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第169話 蛾

岩場を走っているにもかかわらず森までの一キロの道のりはあっという間だった。


森に入ると例によって木の幹を階段にして上昇して行ったかと思うとクジラが海面を飛ぶように、森の天井を突き抜ける。飛沫らなぬ、無数の木の葉が宙に舞う。


森の屋根に着地するとジンシェンは草原を駆けるがごとく突き進む。体勢が安定したので俺は立ち上がる。列の一番先にラキラとデンゼルが立っていた。空いている鞍は一つもない。流石精鋭ぞろい。誰も振り落とされてはいなかった。後方に陣取ったのはこのためでもある。


地表を走行するのはロックスプリングの橋のみ。それ以外ルートの全てが森の屋根の上である。俺は一安心し、離れていくヘルナデス山脈の高峰龍哭岳を眺めていた。


日に照らされ、ゴツゴツした山肌の質感がありありと感じられる。見渡せば地平線まで続く緑。そして、青い空に消え入りそうな千切れ雲。ジンシェンの長い体躯とその走りはまるで列車のようである。進行方向の遠く向こうには霞がかったエトイナ山と大世界樹がそびえ立つ。


ふと、前方から蛾が流れて来た。散った花弁が舞うようにひらひらと輝く鱗粉を撒きつつ俺の目の前を通り過ぎて行く。全身真っ白で腹がぼってりとしていて、羽は子供の手のひらほどあった。


俺の目にはもう一つの姿が映っていた。蛾を中心とした直径三メートルの球である。それはヤールングローヴィのようなメタリックなフォルムではない。毛糸玉のように鎖をグルグルと巻き付けて丸くしたような表皮をしていた。


魔法だ。敵か味方か分からない。いや、敵だと言っていい。もし、ドラゴンならあんな小さな虫に変化へんげするはずがない。ルーアーがあるからだ。ルーアーを破壊されればドラゴンは死ぬ。あれだと体全体がルーアーみたいなもんだ。


ドラゴンの領域でドラゴンに遭遇するのは普通のことだ。それなら敵か味方か分からない。だが、もしそれがドラゴンじゃなかったら。


俺はブラスターを握った。しかし、ジンシェンが進むのと蛾が遠ざかるのとで的はあっという間に小さくなって行く。しかも、敵はひらひら無軌道に飛んでいる。ただ、輝く鱗粉でその存在がまだ追って来ていることを確信できた。


くそっ、判断が遅かったか、と思うと同時だった。その蛾は魔法を解く。さっきまで見えていた姿同様の、直径三メートルの鎖の毛糸玉が空中に姿を現した。


俺は迷わずブラスターを放った。毛糸玉のどてっぱらに確実に命中した。ところが敵は全く意に介さない。己の体躯から鎖を何本もほどく。その鎖の先にはいかりのような、あるいは千鳥十文字槍の穂先のようなおもりがあった。


それを次々地に放つ。幾つもの尖ったおもりが地面に刺さったかと思うと鎖の毛糸玉はそれを足のように使い、まるでザトウムシのように俺たちを追って来る。


ズカズカズカと地を叩く音と砂煙を上げて、刺しては抜き刺しては抜きを高速で繰り返す。その度重なる轟音と俺が放ったブラスターの閃光から鎖のザトウムシの存在を派遣団の一部が気付く。


瞬く間に、座席の前へ後ろへ伝えられて行く。奇怪な何かを目の当たりにするとどの顔も驚愕と恐怖に歪んでいった。


正直、分からんでもない。この世のものでないようなモノが怨霊に取りつかれたかのように、身の毛もよだつ動きで俺たちを追って来ている。


魔法の産物であるのは理解しているはずだ。俺たちもその魔法を得るためにエトイナ山に向かっている。そうは頭で理解していても、なんせ見た目にインパクトがありすぎた。


俺は何発もブラスターを撃った。全てが間違いなくヒットした。やはり全く意に介さない。あっという間に鎖のザトウムシは俺たちの目と鼻の先まで来る。またも己の体躯から鎖を何本もほどく。


その鎖を、今度は上空に振り上げた。穂先で俺たちを攻撃するつもりだ。それも一個や二個ではない。無数の鎖が天に踊るときびすを返し、一斉に俺たちの方に向かって来る。


ただし、全部が全部、実物ではない。スキル持ちの俺の目は騙せない。おそらくその半数は具現化された鎖だろう。


とはいえ、当たれば俺以外、相当なダメージを受けてしまう。俺はブラスターで槍の穂先のような鎖の先端を実物具現化関係なく順次迎撃していく。


鎖のザトウムシはここまで三つ、魔法を使用している。一つは蛾に化けた魔法。おそらくは結界を出た時、蛾の姿で誰かの荷物か、甲冑の影に隠れてこの時を待っていたのであろう。二つ目は物質を操る魔法。そして、鎖の具現化である。


やつの本体は鎖の毛糸玉の中にあるのだろう。ブラスターで打ち抜いてもダメージが与えられない。的確に本体を捉えないと。


やっかいだ。俺は派遣団を守らなくてはならない。実物と具現化分け隔てなく全ての鎖を迎撃する必要があった。実物はブラスターで消滅させることが出来たが、具現化の方は迎撃してもすぐに元通りとなってしまう。


本体を狙うどころではなくなっていた。俺が手元一つ誤れば、派遣団は大損害を被る。最悪、旅を諦めなくてはならない。


こんなやつ、俺一人ならどうにでもなるのに。


俺は魔法が利かない。アーロンの鉄の槍さえ無効化した。具現化した鎖も消え失せるのはもちろんのこと、こっちはアーロンの槍とは違って全てが鎖によって本体とつながっている。


それは俺と接触すれば一本全体の解かれるってこと。しかも、俺がここから離れれば、ジンシェンが己に強化魔法を施すことも出来る。ザトウムシはどんなに頑張っても追いつけない。


やはり、ひとりでやるか。


ふと、背後に影を感じた。振り向かないでも分かる。ラキラだ。丁度いい事にジュールの翼で前方から一気にここへ移動して来た。


ラキラも鎖の迎撃に加わった。背中に張り付くジュールがお得意のファイヤーボールを幾つも放つ。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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