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第088話 冒険家

ハロルド・アバークロンビーは知性的でいて、そのくせ後先考えないバカであり、そして、タフであった。


俺たち四人がメディシン刑務所を訪れるとハロルドはこう言った。


「用があるんなら二時間後にしてくれ。私は今、日光浴を楽しんでいるんだ」


ハロルドは床に腰を下ろし、小さな窓から差す日に当たっていた。


体の半分ほどだけが照らされている。窓は東向きであった。昼になれば日差しは失せてしまい、独房はさらに暗くなるであろう。


ハロルドの髪色は金髪で、より黄色がつよいバターブロンドというやつだ。それを肩まで伸ばしていた。眉は濃く、髭は喉ぼとけが隠れるまでになっている。髪や髭をかき分けて大きい鼻がどかっと顔の中心に鎮座し、まるでヨークシャー・テリアのようだった。


与えられたたった一枚の毛布を下に敷き、足を抱くように座っている。俺たちには見向きもしない。


「無礼であるぞ。ここにおわすはキース・バージヴァル殿下である」


見かねてカリム・サンがそう言うとハロルドはチラリとだけこっちに向く。それから全く応答がない。


カリム・サンは呆れた顔を造り、それを俺に見せた。俺は、わかったとうなずいて、日を遮らないようその横にしゃがんだ。


ハロルドの視線の高さに俺の顔を合わせる。ハロルドの顔は毛で覆われていたが、ニヤついているように見える。


「近く恩赦が出る。まだ発表されていないが、お前だけは特別に今すぐ釈放だ」


「信じがたいな」


見向きもしない。横顔だけだが、やはりハロルドはニヤついている。何がそんなに面白いのか。


「アーロン王がお隠れになった。新王即位の慣例だ。お前は今すぐ釈放だが、お前だけが釈放されるわけではない」


「なるほど。それでわざわざ殿下自らが伝えに来られたってわけか」


ハロルドは立ち上がった。俺たちを無視して扉へと向かう。イーデンがハロルドの肩を掴んだ。


「無礼であるぞ」


「無礼? あんたらはカールの命でここに来たのではないのか? 私は特別扱いなんだろ」


カールが王になると思い込んでいる。ハロルドはまたカールと組んで発掘を続ける気だ。


「いいや、王になるのはブライアンだ。カールは行方知れず。どこかに消えた」


「消えた?」


青天の青霹靂へきれきといった表情である。驚くのも無理はない。ハロルド・アバークロンビーが牢に繋がれている一ヶ月ほどの間で情勢はめまぐるしく変化したのだ。


俺たちがここに来た理由を説明するには、ちょっとした時間が必要だった。ハロルドはバカではない。色々と尋ねて来るだろうし、話せばわかってくれるだろうとも思っていた。


そう高を括っていたのが間違いだった。ハロルドは俺たちのちょっとした隙を見て、イーデンの手を振り切って牢から出て行ってしまった。言い遅れたが、やつは二度脱獄を試みている。


脱獄といっても幼稚なものだ。腹が痛いと夜中暴れて、様子を見に来た看守を振り切って逃げようとした。もう一つの脱獄も手口は違えどもやはり看守を油断させて、その隙に逃げた。


そういった情報はすでに俺たちは得ている。詰めが甘いというか、無謀というか、後先を考えないというか、思いついたらどうしてもやりたいのだろう。失敗は恐れていない。驚くほど前向きなのだ。ハロルドを知的なようでいてバカだと称したのはそのためだ。


今回も同じようなことだった。まさかとは思ったが、万が一に備えて事前に雷の蛇を通路に潜ませてある。イーデンが用いる魔法で、イーデンはそれをシュガールと呼んでいた。


シュガールは大きさも自在で、簡単な命令なら実行できる。例えば犬と同じように目的物を特定し、追うことが出来る。犬の場合なら臭いだが、シュガールの場合は生体電気である。


強化外骨格も生体認証に生体電気を採用している。シュガールも細胞が発する固有の電気信号を感知して目標を察知する。


1メートルほどのシュガールがハロルドを追っていた。長い通路をひた走るハロルドだったが、見る間に追いつかれ、今回の脱走もあえなく失敗に終わる。


カリム・サンとフィル・ロギンズが通路にのびていたハロルドを肩に担いだ。ハロルドの体臭はひどかった。さっきは独房自体、悪臭がひどかったから気付けなかった。


馬車に乗せるどころか、そこまで行くこともままならない。ハロルドに接している二人は音を上げた。


メディシン刑務所の風呂を借りることにした。髪と髭は竜王の門で整えるとして、まずは臭い取りである。悪臭を放ったままでは王宮に入れられない。かといって、公衆浴場を使うわけにもいかない。浴場の主人や客に迷惑をかける。


湯船に放り込み、ごしごし洗って新しい服を着せた。その頃にはハロルドは意識を取り戻し、自分の足で馬車に乗り込んだ。


竜王の門に行くには市街地を抜けるのが手っ取り早い。市街地から離れ、大きく回り込んで竜王の門に向かうことも出来るがもうその必要もない。ハロルドは罪を許されたのだ。罪人を護送しているのでなければ、誰かがハロルドを奪いに来ることもない。


ただ、人ごみに紛れて逃亡する可能性はある。案の定、馬車から飛び降りたかと思ったら人ごみの中に消えていった。


俺たちは慌てなかった。ハロルドがバカなのは承知している。馬車の中で待っていた。イーデンのシュガールがハロルドを見つけ、さっきのように電撃を喰らわすのは時間の問題だった。

 

シュガールはすでにハロルドの生体電気信号を覚えている。メディシン刑務所の通路で襲った時、それを感知し、インプットされている。イーデンがハロルドを追えと言えばシュガールは、魔法を解かれない限り永遠に、ハロルドを追い続ける。


そうでなくざっくりと、人を襲えと言えばシュガールは手あたり次第、人を襲い続けるだろう。人か人でないかは生体電気で見分けられる。そうでなく、動くものを襲えと言えば生体電気があろうがなかろうが動くものがなくなるまでシュガールは攻撃し続ける。



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「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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