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第159話 宴

「ガリム湾のダンジョンの話は以前しましたよね。入口は大きな四角錐の建造物にあると。しかし、そこに入口は見つけられなかった」


ガリム湾のダンジョン! そういやぁハロルドはガリム湾に行ったと言っていた。


「ずっと頭に引っ掛かっていたことですがね、バリー・レイズのアーマーは建造物の壁面の素材に酷似している」


建物の材質は確か、黒く、ガラスのようでもあり、金属のようでもあると言っていた。ハロルドは実際それをその手で触り、バリー・レイズの防具もその目で見た。


「面白い話ではあるが、それがどうヴァルファニル鋼と関係する。おまえは確か、ダンジョンの材質は不明だと言っていたはずだが」


「はい。シーカーの古い伝承でも素材について何も語られていない。中が迷宮になっているってだけ。わたしはサンプルを取るために壁を削ってみた。が、傷一つ付かない。仲間のシーカーが魔導具フェンリルでぶっ叩いた。それでも壁はピクリともしなかった」


フェンリルとは竜王のジェトリ峻険しゅんけん公の背骨を素材にしたウォーハンマーだ。地を揺らす者という意味があり、魔導具の効果は会心の一撃。


「その素材が何なのか、わたしには知る必要があった。なぜならば四角錐の建造物にあるはずの入口がなかったからだ。わたしはどうしても中を見てみたかった。苦労してあそこまで行ったんですよ、わたしたちは」


大変な旅だったに違いない。話しを進め易くするために俺は同情する意味でうなずいてやった。


「帰ってから血眼になって文献をあさりましたよ。ですが、全ては徒労に終わった。今、殿下が言ったヴァルファニル鋼という言葉。わたしもずっと考えていました。物語でアイザックはドラゴンと取っ組み合いの力比べをした。もちろんそれは空想上で現実ではない。けれど魔導具をも寄せ付けない素材というならば、数多あまたの書物の中でそれしかもう思い浮かばない。わたしは『嘘つき勇者のアイザック』を徹底的に調べ上げましたよ。作者不明のその手の話には大抵何かが隠されている。実際そうやってわたしは王都の古代遺跡を見付けましたからね」


「で、結果は?」


「残念ながらヴァルファニル鋼については謎のままです。ですが、別のことが分かりました」


ハロルドは、バリー・レイズのアーマーと武装の正体、あと、パターソン家のことを話したいと言っていた。


「それがパターソン家か!」


「はい。現在の『嘘つき勇者のアイザック』では、騙された王は明記されていません。ですが、古い物では明記されているんです。騙された王は今から三十二代前。その名はパトリック。ヴァルファニル鋼のアーマーを身に着け、契約の旅に長城の西に入ったのはパターソン家の始祖エリック・バージヴァル。以降、賜性降下してパターソンを名乗った。エリノアの実家です」


なるほど! そういうことか。ヴァルファニル鋼の出所までは行かないが、ガリム湾にある魔法のダンジョンとヴァルファニル鋼、そして、エリノアが繋がった。ここでも創造者ってわけか。


バリー・レイズが魔法陣を切ったことはまだ全員には言っていない。俺はそれを話し、最後にこう付け加えた。


「エリノアは魔法に打ち勝つ算段があるからこそ、魔法の開放を進めている」


エリノアは手放した権力をいつでも回復出来る。言い換えれば、メレフィスに訪れた民主化は一時の夢だということだ。


皆、押し黙っていた。誰もが蝋人形のように一点を見つめている。天幕を叩く雨音だけが耳に響いていた。


皆、思うところがあるのだろう。カリム・サンなどは憤慨ものだ。だが、俺の考えは皆と違うところにあった。おそらくエンドガーデンはカール・バージヴァルの下に統一される。俺はそれが最善とはいえないまでも、悪いとは思えなくなっていた。


カールが求める姿こそ、そもそも人類が望んだものだった。しかし、それは王家の始祖らの裏切りによりくじかれた。


誤解なきよう付け加えるが、王家の始祖らの裏切りを俺は全否定しているわけではない。そのおかげでラキラ・ハウルのような、環境に適応した者が現れた。


環境に適応できなかった生物は滅ぶという。まさにエンドガーデンの人々だ。しかし、ここにいる者たちを含め、彼らも生まれてきたからには生きる権利がある、と俺は思う。


自然の摂理を捻じ曲げる。カール・バージヴァルぐらいぶっ飛んでないとそんなこと到底成し得ないだろう。やつのことは嫌いだ。しかし、それは認めざるを得ない。





この日、タァオフゥア、ファルジュナールとの和平がなり、今夜はそれを祝う晩餐会の予定であった。しかし、両国の王太子は二人そろってそれを断った。捕虜になっていた弟たちを一刻でも早く養生させたいという理由だ。会談が終わるや否や帰国して行った。


彼らもロード・オブ・ザ・ロードが消失してしまったのは知っていよう。少なくとも帰還式で介添人のカール・バージヴァルが俺に代わって公衆の面前で、ローラムの竜王の力が衰えてきているというような趣旨の話をした。


ローラムの竜王が使いを出し、その使いが俺たちを乗せてエトイナ山に案内する。使いというのも俺の方便だが、当然それはリーバー・ソーンダイクの耳に入り、ローレンス王に伝わっている。


ソルキアにもその報は届いていることだろう。ローレンス王のきさき、ニーナはソルキアのヴァレリー王太子の妹だ。他にソルキアはヴァレリー王太子の妹をタァオフゥアとファルジュナールに嫁がせている。


時間的に王太子らの出立と入れ違いで、タァオフゥアとファルジュナールにもこの情報はもたらされたはずだ。


妨害すればどうなるか。彼らは王族だ。ローラムの竜王をその目で見ている。あの巨体は恐怖の対象でしかないはずだ。間違っても、エトイナ山に行く俺たちを妨害しない。そのうえで二国の王太子は血の盟約で騙され、持って行き場のない気持ちを引きずって本国に帰還するのだろう。


晩餐会は予定通りとり行われた。タァオフゥアとファルジュナールが欠席してもメレフィスとゼーテのよしみは変わらない。それに俺はただの客ではない。王女のフィアンセだ。ゼーテが国を挙げて祝ってくれるのだと言う。


貴族や上級市民らは和平がなり、よっぽど安心したのだろう。エンドガーデンに流れる不穏な空気に不安を抱いていた。


王女が結婚するという話題も彼らを明るくさせた。惜しげもなく美酒や豪華な料理が出される。会話は弾んで、晩餐会は終わりを見せない。


俺は酔い覚ましと称して、会場を抜け出していた。中庭を臨む回廊を少しばかり歩き、手摺に肘を乗せ、体を預ける。


うたげはいつか終わるものだ。俺は中庭を見るでもなく、ただぼんやりとそんなことを考えていた。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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