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第175話 状況判断

這いつくばっている下にブラスターが落ちていた。右手はルーアーを握っている。左手で拾うと真正面に構えた。というか、俺が今やれることは銃口を前に向けることだけ。視界も狭くなっている。


ふと、バリー・レイズの姿が目の前にあった。銃口はというとバリー・レイズの胸元を捉えている。


バリー・レイズは森の上を移動しながら俺を探していた。おそらくはドラゴンの死体を発見したのだろう。着地すると俺の姿を見とがめ、お得意の高速移動でスッ飛んで来た。タイミング的にばっちりだった。剣を振り上げた状態で固まっている。


もし、バリー・レイズが歴戦の猛者だったら俺は確実に死んでいたのだろう。俺の様子を見れば分かるはずだ。


ガキだから慌てた。俺が両膝を付いて一息いれていると思った。チャンスだとばかり、隙をつこうと攻撃を仕掛けて来た。


俺は賭けに勝った。銃口を突き付けられてバリー・レイズは剣を振り下ろせずに飛び退いた。エリノアの命令は俺の殺害であろう。救援と偽って一人、隊から出された。ここへ来て派遣団団長という肩書がものを言ったというわけだ。


「しかし、どういう殺し方をすればこうなるんだ」


飛び退いた先が七つ口のドラゴンの傍だったのだろう、それをまじまじと見ていた。七つ口も大概異形だが、その死に方もバリー・レイズの目には奇怪に映ったに違いない。


「気持ちわりぃ。賢いドラゴンをこんな目に合わせるなんてどんだけ化け物なんだ、てめぇは」


もはや銃口を上げていだけで精いっぱいだった。バリー・レイズはというと俺の言葉を待っているようだ。何も話さない。氷を張ったような静けさが俺たち二人の間に立ち塞がっていた。


やがてバリー・レイズは状況を把握したようだ。どす黒く、それでいて熱い声色でその凍れる沈黙を破った。


「どうやら、お前。お終いのようだな」


俺が瀕死であることに気付いたようだ。ふんっと鼻で笑った。


「やっぱ一人じゃただではすまないか。相手はドラゴンだもんな」


もう俺に何も出来ない事を理解したようだ。銃口が向いているにもかかわらず、バリー・レイズは無防備をさらけ出して七つ口の死体をなにやらいじくっている。俺の視界が確かでないから何をしているのかは分からない。


十メートルほど距離があった。当たりっこないと高をくくっている。ムカつくが、正しい状況判断だ。腕がブラスターの重さに絶え切れず銃口が定まらない。もっと近付いてくれれば当たるかもしれないが。


バリー・レイズは七つ口に厭きたのか、死体で遊ぶのは止めたようだ。


「さぞかし苦しかろうな。助けようか?」


笑わせるな。さっき、おまえは剣を振り上げ、俺を叩き切ろうとしてたじゃないか。


狭い視界からバリー・レイズの姿が消えた。お得意の瞬間移動ではなさそうだ。気配にまだ距離がある。おそらくは近付いて来る道筋が真っすぐではない。俺をもてあそぼうって算段だ。


「この森にはあんな訳のわからないドラゴンがうようよいるんだよな」


右横から声がした。銃口が向きにくい右側にポジションを取っている。そこから間合いを詰めて来るのだろう。不測の事態を備えての行動だ。


「ここで一晩越せって言われたらどうする。僕なら断るね」


心にもないことを。自分なら出来ると思っている。


「あんたも断るだろ。まぁその体なら一晩ももたないか。ドラゴンが襲って来たなら、あんたはその時点で終わりなんだもんな」


言われなくても分かってる。俺は元の世界に帰れそうもない。


「僕はね、あいにく今、手がふさがっているんだ。あんたを助けようにも助けられない。あんたどころじゃないんだよ」


初めっから助けようとはこれっぽっちも思ってない。


「でも、別の意味でなら僕はあんたを助けられると思うよ。僕が楽にしてやる。僕の腕なら一瞬だ。痛みも感じない」


ここまでか。あん里紗りさ。帰って来れなくて、ごめんな。


あんから彼女らしいあの暖かい笑顔を奪いたくはなかった。里紗りさの小鳥のような溌剌はつらつとした声が聞きたかった。どうか二人とも強く生きてほしい。灯が消えたような人生は二人には似合わない。


「ざぁ~んねぇ~ん」


バリー・レイズは弾むように声を上げたかと思うと、ぎゃははと声を裏返し騒がしく笑った。


「簡単には死なせねぇよ。ドラゴンからの報復に怯えていろ。そして、新手のドラゴンに八つ裂きにされ、食われてしまえばいいんだ。てめぇはそれだけのことをやった。姫様を苦しめた報いだ」


姫様。ああ、そうか。エリノアってやつのことか。忘れてた。


「てめぇが居なければ全てがすんなりと行ったんだよ。事あるごとに邪魔ばっかりしやがって」


鞭打つような激しい口調だった。よほど俺のことが腹にすえかねていたんだろう。


「橋で姫様が待っている。しかし、何だ、あのドラゴンは。腹にも肩にも足にも口が付いている。こんな森、危なっかしくて姫様を置いて来たと思うと我ながらぞっとするぜ」


ロックスプリングの橋。ロード・オブ・ザ・ロードはあそこだけが残された。エトイナ山までの道のりで最も安全な場所だと言っていい。ローラムの竜王の支配地だし、魔法の効果ではぐれドラゴンにも襲われない。


あそこまで行けばもう安心だ。ラキラは無事、エトイナ山まで行ける。強化魔法が掛ったジンシェンならまっしぐらだ。


バリー・レイズは俺のすぐ横に立っていた。目の前にバレーボールほどの何かが差し出されている。


………七つ口のドラゴンの目玉。


「ドラゴンは僕が倒したことにするよ」


そして、俺の耳元で囁く。


「あんたは死んだと報告する」


言うや否や俺の髪を鷲掴みにした。そして、剣を抜くとその髪を無造作に切る。


「髪は頂くぜ。おめぇが死んだ証拠にする。これでもう誰も助けには来ない」


そう言うとバリー・レイズは二歩、三歩と下がり、ふいっと気配を消した。


ロックスプリングの橋に戻ったようだ。間抜けなやつだ。本当の七つ口の頭は尻尾の先だというのに。


そんなことを思いつつ、意識が遠退いていくのを俺は止めることが出来なかった。体から全ての力が抜け、頭から地面に突っ伏していった。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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