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第067話 大儀

「さぁ、どうでしょうか。考えてもみてください、殿下。エリノア妃殿下は大事なことを忘れているとは思いませんか。魔法に関して言えば、カールがいない今、ローラムの竜王との橋渡しが出来るは殿下をおいて他にいません」


そもそもローラムの竜王はカールなんぞに会ってもいないし、金輪際会うことはないがな。


「なのにエリノア妃殿下は、殿下を一人悪者にして御自身の栄達のみを御考えになられました。賢いようでバカな女です。妃殿下に先はございません。任せておけば我々は妃殿下の道連れにされてしまいましょう」


リーマンの指摘はいちいちもっともだ。画龍点睛がりゅうてんせいくとはこのことを言うんだろう。


王族以外、ローラムの竜王との契約が何たるかを誰も分かってはいない。契約どころかエトイナ山への行き方すら知らない。


竜王がドラゴン語を与えるというからには、数多あまたのドラゴンも道を開けてくれると皆が思ってやいまいか。たった二人で行けたんだ程度の認識では幾ら命があっても足りやしない。 


もし、煙嵐の森を無事抜けたとしよう。キングランの向こうにエトイナ山が見える。すぐ目と鼻の先だ。エトイナ山めざし、キングランに入る。そこはローラムの竜王でさえ制御不能なはぐれドラゴンの巣窟。エリノアも議会も教会も、長城の西を甘く見ている。


ローラムの竜王に会うには案内人がいる。魔法は王族が管理するとも言っていたし、大事なピースを抑えておくためにも、こいつは俺を押さえておく必要がある。万が一、何かのきっかけで俺とエリノアが和解するとも限らんしなぁ。


「エリノア妃殿下はやり過ぎたようです。陛下はエリノア妃殿下には失望致しました。あれほど仲睦まじかったのに、今や遠ざけているほどです」


リーマンはそう言って天幕を出た。


「付いて来てください」


日はとっぷりと暮れていた。本営の丘からは国軍の陣全てを見渡せる。無数にある松明が大地に大きく円を描いていた。その明かりでアンダーソン邸は淡く照らされている。


「我が軍が、どうしてあれほど綺麗に丸い陣を敷いているかお分かりですか。あれはイーデンの魔法のせいです。ドラゴン語でなく人の言葉を借りると地雷という魔法。イーデンはそれを屋敷の周りにかけました。あの円に入ると地面からの電撃に襲われます。わたくしめの魔法で探知しました」


リーマンがアーロン王に捧げた二つの魔法枠。一つが消える魔法で、一つがこの魔法探知だ。


「ですが、殿下には無意味。明日、アンダーソン邸に行って来てもらいます。カールに投降を求めてください。なんならイーデンにも力を借りて下さい。妻子がここに来ているとなれば協力してくれるでしょう」


何を言い出すかと思えば。


「簡単に言う。死ぬと分かって投降する馬鹿はいないし、イーデンにしたってそれ相応の覚悟があってのことだ。俺はやつに何と言えばいい。妻と子はカールと交換だっていうのか。つまりそれはイーデンにカールを裏切れと言っているのも同じ。誇り高いやつほどブチギレるぜ。俺は言いたくないね」


いくさをしたくはないのでしょ。わたしもそうです」


つくづく思うぜ、カール。長城の西で姿をくらませてくれたらよかったものを。おまえ一人のために王国は大惨事だ。


「殿下は先ほど大義がないとおっしゃいましたね」


「ああ。話は分かった。要するに敵はここじゃない。王都にいるってことだろ」


「いいえ。我が国メレフィスはどこよりもいち早く魔法の使用を条件付きで許し、魔法軍を使ってエンドガーデンを席巻します。そして、陛下はエンドガーデンの皇帝となるのです。それが大儀です。その前に獅子身中の虫エリノア妃陛下一派を排除しなければ。そのためにもカールはやはり邪魔です」


皇帝? こいつ、今、皇帝って言った。どうしてそうなるんだ。俺は王立騎士学院で学んだ。エンドガーデンの王族は互いに不可侵の誓いを立てている。王族は皆対等で、王の上に王を置かず。それをこいつは破る気まんまんなのだ。


上手くいくとは思えない。他の四王家に一斉砲火を浴びるぜ。リーマンは戦をしたくないどころか、戦火をメレフィスに呼び込もうとしている。


「ですが、殿下。カールを助けないわけでもありません。それならば殿下もカールやイーデンに話をし易いでしょ。古代兵器なぞ馬鹿な考えは諦めて大義のために命を捧げるのです。ソルキアの王子がローラムの竜王に会いに行くまで時間がなさそうですし、それまでには国が一つにならなくてはなりません。これからは人手がいくらあっても足りないのですから」





日が昇ると共に、朝霧に包まれたアンダーソン邸が姿を現していく。教会を思わせる多くの三角屋根と一個の城壁塔が組み合わさった、いかにも堅牢そうな石造りの建造物だ。


屋敷の庭は芝や花や植木で埋もれ、玄関までの道がまっすぐ延びている。敷地はぐるりと石壁で守られ、そこから国軍の陣までは小麦畑が広がっていた。


リーマン・バージヴァルは大義のためにカールを説得しろと俺に言った。カールが素直にアーロン王にひれ伏せば、それがどうにかなるというのか。俺は確かに無罪を勝ち取った。そういう点から言うとカールにも無罪が当てはまる。全ては無かったことになるということか。


カールはカールでそれで黙っているか。いや、そういうタマではない。やつは糞野郎だが、確固たる信念を持って行動している。リーマンは魔法の軍団を使ってアーロン王を皇帝にしようとしている。リーマンのそれとは過程は同じであっても、おそらくは望む国体が大きく違う。エリノアも黙ってはいまい。いずれ双方がぶつかるのは時間の問題なのだ。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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