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第166話 ユートピア

ラキラは小さい笑みを浮かべてコクっと頷くと、すぐに視線を落とした。


俺が去ることは分かっていたはずだ。ラキラには元の世界に帰りたいと言っていたし、俺はそれをずっと望んでいる。


「カール・バージヴァル。やつは近々エンドガーデンに舞い戻ってくる。罪なき兵団を引き連れてな」


ラキラのコップを持つ手は両の手で包み込むようだった。緊張の現れなのか。しかし、これは言っておかなければならない。ラキラにとって脅威になり得るからだ。


「ラグナロク。聖典で語られる箱舟だ。君たちもその存在は語り継いでいるんだろ。やつは今、そこにいてドラゴニュートを倒したというパワードスーツの訓練に励んでいる」


どうやってカールがラグナロクに行ったのか、カールが何をしようとしているのか。そして、カールとエリノアの関係をも、俺はラキラに語って聞かせた。


「ローラムの竜王の結界は無くなる。やつはそれを知らない。だが、弱まっていることは認識している。俺が思うにカールは必ずシーカーの里にもやってくる。やつにとって十二の里はドラゴンとの境界を巡る戦いにちょうどいい前線基地となる」


ラキラに反応があまりない。これ以上聞きたくないってことか。赤みがかった頬は薄っすらとだが、悲しみの色が見え隠れした。


「カールはドラゴンライダーの存在を知らない。やつの軍門に下れば、いずれ兵としていいように使われるだろうし、戦うにしてもカールは簡単な相手ではない。罪なき兵団は王都から飛び立った数だけで二百体。他に魔法の騎士団を造るだろうし、ヴァルファニル鋼も手にしている」


ラキラが手を打たないとは思えない。もし、カールの軍門に下るとしても結局里のドラゴンが傷つくことになるのだから。


俺は随分と長い間、ラキラの言葉を待った。すでに俺はラキラに手を貸せないと言っている。


俺たち二人はどれくらい世界樹の明かりを眺めていたのだろうか。ラキラはぼそりぼそりと小さく、か弱い声で語りだした。


「ローラムの竜王が“空”となれば、わたしたちは希望する人たちと一緒にエトイナ山に移り、大世界樹を私たちの家にします。ヤールングローヴィが言うには、今まで大世界樹があったためにエトイナ山の周りには世界樹が育つことが出来なかった。そこに出来るだけ多くの世界樹を植え、はぐれドラゴンの数を減らそうと思ってる。ジルドとマウロも、手を貸してくれるって言ってくれました」


はっとした。その手があった。俺は手を打ちたい気分だった。


エトイナ山はふもとまで大世界樹以外ない禿山だ。大世界樹が養分か何かを全部吸収していたから他の世界樹が育たなかったってことか。あれだけの広さだ。大世界樹が枯れれば数え切れないほどの世界樹を植えられる。


そして、ジルドとマウロだ。ラキラの親代わりの小太りなじいさんたちはずっと世界樹の森を管理して来たその道のプロ。


俺は戦うことばかり考えていた。竜王の結界がなくなれば、はぐれドラゴンは一斉にエンドガーデンに向かう。やつらにとってエンドガーデンはユートピアだ。欲望のままに蹂躙してくるのだろう。しかし、そのはぐれドラゴンもヤドリギを持てばはぐれドラゴンではなくなる。


エンドガーデンがはぐれドラゴンに襲われるのは少なくとも一時。


だからか。ローラムの竜王はそれでドラゴン語を出来るだけ多くの人に授けようとしていた。人の寿命は短い。ドラゴン語を覚えたって一代限り。俺は魔法なんて付け焼刃だと思っていた。どころがだ、本当に一代限りで十分だった。


《この景色を忘れないでいて欲しい。わしのたっての願いじゃ》


それはローラムの竜王がラキラに向けて言った言葉。二人は大世界樹の樹冠の上からローラム大陸を眺めていた。ローラム大陸は西の方が断然広い。地平線の向こうまで森が広がっている。


あの言葉はギフト。ラキラにエトイナ山を譲るという意味だったんだ。


そうか。そうなんだ。これら全てひっくるめて“赤毛の乙女”ということなんだ。ラキラは人類とドラゴンの希望。


そうなると、笑えてくるのはエリノアだな。如何に小さな存在で、やってることも如何にみみっちいか。己を大きく見せようと必死で、かえって可哀そうとすら思えてしまう。


エンドガーデンで右往左往してればいい。それは十二支族の里も同じってことか。ヤールングローヴィは俺にはっきりと言い切った。十二の主は何があってもラキラを守ると。


「ジルドとマウロは分かった。で、十二の里の主は? 当然ラキラについていくのだろ?」


「いいえ。わたしの力では十二同時は難しい」


「じゃぁヤールングローヴィだけでも連れていくのか?」


「里の主には里を守って貰います」


「ドラゴンの領域まっただ中だぜ。誰が君を守るんだ」


『心配するな。俺がいる』


ジュールが話に割って入って来た。目が覚めていたようだ。ニヤッと口角を上げている。人間界で育ったためか前より表情が豊かになっていた。


『それは面白くない冗談だな。カール・バージヴァルも森のジェトリも強敵だ。甘く見てはいけない』


「怒らないで、キース。私は大丈夫。竜王様が私に護衛騎士を付けてくれたの」


護衛騎士? ローラムの竜王が?


『安心しろ。お前の知ってるやつだ。あの灰色のドラゴン。人の姿をして里にふらっと現れた。魔法で化けたんじゃないぜ。ありゃぁきっと、やつの竜人化した姿なんだろうな』



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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