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第134話 レガリア

前王時代、アーロン王の性格を反映してか、世の中自体がギスギスしていた。晩餐会なぞは考えられない。民衆どころか貴族も楽しむことが許されない雰囲気に包まれていた。皆、こそこそ陰で楽しみ、いかがわしい者もそこに湧いて出た。


随分と変わるもんだな。アーロン王がキースを嫌っていたのは周知の事実だ。世間はそれに同調していた。俺なんか公の場に出てみろ。白い目で見られていた。


アーロン王がもしこの場にいたなら、俺の登場に悪い意味で皆のフォークが止められた。俺がアーロン王にいびられると誰もが思う。そんなのは見たくはない。その場に嫌な空気が流れる。そりゃぁ、誰もが陰で俺をあざ笑うわな。


バリー・レイズの姿があった。長テーブルの下手しもての席だ。英雄といえどもぽっと出では、国家の序列はまだまだ後ろだ。


両横のご婦人紳士に話しかけられている。バリー・レイズはフォークを手に持たずに、真剣に聞いている風を装っていた。パレードの時の冷たい目を思い出すと意外と常識人であることに安心する。


ブライアン王は俺の姿に気付いたようだ。顔がほころぶのが分かる。ウキウキしている。俺が来るのを待ち構えていた。どうやら俺はブライアン王に気に入られているらしい。


ブライアン王の前で、俺はひざまずいた。ブライアン王がグラスを手に取り、そのグラスをスプーンで叩く。一変、音楽が止み、晩餐会は静まり返る。


ブライアン王が立ち上がった。親愛なる臣民よ、と幼いながらにはっきりとした言葉で招待者に呼びかけた。デルフォードでなく、王自らがエトイナ山行きを発表するようだ。


おそらくはエリノアの指示だろう。何を言い出すかわかったもんではない俺やスタンドプレーに走るデルフォードでは怖くて人の前で喋らすことは出来ない。


ブライアンは、俺の働きによりエトイナ山への道が確保されたと言うと拍手をした。会場が一斉に拍手に包まれる。俺は立ち上がると席に付いた。音楽が再開される。


テーブルに出された料理は十四皿のコースの内、六皿目だった。牡蠣、スープ、サーモン、パイ、マトン、ビーフ、鳥、ジビエ、果物。料理に合ったワインやシャンパン。ブライアン王のおかげで晩餐会の居心地は良かった。こんなこと、この世界に来て初めてだった。多くの人と話しが出来たし、名前も知った。


晩餐会は盛況で、料理が終わると全員別室に移動し、自由に歓談するという。それは遠慮することにした。俺には遊んでいる暇がない。


皆が別室に移動を始めるとエリノアの席に多くの人が向かって行った。エリノアとお近づきになりたいのだろう。ブライアン王の周りはまばらだった。


来ようとする者は、正装に装いを変えた近衛騎士に追い払われている。ブライアンはもう自室に引き上げるのだろう。これ以上の機会は無いと俺は思った。


席を立つと俺はブライアン王の前まで行き、ひざまずいた。ブライアンは近衛騎士に目配せをする。俺に時間をくれるようだ。俺の笑顔にブライアンは笑顔を返した。


「陛下、今夜はありがとうございました。感謝します。食事も酒も全てが最高の夜でした。おしむらくは」


「おしむらくは?」


「はい。兄上のことです。できれば兄上にもこの場でメレフィスの未来を祝って頂きたかった」


ブライアンは俺から目を逸らすとうつむいた。表情は硬かった。俺は横目でエリノアを確認した。多くの人に囲まれている。落ち着いた物腰で一人ひとり目を合わせ受け答えしていた。俺はブライアンの小さな手を取ると抱き締めるように身を寄せた。


「兄上によろしく言って下さい」


そう言うと体を離した。ブライアンはきょとんとしていたが、少し考えたようで口角をぎゅっと結ぶ。やがてそれが緩んだかと思うと、うん、と小さく頷いた。


俺は笑みを造り、うんうんとうなずき返す。そして、ではまた明日参上いたしますと立ち上がった。エリノアはまだ身動き出来そうにもない。


群がって出来た円は無秩序そうに見えてちゃんと話す順番があるようだ。おそらくは階級順なのだろう。入れ変わり立ち替わり挨拶をしていた。囲みは挨拶が終わっているのも含めて三十人はいよう。俺は晩餐会を後にした。


廊下をあるきつつ戴冠式の時を思い出していた。王笏の頭に付いていた幾何学模様の円盤。それに見覚えがあった。鳩の像が飾りつけられていたこともあり、そっちに目が行って、当初は気にも留めていなかった。


笏は国王の権威と正義の象徴であり、正統な王であることを示すレガリアでもある。戴冠式の際、王に手渡される。


天叢雲剣などの三種の神器や伝国璽でんこくじなどの印璽いんじがいい例だ。その王笏がエンドガーデンを統べる五つの王家にそれぞれ一本ずつ伝わっているという。


ブライアン王の戴冠式で、王笏の装飾が宝石と十字架に変わっていることをフィルが指摘した。王国が生まれ変わったことのアピールであると多くの者が思うだろう。フィルもそう思い、寂しがっていたし、多国間の関係において危惧もしていた。


なにしろ三種の神器を全て捨てたようなものだ。しかも、それは他国ではまだ大切に引き継がれようとしている代物。鉄板に芸術家が刻んだただの飾りではないのだ。


気にかかるじゃないか。幾何学模様が刻まれた円盤と鳩の行方が。だってそうだろ。王笏の頭には引き継がれる意味がある。三種の神器にある天叢雲剣だってただの刀剣じゃないんだからな。


俺は知っていた。あれが何かを。そして、どこにあるかも。おそらくはカール・バージヴァル。あれは今、やつの手中にある。ずっと手に入れることを望んでいた。


正直、やられた感半端ない。やつは実に転移魔法を上手く活用している。このためにあの魔法を選んだかと思えるほどだ。行った所、触ったものの所へはどんなに距離が離れようとも瞬時に移動できる。王笏の頭を盗むなんて造作もないことだ。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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