表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/202

第130話 女戦士

少し歩くとラース・グレンが俺たちの前に出、立ち止まった。そして、俺を見据えると深々と頭を下げた。


「あなた様とご一緒出来たことは光栄の極み。お困りのことがあれば何なりとお申し付けください。我々シーカーはどこにいようが駆け付けます」


さらにもう一度頭を下げ、俺の言葉を待たずして人ごみの中に消えていった。


どこにいようが駆け付けます、か。再会はそう遠くはない、王都に潜むシーカーの頭目ラース・グレンよ。メレフィス全体もおまえの管轄下なんだろ。今度会う時はきっとドラゴンの背中の上。一緒にエトイナ山に行くことになる。


竜王の門へ向けて歩を進めた。ちょっと歩いてすぐにカリム・サンが近付いて来る。耳打ちするように体を寄せて来て、あれっと後ろを親指でさす。


ラース・グレンが去ったのに、女戦士ら二人がまだいる。俺たちに付いて来ていた。


おやっと思ったが、いつのまにか姿を消すのだろうと考え直し、カリム・サンには、ほおっておけ、と言った。


ところがだ。いつまでたっても消えやしない。もう竜王の門という所で俺たちは足を止めた。カリム・サンが振り向いて言った。


「どういう了見だ」


カリム・サンの声色には帰れという嫌な感情が滲み出ていた。分かりやすいやつだ。女戦士らはというと全く動じていない。


「私たちは殿下に死ぬまで付いて行く。おまえには関係ない」


カリム・サンの表情が、なんだとぉとなった。「仕事は終わったんだ」と強い口調で女戦士に言い放つ。それでも女戦士らはピクリとも動かない。カリム・サンは目をいっそう細め、それから俺に視線を送った。目に角が立っている。


ため息が出る。どうしたものかと思った。確かクレシオンの戦いで女戦士の一人を救った。死ぬまでついていくというからには彼女らはその恩に報いようとしている。それならば気にすることはない。立派な行動でも何でもない。助けられたから助けたまで。戦場では当たり前のことだ。


とはいえ、犬を追い払うように帰してしまっては後味が悪い。俺たちは力を合わせて戦ったんだ。捕虜の面倒も見てもらったしな。


イーデンに目配せをした。イーデンは雨男と風小僧の襟首を掴んで俺たちから離れていき、建屋の石壁に顔を向かせた。もちろん、二人は後手に縛ってある。


「おまえたち、名前は?」


「アビィ・グリーン」


矢に討たれそうになったところを助けた女だ。


「ジーン・コックス」


二人とも二十歳ぐらい、いや、もっと若いか。体脂肪率がほぼ無い。引き締まった肉体ゆえか、大人びて見える。


「シーカーにはシーカーの仕事がある。俺たちには俺たちの仕事がある。互いにやり方も違っていれば、人の活かし方も違う。おまえたちは俺たちに出来ない仕事をやってほしい。それが俺の助けにもなる。俺のことは大丈夫だ。ほら、ここにいるおっさんら、彼らが俺を守ってくれる」


アビィとジーンの視線が俺たちの間を行き来していた。カリム・サンは苛立っている。フィルやハロルドは、俺たちで大丈夫だとでも言わんばかりに軟らかな笑みを見せていた。イーデンはというと雨男と風小僧の後ろにピタリと付き、変な動きをしないか監視している。


アビィとジーンは受け入れてもらえないと悟ったか、俺へと視線を集める。置いて行くなと目に熱がこもっていた。


よく考えれば、彼女らの顔をまじまじと見るのは初めてだった。二人とも大きな瞳の美人で、視線がばっちり合うとなんだか気恥ずかしい。目を逸らし、あらぬ方向へと向けた。やっぱ俺はおっさんだった。


「と、いうことだ」


勝ち誇ったように言うカリム・サンはなんだか偉そうだ。さぁ、行こ行こってな感じできびすを返し、歩き出す。フィルとハロルドも引っ張られるように歩を進めた。俺は一度口角をぎゅっと結んで、今度は二人をしっかりと見据えた。


「ありがとう。君たちがいてたすかった」


手を差し出した。別れの握手だ。


アビィもジーンもそれに答えなかった。ずっと大きなまなこが俺に向けられている。失望したのであろう。気迫はしぼんで、ああそうですかって冷やかな目つきとなっている。


はは。そう不貞腐れるな。おまえたちならきっとエトイナ山行きが許される。俺はイーデンに声をかけるときびすを返した。また会おうと心の中でそう言って、皆を追うように先へと進む。


イーデンが捕虜二人を連れて、追いついて来た。アビィとジーンは道に立ち止ったままだった。


と、思いきや、二人は距離を置いてずっと後ろをついて来る。業を煮やしたカリム・サンが踵を返し追い払いに行く。ハロルドが面白がった。


「シーカーの女はこうと決めれば決して折れない。殿下、とんでもないのに好かれましたなぁ。あの感じだと城だろうが何だろうが忍び込んで来て、普通に殿下の寝室まで入って来る。諦めた方がいいですよ。ほっときゃぁかえって騒ぎになる。面倒見るって言ったって悪いことばかりではない。この辺の女よりぁよっぽどいい。シーカーの女は男の喜ばせ方を本能的に知っている。しかも二人。こりゃぁ、大変だ」


経験有りって面だな。思い出して鼻の下を伸ばしてやがる。こりゃぁ、誤解を招きそうだ。


冗談はさておき、みすみす彼女らを危険にさらすこともあるまい。仕方がないな。連れていく他ない。追い払おうとするカリム・サンを呼び戻し、連れていく旨を言い渡した。


カリム・サンが例によって癇癪を起した。だが、慣れている。こいつは悪い男ではない。


「アビィもジーンも、この分だと竜王の門に忍び込んでくる。捕まったら死罪だ」


カリム・サンも凱旋パレードの凄惨な現場を見た。仮にも仲間だった者たちである。一緒に死線を潜り抜けて来たんだ。ハロルドも援護射撃してくれた。俺に言ったのと同じようにシーカーは言いだしたら誰の話も聞かないと説明した。ただ、夜這いの話だけは抜きである。カリム・サンの性格上、それを言うと逆効果だ。


弱いものが虐げられるのに怒りを覚える。こいつはそういう男だ。案の定、カリム・サンは承諾するしかなかった。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ