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第168話 特等席

俺には魔法が利かない。結界の中は丸見えだった。朝食の片づけをしている者たちはその場で固まっていた。自分たちが想像するドラゴンとよっぽどかけ離れていたんだろう。エリノアでさえ目を剥き、口をあんぐりと明けている。


ジンシェンが止まった。派遣団の誰もが青ざめ、蝋人形のように固まっている。襲って来ないってぇのは分かっているようだ。俺がマントをはためかせ、ドラゴンに乗っているんだもんな。パニクッて、行ったり来たり、ぶつかり合ったりはしていない。


しかし、どうしたものかと思った。俺は結界の中には入れない。すると多くの者たちの中で動く者がいた。イーデンとハロルドだ。こっちに向かって走って来る。ほっとした。二人はアトゥラトゥルで既に免疫が出来ている。


「また凄いの連れて来ましたな、殿下」


そう言ったのはハロルドだ。念願のドラゴンに乗れるとあってそもそもテンションが高いうえ、連れて来たのがこのジンシェンだ。ハロルドの目の前で、来るなり物凄いスピードで野営地を一周していた。


ジンシェンの背には真新しい鞍とくつわがずらりと並んでいる。


最新のスポーツカーを愛でるような目つきで、ジンシェンを嘗め回すように見ている。口がだらしなく開き、今にもよだれが落ちてきそうだった。ふと、ハロルドはラキラと目が合う。


この前はどうも的な、気恥ずかしい素振りで頭を下げた。ラキラはプイっと目をそらす。デンゼルはというと、ギロッと殺気のこもった視線をハロルドに向けた。


ハロルドは、はっとし我に返った。いやいや、滅相もない的な、両手を高速に振る素振りをし、頭を何度も下げる。


俺はしょうがないやつだと鼻で笑い、イーデンに言った。


「結界を維持するために俺は野営地には入れない。貴殿が皆に伝えてくれ。結界は今日の野営に備えて維持する。馬もテントも残しておくように。持って来るのはおのおの水と干し肉だけ。昼過ぎにはここに返って来る予定だ。乗れないものは置いていく。結界内にいればドラゴンに襲われることはない。エトイナ山に行く者は速やかに支度をし、準備が出来た者から順にドラゴンに乗ってくれ」


怖いのなんだのって駄々をこねられたら出発が遅れる。道中、何が起こるか分からないんだ。トラブルがあって夜の移動となったら目も当てられない。


イーデンとハロルドは早速エリノアの下へ走って行った。そこで話が終わると今度は各団長を渡り歩き、最後にカリム・サンとフィル・ロギンズ、アビィとジーンに声をかける。


待ってましたとばかり六人はそろって俺の前までやって来た。興奮するハロルドとは対照的にイーデンは馬車にでも乗るように平然とジンシェンの背に上がる。一番前の鞍を空け、二つ目の鞍に跨った。


続いてカリム・サンとフィルが並んで鞍に腰を掛ける。ハロルドの番となり、おいっと俺はハロルドに声をかけ、手ぶりで来いと命じた。


ワクワクしていたハロルドは俺に呼ばれて疑問を持ったのだろう、はて?ってな顔をした。そして、命じられた通り乗りたい気持ちを抑え、おずおずと俺の前に立つ。俺はそのハロルドを一旦そこにおいといて、ラキラに声をかける。


「タイガー、俺は最後尾を守る。いいか?」


ジンシェンの頭の上でワイヤーのごとくな触覚を握るラキラとデンゼルが同時に、俺に視線を向けた。二人は頷きあうとデンゼルが、よろしく頼むと返事をした。


「ということだ」


そう言って、一番前の鞍をハロルドに譲った。ハロルドは大喜びだった。のけぞってガッツポーズをする。さらには俺の手を握って二度三度大きく振った。


イーデンらは誰もがあきれていた。だが、クレシオンでの戦いでこいつが頼りになるってことを皆知っている。ハロルドが一番前の鞍に腰を下ろすのを黙って見守った。


続いてアビィとジーンだ。竜王の門で露出の多い安っぽい皮の防具を捨てさせ、今は白銀のプレートアーマーを着させている。男に見劣りしない体格で、二人とも見かけはもうりっぱな騎士だ。


派遣団のメンバーは準備をしつつ、あるいは集合しつつ、俺たちの様子を横目でずっとうかがっていた。


俺の仲間たちが恐れもしないどころかまるで観光バスにでも乗るように順にドラゴンに跨っていく。アビィとジーンの番に至って派遣団はというと空気が変わる。何日かの移動で派遣団のメンバーはこの二人が女だと薄々勘付いていた。


彼女らが鞍に座ると我も我もと団員が結界を抜けて来た。とはいえ、やはり最初はエリノア団長様からだ。俺はエリノアの前まで進み、手のひらを差し出してエスコートしようとした。


自称赤毛の乙女のプライドか、エリノアはキッと俺を睨むとプイっと顎を斜め上に挙げた。エスコートを無視し、ジンシェンの背に上がる。


頑張っているのが分かる。だが、体は嘘を付けない。腰が少し引けている。バリー・レイズらも次々とジンシェンの背に乗った。


それからはもう流れるようである。思った以上に騎乗はスムーズだった。


俺は全員鞍に着くのを見届けると後方へ歩きながらちゃんと座っているか一人ひとりチェックした。不具合はないと判断し、最前列のラキラに向かって手を振って合図を送ると最後尾に騎乗する。


ジンシェンの初動は緩やかだった。皆を怖がらせない配慮だと思う。俺が初めて乗った時はいきなりトップスピードだった。しかも、強化魔法を掛けて。


今回は魔法を無効化する俺がいるので走行もそれよりかはスローペースとなろう。ローラムの竜王と会って帰って来る時もそこそこゆっくりだった。あの時と変わらなければ鞍も有ることだし、派遣団の面々は安全で快適に旅の時間を過ごせるだろう。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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