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第148話 王立図書館

「と、申しますと」


「わたしはこれから皆に先立ちゼーテに行き、その後、合流し、龍哭岳りゅうこくだけからエトイナ山に向かいます。ご承知の通り、危険な旅です。バージヴァル家に生まれたあかしとして、王立図書館の魔法書を見てみたい。わたしには成人の儀式がなかったのです」


竜王との契約にあたり、オリジナルの魔法書の前で儀式が行われる。それが成人の儀式だが、俺はそれをすっ飛ばしてエトイナ山に向かった。キースの悪行がそもそもの原因で、直接のきっかけはカールがしでかした罪なき兵団騒動だった。


「一度っきりでいいのです。わたしの騎士フィル・ロギンズなる者を王立図書館に同行させて頂けないでしょうか。もちろん分かっています。王族でないと地下には入れない。もし、それでも、私の騎士の同行をお許し頂けるのなら、これからこの足で、すぐにでもわたしの魔法書を王立図書館にお持ちしましょう」


エリノアにとって、魔法を得る旅の後も俺が魔法書を持っていて、のらりくらりと返却を先延ばしされるのは相当なリスクだ。


それがどこの馬の骨か分からぬ魔法の素人を同行させるだけでそれを回避出来るという。俺の腹の内も当然気にはなろう。さぁ、どうする? エリノアよ。





芝生が張られた広い敷地がある。そこは王族だけが立ち入れる庭で、その中央に真四角で窓だけの、真っ白い建造物があった。


正方形の一辺だけは壁もなく大きく開かれている。入るとすぐに階段で、建物の一辺とほぼ同じ幅の階段が二十段ほど下に伸びていた。


その先には大きな机が一つ置かれていて、学匠が二人いた。歴史古文書局の職員だ。一人は机に座り、一人はボーっと突っ立っている。机の後ろには墜落防止の手摺があり、その向こうにさらに地下へ降りる階段がある。


建造物はというと地上から上に五、六メートル。フロアは地上から四、五メートル下で、階段と机がある飾りっ気も何にもない吹き抜けのホールであった。


ただ受付だけの部屋。机の後ろには地下への階段。真っ白い壁に、窓から射す日差し。


俺は机の前に立った。ずっと下を向いていた机の学匠があざとく俺に気が付いた素振りを見せ、よっこらせっと腰を上げ、よくぞお越しを、と口先だけで言うので、俺はそっけなく机の上に魔法書をポンっと置いてやった。


とぼけたこの二人は、俺とフィル・ロギンズが来るのをどうやら聞いていたようだ。不愛想にフィルにも挨拶し、機械的に返却の手続きに入った。


俺は差し出された紙にサインをした。さぁ机の向こうの階段に降りようかとなった時、机の学匠は急に積みあがっている書類から一枚を取り出し、そこにペンを走らせた。一方、突っ立っている学匠はというと明後日の方を向き、モップで掃除を始める。机の上の魔法書を二人は触ろうともしない。


「魔法書はこのままでよろしいのですかな」


フィルがたまりかねて机の学匠に尋ねた。学匠はペンを止め、無言で後ろの学匠をペン尻で指す。指された学匠は気付いていないフリで懸命にモップで床を磨いている。


まるでやる気が無い。魔法書を触ろうともせず、さっきからずっとこの調子だ。王族を待たせといて見せる態度ではない。


本来魔法書の返却にここへ持参することはない。今回はブライアンの恩情で、俺たち二人は特別に立ち会う許可を得た。仕事ぶりを勝手に見てってくれというなら、まぁそれは百歩譲ろう。だが、あんたたち、それは間違っていないか。


キレる前に、珍しくフィルがキレた。元文官の血が騒いだようだ。机をドンと叩く。


「誰が魔法書を戻すんだっ! そのために君たちがいるんだろ!」


普段怒らない人間が怒ると迫力がある。学匠二人はしどろもどろになり、お前が行くんだ、いや、お前だと言い争いを始めた。その内容から察するに、机に座れない学匠の方が前回は地下に降りたようだ。今回は机の学匠の番らしい。


二人は明らかに地下に降りたくない。フィルが俺に耳打ちをした。


「殿下、どうやら噂は本当でしたな」


しばらくして結局、立っていた学匠が地下に降りるハメになった。地下に降りる階段は、人が二人並んで歩けるほどの幅で、折り返しタイプの鉄製だった。俺とフィルが並び、その後ろに学匠が魔法書を抱えている。


地下は温かみのある色の光でほんのり照らされていた。天井中央にロウソクの無い巨大シャンデリアが明りを放っている。


魔導具だ。地下全体が見渡せた。天井から下のフロアまで深さは約八メートル。フロアには本棚が摩天楼のごとく規則正しく大小様々にそびえ立っていた。


書見台は見当たらない。フィルの話によるとオリジナルの魔法書はその上に置かれていると言う。


階段と向かい側の方の壁には五メートルほどの石像があった。初代王のサディアス・バージヴァルである。そして、その像の下に、さらに地下への階段があった。


階段をまたぐように立つその姿からサディアス・バージヴァルはそこの守護像である。書見台は下の階にあるのは一目瞭然だった。


フロアに立つと本棚と本棚の間からサディアス・バージヴァルの姿が垣間見える。仁王立ちし、俺たちを睨みつけていた。


さらに地下に降りるにはそいつの股の下へ行かなければならない。俺たちはサディアス・バージヴァルに向けて進んだ。


本棚がゴトッと鳴った。それを皮切りにあちらこちらでもゴトゴト音がする。学匠は悲鳴を上げた。魔法書を放り投げて逃げて行く。


フィルはその学匠の背中を静かに見送ると床にある魔法書を拾い、ポンポンと埃を払う。


「どうやら、お出ましになられたようですな」


本が一つ、また一つと棚から飛び出して行ったかと思うとどれもが鳥のごとく羽ばたいて宙を舞った。


瞬く間に無数の本が地下の天井近くを埋め尽くす。無秩序に飛び回っている姿はまるでビル街から飛び立つ烏の群れである。


「ほっとこう。俺たちには時間がない」


俺は歩を進めた。サディアス・バージヴァルの石像が俺たちから数十メートル先にある。


「あれも動くんだろうな。どう思う、フィル」


「はい。本を飛ばしといて、これを動かさないなんて考えられません」


「だろ」


俺たちは気にせずに歩を進めた。案の定、石像が動き出した。サディアス・バージヴァルは手に持っている剣を大きく振り上げる。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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