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第187話 大聖堂

創造者―――。


そいつは夢で見た人影で間違いない。だが、なぜ夢で影だったのか。ローラムの竜王がその部分だけ記憶からまるで切り取ったみたいだった。少なくとも好意を持ってないのは確かなのだが。


不意にヘルメットシールドに着信表示が現れた。ミスティからだ。カール・バージヴァルには一カ月の猶予を取りつけている。それから二十三日経っていた。まだ七、八日残っている。


カールで無く、ミスティというところがミソだ。当然、カールは今、俺に連絡する筋合いに無い。だが、俺に用があるのは明らかにカールだ。ミスティは通信を送らされているだけ。


ローラムの竜王は逝ってしまったと見ていい。状況はあの時と全く変わった。おそらくエンドガーデンは、蝗害のごとくはぐれドラゴンに襲われている。


「繋げてくれ」


強化外骨格のシステムが反応した。ヘルメットシールドに映し出されたそこは竜王の門の謁見の間である。


大勢の人が集まる中、カール・バージヴァルが玉座に座っていた。パワードスーツを着込み、頭部パーツを右手に、左手は肘かけにあった。


どうやらカールはメレフィスにご帰還なされたようだ。


はぐれドラゴンの騒ぎに乗じて、罪なき兵団を引き連れ、颯爽と現れた。暴れ狂うはぐれドラゴンたちを一掃したのであろう。メレフィス国民はそれを目の当たりにした。やつは今や神の使い、メレフィスの救い主。


ヴァルファニル鋼を纏った騎士が謁見の間を取り囲んでいた。七、八十人はいる。リーマン・バージヴァルとリーバー・ソーンダイクの姿は見当たらない。得にリーマンはカールを恐れおののいていた。


おそらくはお得意の透明になる魔法を使い、早々にソーンダイクらを伴ってゼーテへ逃げ出したのだろう。流石保身の権化。魔法トラップを可視化させる魔法や自爆魔法なぞこういう時に本領を発揮する。


玉座の横にはエリノアとブライアンが立っていた。デューク・デルフォードはというと、いつものように壇上には居ず、カールの対面側でひざまずいている。それは他の大臣も同様で、多くの貴族臣民に混ざってひざまずき、頭を下げている。


これはミスティが見たもの。当然、聞いたものも送られてくる。


「キース。お前には心底がっかりしたよ」


大勢のいるところで臆面もなくカールは俺一人に呼びかけていた。アーロンを思わせる面白くもなさそうな顔つきで、喋るのも気だるそうであった。しかし、明らかにその言葉は怒気をはらんでいる。


衣擦れの音一つしない。カールの言葉だけが謁見の間に響いていた。人々は地の底から湧き上がって来るようなその言葉に直に触れている。極寒の大海原で遭難した水夫たちのように誰もが凍えるように固まっていた。


何が気に入らないか知らないが、バカな野郎だ。これならすぐにでもカリム・サンたちに俺の無事は伝わるだろうよ。彼らにはフィル・ロギンズがいるんだ。


「一度ならず二度までも、私を出し抜こうとした」


俺が生きているのを隠さない。それは自ら俺を見殺しにしたと公言しているようなもんだ。その自信。いよいよもって実感する。カールの独裁政治が始まったと。


「エトイナ山はタイガーが占拠したというではないか」


そうか! そりゃぁよかった。てめぇは面白くないがな。まぁ、あれだけローラムの竜王に思い入れがあったんだ。怒りも当然だってことか。


しかし、いつかはばれると思ったが、いやに早いな。こいつがわざわざ連絡してきたことといい、いやな予感しかしないぜ。


「お前はタイガーがそうすることを知っていた。前にも言ったはずだ。隠し立ては万死に値すると」


だから、どの口が言う。てめぇが俺にやったことと比べればかわいいもんだろ。


「そのうえまだお前は俺に隠していることがある」


はっ? あったか? 


身に覚えがない。エトイナ山にタイガーがいるってことはもう知っているじゃないか。言いがかりだな。めんどくせぇやからだ。


「タイガーはデンゼルではないそうだな」


まさか!


「タイガーの愛童と思っていたあのガキ。あれが本当のタイガーで、実は女だった。名前は何と言ったか」


って言うか、何で知っている。


「そうだ。思い出した。ラキラ・ハウル。ラキラ・ハウルと言った」


マジか!


ラキラの名前まで知っているとなると十二支族の里長の中に裏切り者がいると見ていい。跫音空谷きょうおんくうこくの里でラキラと面を合わせていたそいつらだ。少なくともそいつらはラキラがタイガーだと知っている。


裏切り者は一人なのか二人なのか。最悪、里の幾つかはカールに寝返っている可能性がある。ドラゴンライダーの存在も把握しているのかもしれない。あるいは、裏切り者は別の誰か。


里長だけとは限らない。在地のシーカーはもちろんのこと、里に住むシーカーのほとんどがタイガーの正体を知らない。だが、カンバーバッチの悪ガキと取り巻きたちはどうだ。


取り巻きたちもカンバーバッチの悪ガキと共に里を追われたはずだ。あいつらはアホだから何をしでかすか分かったもんじゃない。


いずれにしても、こと戦闘になれば里の主に頼らざるを得ない。里長がカールに下ったとしても、里の主は決してカールには靡かない。


「キース。いや、もう茶番はよそうじゃないか。お前はキース・バージヴァルじゃないってことはうの昔に分かってたよ。正体を見極めるために泳がしていただけ。だが、お前が何者かっていうのは大体掴んだ。異世界から来たっていうじゃないか。本当の名はサラリーマン。目的はガレム湾の迷宮だろ。そこに何がある。何をしにこの世界に来た」


まさかここまでだったとはな。笑えた。跫音空谷きょうおんくうこくの里で俺が適当に自己紹介した時に使った言葉、サラリーマン。里長の誰かが裏切り者で確定だ。


「まぁ、いい。それもおいおいと分かること。さりとて、私の立場上、お前の正体を知って放置も出来ん。お前はバージヴァルの名をかたり、何食わぬ顔で王嗣おうしの地位にいた。それがどれほどの罪か、異世界の者とて分からないはずもあるまい」


シーカー十二支族も終わりだな。この分ではドラゴンライダーの存在もカールの知るところであろう。ドラゴンライダーを手に入れるには里の主との戦いは避けられない。


「ただ、サラリーマンよ。私はこの通り、丁度皇帝となった。その件は慣例にしたがい恩赦を与えようではないか。私のために働け。私の下で、三度も私をたばかった罪を償うんだ。私は今からゼーテのイザイヤ教自治領へ救援に向かう。迎えはハロルド・アバークロンビーをやる」


カールはエリノアに視線を送った。エリノアはというと、口元に小さな笑みを浮かべ、カールの前に手を差し出す。


その手を、カールは下から添えるように取るとそこに口づけを落とした。


「私は赤毛の乙女の剣となり盾になりたいと思っている。他の四王国は後回しだ。私のいない間に好き勝手していたというじゃないか。ゼーテは我が王朝に土足で上がり、ファルジュナールとタァオフゥアは我が領内で反乱を企てた」


カールの目的は先ず五王国統一。おそらくは、はぐれドラゴンをある程度まで放置して四王国の力を削ぎ、その後その領土へ侵攻する。


「おまえはハロルド・アバークロンビーと合流し次第エトイナ山に行け。そして、速やかに私の傘下に入るようシーカーの女、ラキラ・ハウルに命じろ。イザイヤ教自治領が治まれば、私は法王と共にエトイナ山に向かう。エトイナ山に巨大な聖堂を建設するつもりだ。赤毛の乙女の住まいはあそこしかあるまい」



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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