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第161話 出陣

流石というべきか、お転婆は噂通り。でもってレオンシオの妹、知恵もある。抜かりはないってわけか。


「あなたが道を示せって言ったのよ。わたしもエンドガーデンのために働く。わたしはわたしのやり方で」


眉間に決意を示す皺が刻まれている。白いドレス姿からは考えられない。もちろん、止めて止まるようなジャクリーンではないのは分かっている。


「あなたもそうでしょ。あなたはローラムの竜王に命じられて動いているんじゃない。自分の意志でローラムの竜王のために働いている。でも、それがエンドガーデンのためになるとも思っている」


それは違うよ、ジャクリーン。君たちには悪いが、俺は俺のために動いている。


ジャクリーンの手の平が俺の胸に置かれた。


「危険な旅をするのね。あなたはずっとこの先も」


そうだ。そして、それを終わらせるために旅をしている。君と一緒にはいられない。


「わたしは大丈夫」


分かってくれたか。


「わたしは、あなたの足手まといにはならない」


え? 足手まとい? 変な言い回しだな。君は君の道に進むんだろ。


戸惑っているとジャクリーンの手が俺の首に絡みついて来る。ジャクリーンが俺を引き寄せた。


「わたしもあなたについていく」


ジャクリーンの唇が俺の唇に触れた。


「どうか邪魔しないで」


そう言うとジャクリーンは走って行く。そして、回廊の向こうに姿を消した。





ライオン宮に角笛が響き渡った。俺たち七人とレオンシオはその音源、幾つもある塔の中で最も高い四角塔を見上げた。


「おいでなさった」


そう言ったのはハロルドだ。俺たちは低い四角塔でメレフィス騎士団の到来を待っていた。視線を草原に移す。


角笛が何度も吹かれていた。俺たちのいる塔からメレフィスの姿はまだ見えていない。レオンシオが言った。


「シーカーも現れたようだな」


大地に人が湧くように四方八方から軽装備の戦士たちが姿を現した。馬に乗った三、四人のグループがあちらこちらで草原を進んでいる。アビィとジーンと同じく在地のシーカーたちである。エンドガーデン全土から集まって来たのだ。彼らはライオン宮と竜の門を挟んで向かい側の丘、教会のある方へと向かっている。


丘を覆うほどの建造物群。その最も高い場所にある教会の鐘も鳴り響いた。何度も打ち鳴らされ、角笛と相まって山々にこだました。


やがて俺たちにもメレフィス騎士団が目視できた。無数の旗をなびかせ馬を走らせている。総勢約二百騎。第十陣までエトイナ山に向かわせる軍編成だ。メレフィス騎士団は街道の辻を直進した。ライオン宮の前を横切り、そのまま結集場所、教会へと向かうのだ。


俺は違和感を覚えた。先頭を行く騎士の両サイドが大司教マルコ・ダッラ・キエーザとバリー・レイズなのである。キエーザとバリー・レイズが両脇を支えるとなるとエンドガーデン広しとはいえたった一人しか思い浮かばない。


もちろん、ブライアン王ではない。体格が違い過ぎる。考え得るはエリノア。


やつはブライアン王の後見人の地位をリーバー・ソーンダイクに譲り、魔法省設立のみにたずさわった。派遣団のメンバーも全部身内で固めている。


わざわざ出張ってくる必要があったのか。罪なき兵団、ヴァルファニル鋼とそれらはすでに手中にあった。それに加えて魔法も熟れた果実のように待てば勝手にその手の内へと転がりこんで来る。


魔法は王族のあかし。それを得るために若き王族はエトイナ山に向かう。それが今この瞬間、終止符が打たれた。


まさか、あのエリノアがノスタルジーに駆られセンチメンタルな気分になって、エトイナ山派遣団に加わったわけではなかろう。


徹底的に俺を権力の座から遠ざけるつもりなんだ。もしかして内心、魔法開放のリーダーはカールだったのにィって、キーってなっているとかな。


東の方角からイザイヤ教団の騎士も姿を現した。総勢百。率いているのはローレンス王の三男フェリクスだ。教団はゼーテ国内に自治を認められていて、王家の人間が騎士修道会の総長になるのが古くからの習わしだった。イーデンが言った。


「殿下、そろそろ我々も」


うむと返事をし、四角塔を後にした。


階段を駆け下り、中庭を横切り、回廊を走る。馬屋のあるくるわにやってきた。すでに騎士二百が待機しており、至る所からいななきや足踏みするひづめの音か聞こえる。出陣を待ちきれず、浮足立っている。


俺が馬にまたがるとレオンシオが俺の足元についた。


「キース殿、マリユスをお頼み申す」


マリユスとはローレンス王の末の子息でリーバーやレオンシオの末弟である。十八歳になろうかという、ローラムの竜王との契約をひかえていた青年だ。彼の名誉のためにローレンス王は彼をゼーテの派遣団団長に指名した。


「ああ、任せてもらいたい」


マリユスはマントの襟が毛皮で装飾されていた。俺の言葉を聞いて安心したのかレオンシオはひしめく馬の間を縫ってマリユスへと向かう。俺は骸骨のアーメットヘルムを被る。


この中にジャクリーンがいる。俺はゼーテの騎士らを見渡した。狭い馬屋郭うまやくるわは騎士で溢れかえっている。しかも、マリユス以外は皆、黒一色のプレートアーマーだった。


結局、俺はジャクリーンを見つけられなかった。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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