第181話 罪の重さ
カールは俺がジェントリクラスのドラゴンを単独で倒したことも知っている。しかも、装備はパワードスーツより性能が劣るパワード・エクソスケルトンだ。
やつからしてみれば面白くなかろう。自分より古代兵器を上手く使っている。一旦は己の懐に入れ、行く行くは謀略か何か、隙を見て罠にはめるつもりなんだ。俺はラグナロクのAIに守られているしな。
「そうか。お前はそれも拒むのか。なら、聞く。お前の目的はなんだ。なぜラグナロクに来ない。お前は一体何が欲しい」
ナグナロクを手に入れてこの世のもの全てが自分の手中にあると思っている。残念だったな。俺の欲しいものは掴もうとして掴めるものではない。
「それもだんまりか。キース、私を怒らせるなよ。どこに行こうともこちらはお前のパワード・エクソスケルトンを追えば行き先なぞ手に取るように分かる。お前の欲しているものは何か、言わずともバレるんだ」
やはり結局は脅しか。邪魔する気満々だな。まぁ、俺の欲しいものを話してやっても構わないがな。
それは俺がこの世界からいなくなるってことと同じだ。だから、やつにとっては好都合は好都合。それでも、こいつの性格から、はいそうですかってならないし、手助けしてくれるとも思えない。逆に裏があるとか思われて、かえって面倒を増やすだけだ。
しかし、脅しとはいただけない。ラグナロクのAIレベッカもお前の言葉を聞いているぜ。彼女を従順な執事か相談役と思ったら大間違いだ。
「そういやぁキース。お前はローラムの竜王に可愛がられていたな。お前がラグナロクに来ない理由を当ててやろうか。そうだな、それはローラムの竜王の死に関係している。違うか?」
「!」
驚いたぜ。どうしてこいつがそれを知っている。カールはというと、肩を揺らしてクククっと声を漏らしたかと思うと突然けたたましく笑った。
「キース。その顔だ。お前のそういう顔が見たかった。そうだ。それでこそ、キース・バージヴァル。お前らしいってもんじゃないか」
腐ってやがる。
ローラムの竜王の死を知っているのはラキラしかいない。もしかして、こいつ、カリム・サンたちに何かしたか。拷問でもしてラキラと俺の関係を聞き出した。
いや、それはない。あくまでも俺と表立って関係しているのはタイガーだ。そのタイガーもデンゼル・サンダースが身代わりとなっている。ラキラまで行きつくはずがない。
「なぜ、それを知っている」
「知りたいか?」
「ああ。俺はそれを誰にも言っていない」
敢えてそう言った。俺とカールの駆け引きに誰も巻き込みたくなかった。
カールは艦長席で優越感に浸っている。まるで玉座に座る王のようにふんぞり返っていた。
「だろうな。イーデンも、侍従二人も、あのハロルドまでも、白昼も関係なく寝ぼけたように大人しくしている。お前の婚約者も悠長に喪に服しているらしいぞ。シーカーの女どもは恩知らずにも、もうすでに王都から消えていない。お前の葬儀は明日だ。そしたらイーデンは領地に戻って隠居するそうだ。侍従の二人もそう。お前が領地をくれてやったんだってな。やつらも葬儀が終わったらそれぞれ領地に行く。もちろん、魔法の言葉は与えないし、やつらもそれを承諾している。ハロルドももう用無しだ。学匠に戻す。当然やつにも魔法の言葉は与えないし、本人も了解済みだ」
了解済みか。それはどうかな。彼らにはフィル・ロギンズがいる。
「もし、お前がやつらにローラムの竜王が死ぬことを告げていたとしよう。やつらの今の様子から言えば、竜王の死を受け入れているってことになる。竜王が死ぬとなればどこにいようがタダで済まないのは子供でも分かることだ。知っていてお前に口止めされていたとすれば、口止めしていた本人がもういないんだ。やつらとて命ほしさに魔法の言葉も欲するし、何らかの動きをしよう。お前に殉じようとしない限りはな」
どうぜ世間のやつらはその程度だろうよ、とカールは高をくくっている。どんだけ傲慢なんだ。カールが人を軽く見る性分で助かったぜ。
おかげで皆無事なのも分かった。第一陣はどうやら成功したようだ。魔法を与えるとか与えないとかも言っていた。カールは着々と人材をエトイナ山に送っているのだろう。
だとしたら当然ラキラの方も動いている。アビィとジーンが王都からいなくなったのがその証拠だ。
「しかし、まぁ、やつらがそれを知ったとて大したことは出来ないだろうがな。実際、この件を知っているのは私とお前だけ。いや、エリノアもいたか」
エリノアが知っているということは、メレフィス全体でその時に向けて動き出している。ただし、国民自体は誰も何も知らされずに、だろうがな。
「タァオフゥアとファルジュナールはどうなっている」
「ああ、やつらか。やつらなんて論外だ。ソルキアもそうだが、せこせこエトイナ山に人を送っているようだ。ローラムの竜王が死ぬというより、メレフィスと力の均衡を保ちたいらしい。はぐれドラゴンがイナゴのように来襲して来るっていうのに馬鹿な奴らだ」
タァオフゥアもファルジュナールも、そんな心構えだとどの王国も大幅に戦力を落とすのは目に見えている。カールにとっても好都合だ。
「キース。お前は私をまだ分かっていない。本来なら私はこうやって気軽に話せる相手ではないのだ。なのにお前はローラムの竜王の真実を伏せて、この私を出し抜いた。その罪は万死に値する」
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