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第074話 くつろぎの一時

リーマンがエトイナ山に登った時、ローラムの竜王はどんな姿だったのか。ウミガメみたいな姿をしていたのか、それとも老人だったのか。


カールが驚くと言うからには、リーマンが見たローラムの竜王の姿はウミガメの方だろう。もちろん、湖中島には入れて貰えない。あそこにはローラムの竜王のヤドリギがある。


十中八九、湖中島の話をすればリーマンは喜ぶだろう。が、しかし、秘密を分かち合えるほどリーマンとは親密ではない。それにどうせリーマンの頭の中はアーロン王のことでいっぱいなはずだ。俺に色々聞きたい以前に、偉大なアーロン王を作り上げるにはどうすればいいかで策を練るのに忙しい。


差し当って、宮中を、議会を、どう動かそうかと考えている。俺なんぞに助言を求めてはこない。こいつはそういうやつだ。それでも、“ところで殿下、”と声をかけてきたなら。


キース・バージヴァルの子供の時の話でもされたらたまったもんじゃない。記憶を失ったで通るだろうが、リーマンは普通じゃない。面白がって色々突っ込んでくるはずだ。


こういう場合、“ところで殿下、”って話しかけようとする枕詞自体、俺には聞こえていなかったってことにするのがベストだろう。ソフィアらの場合は監視が必要だったから無視することは出来なかった。リーマンの場合、やつは上官であるが所詮それは役職。地位は王位継承権上位の俺の方が遥かに上なのだ。


俺はブルーレイクに着くまで寝ることにする。ずっと狸寝入りだ。丁度良かった。このところ忙しかったし、体を休められる。もちろん、これから何日もずっとそうして都に入るつもりだ。





ブルーレイクでは、フットマンが俺たちのためにホテルを一棟貸し切りにしていた。手勢はというと、幾つかのホテルに割り振られていく。


俺たちが泊まったこのホテルは街で最も格付けが高いホテルだった。部屋の広さやベッドの柔らかさは申し分なく、食事も最高だ。ただ、フットマンの一人が俺にずっと付きっ切りだった。


給仕はホテルの者ではなく、リーマンと俺におのおの一人ずつフットマンが付いた。ドアの開け閉めも、部屋で酒を飲む時も全てフットマンに先回りされて俺のすることが何もない。


「殿下も従僕の一人や二人、使えばよろしいかろうに」


食事している時のリーマンの言葉だ。だだっ広いダイニングルームに俺とリーマン、そしてそれぞれお付きのフットマンら四人だけ。イーデンや他の者らは部屋に食事が届けられるという。


彼らは俺たちの護衛をしているので自分たちが決めたローテーションで食べなければならない。フットマンら以外は誰もダイニングルームに入って来ず、リーマン曰く、安心して会話を楽しめるんだと。


「作法も知らない小娘を従僕にしていたから、殿下は宮内庁の侍従を使わなければならないはめになるのです。わたしくめなぞは侍従なんてややこしいやからなぞ、逆に断っておりました。用がある時だけ呼び出せばいいのです。必要なのは王宮の作法を知る従僕、王族なら王族らしくちゃんと自分の従僕を持つべきなのです」


説教を聞きながらでは食事の旨さも半減してしまう。こんな風になっているのは全てがキース・バージヴァルのおかげなのだが、そんなことはリーマンに分かるはずはなく、現におかしなことをしているのは結局俺なわけだし、仕方ないかと俺はリーマンの説教を神妙に聞くしかなかった。


食事から部屋に戻り、リーマンの説教もあってフットマンの様子を観察した。便利は便利なのだがさっき言った通り、何でもかんでも先回りしやがって、むしろ俺に自由がない。


フットマンは主人の手足だっつったって、どう見てもそれはフットマンの手足だ。手足には当然頭がくっついていて、顔があり、目があり、口がある。誰が何と言おうとフットマンは、俺の手でも足でもない。


下がれと命じて俺は部屋に一人っきりになった。風呂に入ってガウンを着て、布団をめくり、ベッドに乗って、横たわる自分の体に布団を掛けた。


連日の疲れからか、ぐっすり眠り、朝になって、なぜかフットマンが来るのをベットの上で待つ自分がいた。


昨夜、三下り半を突き付けたためか、まるで来そうにない。ふざけていた生徒にやる気がないと決めつけ、帰れと言って本当に帰られた先生の気分だ。悪いことをしたとちょっと反省した。


が、やっぱり自分のことは自分でしたい。朝食はホテルの者が部屋に持って来た。それを済ませ、身支度すると、妙な罪悪感を引きずってロビーへと向かう。


イーデンやカリム・サンらがもういて、俺は四番目。ソフィアとアリスも姿を現し、あとはリーマンを待つばかりだった。


皆、しばらくは立って待っていた。リーマンが来そうもないので俺はイーデンに妻子と話すことを勧めた。イーデンは最初断ったが、俺が強く求めたのでその提案を受け入れた。


俺はというと、カリム・サンらとテーブルを囲み、紅茶を飲み、雑談をした。話題はたわいもないことでお互いがお互い、王都や政治に係わるニュースを避けていた。これからアーロン王にお目見えしなくてはならない。


忘れようにも、王都に近付けば近づくほどあの神経質そうなギスギス顔が否が応でも頭に浮かんでしまう。カリム・サンらもそうだろう。俺たちのここまで苦労を思うと少しばかり現実から逃げてもばちは当たるまい。


くつろぎの一時であった。やがてリーマンがフットマンと姿を現した。もう一人のフットマンは今回も先触さきぶれのために一足先に出立したそうだ。朝、部屋に来なかったのはこのためかと思うと妙な罪悪感も消え去り、気持ちも軽くなる。


リーマンの手勢はすでに街の広場に集まっていた。俺たちの馬車が近付いて行くとその隊列は流れるように移動し、俺たちの馬車を取り囲む。そのまま馬車は止まることなく街路を進み、やがて俺たちはブルーレイクを後にした。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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