第083話 大庭園
葬儀が終わり、部屋に戻るとイーデンはずっと我慢していたのか突然泣いた。ここまで耐えるのがやっとだったであろう。愛憎相半ばするとはこのことだ。おそらくイーデンはアーロンに愛されたかったんだ。刺し違えようとしていたのもその証拠だ。
だがやはり、疑問も湧く。やはり不死の魔法はやりすぎだ。
それにあの時、イーデンは地雷を展開していたんだ。だったら尚更、自爆で良かったんじゃないか。他に被害は及ばないはず。不死の魔法を自らに施したのは他に何か理由があるとしか思えない。俺は聞かずにはいられなかった。
「一つ教えてほしい。答えたくなかったら答えなくてもいい」
そう前置きし、俺は疑問をイーデンにぶつけた。イーデンは答えを拒否しなかった。これからずっと一緒にいるのですから隠し立てするのは良くない、と切り出し、不死となった理由を打ち明けた。
「アーロンは一定時間、全身を鉄に変える魔法を持っています」
爆発してもアーロンは生き残る。一方、アンデットになれば不死のドラゴンが攫いに来る。そして、ガリオンの竜王の元へ引き出される。アーロン王はというと不死のドラゴンに切り裂かれる。
不思議な兄弟だと思う。不死だけじゃない。鉄といい、雷といい、なんと魔法が絡み合っていることか。しかも、リーマンは魔法枠二つをアーロンに捧げている。いや、考えようによっては三つか。
自爆魔法はアーロンには効かない。つまり、自分は死しても、アーロンには絶対に危害を加えないというリーマンのメッセージでもある。彼ら三人は魔法で繋がっている、切っても切れない本当の兄弟だったというわけだ。
竜王の門の南、木々に隠れた一画に王家の大庭園があった。温室を兼ね備えた植物園や菜園、博物館も置かれている。中でも、ひときわ目立つ白亜の建造物はバージヴァル家の霊廟である。アーロン・バージヴァルは今、そこに眠っている。
葬儀以来、五日ぶりに俺たちは大庭園の芝生を歩いていた。リーマンは浮足立ち、イーデンは物憂げであった。侍従二人はというと緊張気味である。
一面真っ青な絨毯のまん真ん中にテーブルが置かれていた。ゼーテ国の王太子リーバー・ソーンダイクは俺たちの姿を見たのであろう、そのテーブルの横に立った。
テーブルにはお茶やスイーツが用意されていた。遠く向こうでは子供の笑い声が聞こえる。護衛の近衛騎士五人と子供が二人いた。一人はブライアン王であった。
十歳ぐらいの女の子と遊んでいる。女の子はというと、ブライアンの面倒を見ているのだろう、姉のように遊び方の手本を見せてブライアンをリードしている。
だだっ広い芝の上にたった一つのテーブル。従僕がいて、ソーンダイクの後ろには近衛騎士が十人ほどいる。霊廟も兼ね備えた緑の庭園に金の鎧と赤いマントとは何ともものものしい。不釣り合いである。
メレフィスの近衛騎士を引き連れ、当たり前のようにいるソーンダイクはまるでこの庭園の主のようだった。俺たちが他国の王族で、今回特別な場所を訪れる栄誉に与かったと錯覚してしまう。
まず、リーマンがソーンダイクに握手をした。そして、二人は胸をぶつけ合うように固いハグをする。
「お久しぶりです。リーマン殿下」
「立派になられまして驚きました。王太子殿下」
ソーンダイクはダークブラウンの短髪である。くせっ毛のようだがパーマ感がなくなるまでガッツリとカットしている。首が長く、顔も長い。良く言ってカワウソで、悪く言うとトカゲのようだ。
それでいて気品がある。育ちがそうしているのか、これぞ王族と思わせる高貴な雰囲気を全身から醸し出していた。キース・バージヴァルと違って、いい意味でどこにいても王族だと分かりそうな男だ。
リーマンが好意を寄せるのは致し方なかろう。奇妙な容姿と気品のギャップ。そして、人懐っこい笑顔。それがソーンダイクに何とも言えない色気を作り出していた。お茶会に心躍るのも、そもそもが、ソーンダイクが人柄的にも仕えたいと思う王族だったからに他ならない。
「会うのはわたしの結婚式以来ですか」
「はい。あの式は素晴らしかった。伝統に乗っ取った格式高い、まさにロイヤルウエディングです」
あてつけだな。アーロンの葬儀は寂しかった。
「キース殿下。リーバー・ソーンダイクです。お見知りおきを」
ソーンダイクは俺に握手を求めて来た。お見知りおきを、と俺が握手に応えるとソーンダイクは、立ち話も何ですからと俺たちをテーブルの方にいざなう。
「しかし、驚きました」
ソーンダイクはアーロンの葬儀で初めて俺を見たという。その時の印象を語り始めた。
想像していたのとはまるで違ったようだ。どんなチンピラかと思っていたら健康的で威厳があり、王者の風格さえ漂っている。なにより、美しい青年だったという。
まぁ、それはなぁ。見た目を褒められても俺自身はうれしくも何ともない。本当の俺は黒髪黒目のただのおっさんなのだ。ソーンダイクの歯に衣着せぬ物言いはまだ終わらない。
俺は、他国ではうつけもので通っているらしい。大体そんなものだろうとは思っていたが、実際いい物笑いの種だったそうだ。泥酔して落馬し、死んだと思われて葬儀が出された。それだけでも笑えるのに今度は裁判沙汰。
裁判では色んな秘密が暴き出され、性癖も公にされた。もちろんそれはエンドガーデン全土に広まっている。
アホを全世界にさらされたうえ、裁判の負けが決まったと思ったら破れかぶれ、決闘裁判に打って出て、自らアホだと言うことを世に示した。対戦相手はメレフィス一の戦士だという。
やることなすこと笑えたことから、最後には一体どんな面白い死に方を見せてくれるのかと世界中が期待していた。結果は俺の勝利で裁判の幕は閉じたのだがな。
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