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第162話 予言

レオンシオはマリユスの馬の横につくと何か声を掛けていた。おそらくは勇気付ける言葉を与えたのだろう。マリユスはレオンシオの言葉を聞いてうなずくと剣を抜いた。


皆に向かって出陣の号令をかける。そして、あぶみで馬に合図を送ったかと思うと走り出した。続々と、騎士らがその後に続く。


宮殿の回廊はトンネルのようで、俺たちは列を作ってそこを進む。やがて門を抜け、丘を駆け降りる。


メレフィス騎士団はもう教会側の丘、市街地に入っているようだった。イザイヤの騎士団もそれを追うように馬を走らせている。


シーカーはというと、まとまりを見せず、それぞれグループを作って丘へと伸びる石畳の上を進んでいた。


教会を中心とした市街地に城壁はない。門だけが街と草原の境界を示している。四角い塔が門扉を挟むかっこの門だった。街の防衛というより邪気を祓うという宗教的な意味合いで建てられていた。


俺たちゼーテ軍二百も教会へと向かう。草原に作られた石畳の街道を疾走する。シーカーらは俺たちの姿を見るとなぜか道から離れ、下馬した。そして、俺が通ると膝まずく。シーカーは五十人だ。俺を、我が王のように讃えている。


門を抜け、大手道を教会に向けて馬を走らせる。丘を登って一番高いところを目指すのだから、なかなかの勾配を登っていくことになる。


何か所もヘアピンカーブがあり、部分的に階段のところもあった。後ろに置いて来たシーカーらも追って来ている。


花びらが舞っていた。石畳の上も花びらでいっぱいである。時折歓声も聞こえた。多くの住民らが俺たちのエトイナ山行きを祝福していた。


やがて花びら舞う向こうに教会の塔が見えた。近付くほどにその姿があらわになっていく。まさに天をくようである。


先行する騎士団の姿は坂の向こうに吸い込まれて行った。そこは広場であり、結集場所でもあった。


広場は、先に到着したメレフィスとイザイヤの騎士団で半分以上埋まっていた。そこからは広い階段が四、五十段ほど続き、登り切ると教会の大扉がある。その大扉の前に、教会関係者共々エリノアらの姿があった。エリノアらは俺たちの到着をそこから見下ろしていた。


マリユスが階段に向けて馬を進めた。毛皮の襟付きのマントが目印となって階段に向けて道が開かれていく。俺たちも後に続く。下馬せずにそのまま階段を駆け上がった。


広場にはシーカーも加わり、その数は五百五十ほどに膨れ上がった。この国一番の広場にずらっと人と馬が並ぶ。


階段の上、その中央でエリノアは扉を背にして空を見上げていた。両隣には大司教キエーザとバリー・レイズ。


キエーザの向こう隣りは教団の騎士でローレンス王の三男フェリクス。バリー・レイズ側は順にマリユス、俺、そして、イーデンだった。


雲の切れ間から光が差した。エリノアはそれを待っていたかのようにアーメットヘルムを脱ぐ。兜から髪がさらりとこぼれ落ちる。プラチナブロンドが日差しを浴び、赤っぽく見えた。驚くことにエリノアの髪はプラチナブロンドではなかったのだ。


「おおお、これは、なんと!」


大司教キエーザが二歩三歩、後ずさった。


「王太后陛下は予言にあった赤毛の乙女」


そして、階段の下に向け、大声で言い放った。


「皆の者! 頭が高い! ここにおわすは赤毛の乙女なるぞ!」


大司教キエーザは階段を二段、三段と降りた。そして、深々と頭を下げる。


ブライアン王は信仰の守護者と言う称号を法王に与えられた。教会の下にひれ伏したと思いきや、逆だった。


バリー・レイズはもとより、フェリクスも階段を下りる。マリユスもそれに倣った。


この場でそれは違う、と水差すことは出来なかった。俺も続くしかない。階段の下でエリノアに頭を下げる。広場の騎士たちも次々に下馬して膝まずいていく。


俺が膝まずく姿を見たからか、シーカーらも下馬して膝をつき、頭を下げた。


エリノアの髪はストロベリーブロンドだった。日の当たるところでエリノアを見たことが無かった。いや、意図的に隠していたのかもしれない。


教会はいつ、そのことを知ったのだろうか。おそらくは俺の裁判中であろう。エリノアが魔法を開放する由を伝え、私は赤毛の乙女だとアピールした。もちろん、カールも一枚噛んでいる。もしかして、罪なき兵団も意のままに操れるとまで言ったのかもしれない。


俺が死刑になっていれば、王と聖女という立場でカールとエリノアはここに立っていた。ローラムの竜王が意図するものとは全く違うが、少なくとも本人たちはその姿を望んでいた。


いずれにしても、教会はエリノアを赤毛の乙女と認定したのだ。以降、彼女を聖人としてあがめ、支援していくのだろう。


騎士修道会の総長フェリクスは派遣団の騎士団長でローレンス王の三男、マリユスの兄だ。ゼーテの派遣団もいざとなったら俺から離れ、教団やメレフィスと行動を共にする。もちろんメレフィス自体はエリノアの身内ばっかりだ。もう誉め言葉しか思いつかないぜ。


タイミングよく、流れる雲の切れ間からスポットライトのごとく陽がエリノアを差した。金色のプレートアーマーが光の反射で輝く。誰もがその光景に息をのんだ。


時が止まったかのようだった。出陣で荒ぶる騎士らがまるで紙芝居を見る子供のようである。目を輝かせ、エリノアに食い入る。


場は温められていた。エリノアは居並ぶ騎士らにグルリと視線を巡らせると機を見計らったように剣を抜いた。


「これよりエトイナ山に向かう。よいか、方々。人類の未来は我らの手にかかっている」


皆、立ち上がって剣を抜いた。そして、高々と掲げ、エリノアの名を連呼する。広場は熱狂の渦となっていた。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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