせるってもんじゃない。いくら発掘してもおまえたちには無用の長物だ」


「じゃぁ、なぜ私を」


「動かせられないのに俺は動かせた。その理由を知りたい」


それは嘘だ。俺はこれがなんであるかを知り、動かすべくして動かした。ハロルドは冒険家であるが、学者だ。こういう云い方をすれば、学者の血が騒ぐであろう。案の定、ハロルドは黙りこくった。頭を働かせているようだ。




「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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