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第084話 委任

八百長試合だったと他国では噂されている。その証拠に負けた神の手アレクシス・チャドラーは未だ生きている。まったく面白くなくも何ともないオチだった。


王族が罪を問われるはずはないのだ。ローラムの竜王と会う旅にしても、通常一ヶ月以上かかるところを一週間で走破したと聞いた。


品性の欠片もない、とソーンダイクは正直イラっとしたという。嘘をつくのが決まりといえども、少なくとも他の王族との足並みは揃えてもらわないといけない。


どの王国でも帰還式の口上では真実が語られない。言うまでもなく長城の西はどの国から行こうがローラムの竜王の土地である。


吐息一つ、長城から西のモノは持ち帰ってはならない。だから、メレフィスだけでなくどの王国も、帰還式ではありもしないことをあえてホントのことのように語る。どうせなら面白い方がいいってわけだ。


しかし、それも節度というものがある。他の王族より突出した武勇伝は外交問題となり得る。特定の王族が他より優れていると宣伝しているようなものなのだ。しかも、その内容は全くの創作物である。


帰還式で怒りを爆発したアーロン王でなくとも、周りと合わせている他の王族がキレるのは至極当然のことなのだ。そして、そう言う誤解を生まないためにも介添人という役割の者が随行する。


他国も含め、歴代の口上を頭に入れておく必要があった。そんな介添人であるはずの者が何を血迷ったか、口上を述べたのはあの聡明で名を轟かせているカール・バージヴァルである。


ソーンダイクは頭に来た一方で、世迷言よまよいごとでは済まされないような気もしていた。俺をじかに見て、尚更思ったという。


アーロン王は、落馬して死んだと思われたキースのお別れ会に出なかった。アーロン王に憎まれていたのは推察できる。現に帰還式での魔法の攻撃は誰が見ても本気だったという。キースはそのアーロン王の魔法を事もなげに退しりぞけた。


ローラムの竜王に会ったのは間違いない。情報によればエトイナ山への旅は帰還式の日からさかのぼって出陣式の日まで、確かに七日間であった。ソーンダイクも若かりし頃、ローラムの竜王に会いに行った。旅は優に一ヶ月以上を要した。


「わたしは真実を知りたいのだ」


ソーンダイクが心配しているのは二年前のはぐれドラゴンの件だ。それについて帰還式でカール・バージヴァルが語っていた。二年前のドラゴンは斥候で、近くザザムやガリオンの大軍がローラム大陸に押し寄せてくると。


概ね合っているのだが、真実は違う。人々がたちまちパニックに陥らないための方便だった。ゼーテを襲ったのは長城の西からやって来たローラム大陸のはぐれドラゴンだ。ローラムの竜王の力が弱まり、二年前のあの瞬間、結界が一時解かれてしまった。


ローラムの竜王の寿命が尽きようとしている。だが、やはり今はそれを公には出来ない。時期尚早、少なくとも公表するは我々の準備が整った後だ。いま言えるのは、帰還式でのカールの言葉をなぞることのみ。


「ザザムとガリオンの竜王はますます力を付けてきている。一方、ローラムの竜王の力は昔ほどではない」


「無礼を承知でお伺い致します。殿下はそのことを誰にでも納得させられる証拠はお持ちですか」


「長城の西に行けばすぐ分かる。庭師の数が減り続けている。それでも納得出来ないのであればセイトに行けばいい。面白いものが見られるはずだ」


「それはつまり、ロード・オブ・ザ・ロードも安全でなくなるってことですか。しかも、殿下のお話ではこれからますます別の大陸からドラゴンもやって来る。忌々しきことです。二年前の騒ぎが原因ですでに我が王家の人間が一人、命を失っている。戦闘中、傷を負ったのです。その時は命を取り留めたが半年前に亡くなりました。ドラゴンが相手なら平民は役に立たない。魔法が使える我々が出張らねば。かといってこれ以上、ソーンダイク家の一員を死なすわけにもいかない」


分かるぜ。はぐれドラゴンでそのざまだったら、賢いドラゴンならさもありなんってわけだ。


「わたしは我が国王陛下より全権代表としてつかわされております。我がゼーテ国も殿下のエトイナ山行きに参加致しとう存じます」


ゼーテの王族は役立たずで結局、ラキラたちの手を借りた。現実を見据えているといえば聞こえがいいが。


ゼーテ国は、要するにドラゴンとの戦いを平民に委ねようってわけだ。理由が理由だけに気分がいいとはちょっと言えんな。あんたと話している男は、姿はキース・バージヴァルでも中身はただのおっさんなんだぞ。


でもまぁ、仕方ない。相手は俺を同じ王族と思って腹を割っている。エトイナ山行きを反対されるよりはましだと思わなければ。それよりも、エリノアだ。どうせこいつとは話がついているんだろ。こいつがここに残っているのがその証拠だ。


何かあるだろうと思っていたが、俺を抜きで話を勝手にどんどん進めやがって。あいつはいったい何がしたいんだ。


「俺としても願ってもないことだが、その前にこの話、リーバー王太子殿下は王太后陛下とお話になられたのかな? 王族でない人々をこの俺がエトイナ山へ連れていこうとしていることを」


「それなんだが、キース殿下。エトイナ山行きについて近々閣議が開かれるそうだ。王太后陛下からこのわたしに閣議参加の要請があってな、それでどうしても殿下と話をしないといけないと今日はお招きした次第。わたしとしても捨て置けない、参加するつもりだ。近く殿下にも閣議の話が来る。彼らはどんなに知ったような口をきいたところで平民は平民。結局長城の西に行ったことがない。私としてもその点では力不足。長城の西の、最近の様子は分からない」


「断るべくもない。これは俺が言い出したことだ」


「有難い。それと、キース殿下、そして、リーマン殿下。お二方にはぜひ聞いてもらいたい。王太后陛下はブライアン王陛下が持つ外交権、統帥権、行政権いずれも内閣に委任するそうだ。戴冠式後の王の御言葉でそれが公にされる。それまでに王太后陛下は、エトイナ山行きと魔法に関する法整備など諸々について道筋を造っておきたいとのことです。何にしろ、慎重に対応すべき事柄ゆえこの件は、今は内々にして頂き、決して外には漏らさないようお願いいたします」



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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