第137話 長い廊下
誰もが魔法を使えれば、エンドガーデンに巣くう王族の権威もおのずと低下していくことになるだろう。己は誰も持ちえない科学とヴァルファニル鋼を手にする。人々もカールに信奉する。
そもそも魔法はドラゴンの王に与えられた。今ある権力は借り物だ。カールは違う。カールの持つ力はまさに神話を具現化したものなのだ。
ブライアンは王でエリノアは王太后。当然、やつはいつでも戻って来られる。タイミング待ちというわけだ。やつのことだ。劇的な登場をするのだろう。
ふと、違和感を覚えた。部屋に帰る道中であった。
いつの間にか真っ直ぐな廊下に俺ただ一人。さっきまで来賓やら従僕やらで廊下の行き来はひっきりなし、右往左往していた。ところが、なぜかここに来て、人の行き来はパタリと止んだ。晩餐会は会場を移したからか楽団の演奏も聞こえない。
耳鳴りが聞こえるほど静かだった。案の定、二つの人影が廊下の向こうに現れた。俺に向かって進んでいる。こんな怪しい登場の仕方をするのはあいつしかいない。
リーマン・バージヴァルとその従僕だ。キースの叔父で、イーデンの弟。いつもと変わらないピンと伸びた背筋で、腕を後ろに回し、従僕を従えていた。
晩餐会では、俺は二つある長いテーブルの、一方の誕生日席だった。正面を向いたテーブルにはエリノアやブライアン、そして、ソーンダイク親子。リーマン・バージヴァルはというと長テーブルのもう一方の誕生日席に座っていた。
前王アーロンの側近であり、宮廷内にスパイ網を張り巡らせている。内心、ブライアンを王とは認めていない。今は隣国ゼーテの王太子リーバー・ソーンダイクにピタリとくっ付いている。俺が会場を移さず辞したのを見て、行動を起こしたのであろう。
俺はブライアン王の戴冠式に合せ、旅立った。その前夜、今回のようにふらっと現れて、エリノアの情報を俺にもたらした。エリノアはエトイナ山行きのメンバーに、全て自分の身内をあてている。そりゃぁ、そうなるわなぁ。
今度の用件もおそらくはエリノアのことなのだろう。そうであったなら、俺も聞きたいことがある。カリム・サンやフィルが集めた情報だと俺の知りたい所、大事な部分が欠けていた。
リーマンはお気に入りのフットマンをその場に留めておいて、自分一人が俺に近付いて来る。長い廊下の中央で向かい合う。
人が来る気配は全くない。お得意の工作活動だ。従僕たちにいい加減なことを言わせて、この廊下に人を立入れないよう仕組んだ。
リーマンは形式ばった挨拶はせず、先ずはニヤリと笑った。
「さすがと、申しあげておきましょうか」
粘っこく口角をあげているところを見ると俺が王族二人を捕虜にしたことを知っている。おそらくはソーンダイクから聞いたのであろう。
「考え違いをしないでくれよ。あれは俺たちの友情と努力の勝利だ。強いて言うなら、俺と言うより俺の血筋が手助けとなったかもなぁ」
リーマンは楽しそうにクククっと笑った。
「御冗談を。殿下の戯れに付き合ってあげたいところですが、来賓の方々の下へ戻らないといけません。前に申し上げましたと思いますが、エンドガーデンの王族で近々十八となる男子は三人、順にソルキア、タァオフゥア、ゼーテ」
そういやぁ、そんなこと言っていたな。あれはアーロンを皇帝にする云々《うんぬん》の時だったか。
「いまやロード・オブ・ザ・ロードは消え失せたと聞き及びます。殿下はどうやってエトイナ山にお行きになられるつもりなのですか」
俺たちが道を失ったことを知っていたのか。例によってリーバー・ソーンダイクにでも聞いたか。あるいは、リーバーに裏を取って来いと言われたのかもしれん。いや、待てよ。そうか、そういうことか。
タァオフゥアとファルジュナール。辺境の街に注意を向けさせといて、真の狙いは俺だった。エトイナ山への道が絶たれたんだ。王家を存続させようと思えばどうしてもエトイナ山へ行かなければならない。
ロード・オブ・ザ・ロードがないのに、俺は人々をエトイナ山へ連れて行くと言った。しかも、それはローラムの竜王の要請だときた。
ソーンダイクと同じようにタァオフゥア、ファルジュナールも行く方法を知りたがっているはず。としてもだな、加減というものがあるだろうに。
雨男と風小僧の攻撃はマジだった。本気で殺す気でかかって来た。魔法を持つ者同士の戦いはあんなもんなのか。まぁ、何が飛び出るか分かったもんじゃないから半殺しならぬ八分殺しにしないといけないのかもなぁ。
「実はこのような状況なのでローレンス王は第五子マリユス殿下の契約を急ぎましたところ、シーカーの返答はロード・オブ・ザ・ロードが失われているのでエトイナ山への移動は不可能だ、とのことでした」
ローレンス王とはリーバー・ソーンダイクの親父だ。そういやぁ、転がる岩の長、確かバーデン・ハザウェイとか名乗ったか。
あいつは、王国はもう滅ぶ、と言ったっけ。風の鞍のクソガキもそう言っていた。シーカー十二支族は王国を見捨てたのだ。
「リーバー王太子の下の弟レオンシオ殿下がその目で確認に参りましたそうです。ロード・オブ・ザ・ロードは本当に失われている。そのうえシーカーも頼りにならない。お応え願いたい、殿下はどうやってエトイナ山へ行かれるのです」
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