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第072話 護衛騎士

やはりリーマンはカールを諦めてない。といっても、それは仕方がない。カールがここに来ていないことをまだ知らないのだ。


リーマンはイーデンに、お久しぶりです、兄上、と愛想よく頭を下げ、よく戻って来られたと嬉しそうに自身の天幕に招く。もちろん、俺もついて行く。


天幕に入ると従僕が現れて、グラスを三つ、リーマンの机に置いて出て行った。


「殿下がすでにお話になられたとは思いますが、義姉上あねうえとアリスはここに来られております。今すぐに兄上に会わせたいのですが、まずは我ら兄弟の再会を乾杯しましょう」


婦人とアリスが自分の手の内にあるということをちらつかせている。イーデンをカール捕縛に利用する気まんまんだ。イーデンが答える間もなく俺は口を挟んだ。


「いなかった。カールはここへは来ていない」


リーマンの目の色が変わった。ギョロっとした目で俺たち二人の顔を交互に見る。嘘を見抜こうって目だ。だが、そういう目でいくら見たって俺たちからは何も出て来やぁしない。カールが居ないのは真実なのだ。なんなら自分で屋敷を探しに行けばいい。


リーマンはことほか、イーデンを見つめた。俺が小賢こざかしいのは知っている。イーデンはというと目を逸らさない。分かりやすい男だ。目の色を見ればすぐに分かる。リーマンはその色をさぐっている。


兄弟なのだ。嘘がないことはすぐにでも分かろう。リーマンはため息をついた。


「仕方ありません」


分かっていながら長すぎるわ。リーマンめ、意地の悪さはアーロン譲りだな。


「信用しましょう。で、どういたしましょうか、殿下」


どうしましょうか、とはイーデンと妻子の処遇だ。そのことで俺が泣きついて来るとリーマンは読んでいる。俺が何の約束もなしにイーデンを投降させたとは思ってもみない。


イーデンの無罪と妻子の返還だろうと勘ぐっている。当然、イーデンと約束したのは俺だ。リーマンに守る義務はない。


イーデンは王命に逆らって籠城している。妻子はイーデンにカールを裏切らせるためのもの。だが、カールはいなかった。


それを俺は重々理解しているとリーマンは踏んでいる。アーロン王の勘気を解けるのは自分だけだという自負がリーマンにはあるのだ。あなた次第だというわけだ。


ああ、分かっている。イーデンから何も引き出せなかった分を俺から取り立てようというんだろ。


「陛下にイーデン・アンダーソンは潔白だったとお口添えしていただきたい」


「そうですか」


リーマンは頬を緩ませた。デスクへと移動すると部下に相談を受ける上司のように椅子に座り、天板に肘を乗せるとあごの前で手を組む。


「カールをかくまっていなかったわけですし、それは出来ますが、兄上こそ陛下に忠誠を誓えますか」


はなっからまるで無理だろうという口ぶりだ。そもそもターゲットは、何も引き出せないイーデンではない。


イーデンは答えた。


「それならば大丈夫だ、リーマン。わたしは殿下に忠誠を尽くすと決めた。殿下の名を貶めるようなことは絶対にしない」


「はぁ?」


ノーと答えるとばかり思っていたようだ。予想の斜め上をいく返答にリーマンはきょとんと口を半開きにする。


「驚きましたね」


表情といい声色といい、常時ニヤついているリーマンにしては珍しく正直な感想だった。無理もない。イーデンは人をおとしめることが出来ない真っ直ぐな性格の男なのだ。


その真っすぐな男が真っすぐとはほど遠い悪童キース・バージヴァルの下に付くという。間違いなくイーデンも同類のレッテルが張られる。


何でも許される世間離れした王族を嫌って賜姓降下したのではなかったのか、とリーマンは思ったはずだ。しかも、キースはイーデンから見れば親子ほど歳の離れた青二才。その護衛騎士になるなぞ、気が変になったとしか言いようがない。


民を愛すると自負するイーデンのあるまじき姿だったろう。バージヴァル家もそれでさんざん悩まされたという。才知を売りとするリーマンとしてはどうしてこうなったか聞きたくてうずうずしているはずだ。だが、死んでも教えまい。忠誠とは大げさで、図らずもそうなっただけのこと。


「ですが、」


やっとリーマンは口を開いた。


「やはり、忠誠は陛下でなければいけません」


確かにリーマンの言わんとすることも分かる。俺に忠誠を誓ったとしても、アーロン王に忠誠を誓わなければ何の意味もない。それについては俺に考えがある。リーマンも気に入ってもらえるはずだ。


「約束しよう。カールの消息がつかめれば俺が必ずやつを捕まえてやる。もちろん、イーデンもその手助けをしてくれる」


アーロン王でなくとも、俺もカールにはお灸をすえてやりたいと思っている。実際リーマンも悪い気はしてないようだった。そもそもリーマンは俺とイーデンを組ませてカールをとっ捕まえようとしていた。


「いいでしょう」


リーマンは俺の条件を飲んだ。


「ただし、わたくしめから二つ条件があります」


リーマンの条件とはイーデン・アンダーソンの財産の没収、妻のソフィアと娘のアリスを自分が預かること。イーデンに異論はなかった。リーマンはというと話が付いても、堅物イーデンの心変わりにいまだ戸惑っていた。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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