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第113話 橋

ラキラと目が合った。ラキラは、しょうがないねっていう肩をすぼめたジェスチャーを見せた。明らかにこの事実を知っている。バレないとでも思っていたのだ。


「言わないつもりだったなっ!」


思わず声を荒げてしまった。ラキラは何も言わず、じぃーっと俺の顔を見ている。分かってほしいという目だ。


ジルドとマウロが、姫を頼みますと懇願していた。あまりにも必死過ぎて、ラキラは相当甘やかされているなとその時は思った。二人はラキラに口止めされていてああいうしかなかった。あれはそういうことだったんだ。


もしかして、ヤールングローヴィも口止めされていたんじゃないのか。俺が尋ねたのをこれ幸いと本心を吐露とろした。味方は多ければ多いほどいいんだ。


ラキラもラキラだ。なぜこんなに大事なことを俺に内緒にする。水臭いと言えるほど近い間柄ではないのは分かっている。しかし、俺はこれから一緒に事を成し遂げようとする仲間だ。せめて最低限の情報は共有してもらいたい。


ここは社会人の先輩として説教したいところだ。が、俺も見た目はガキ。様にならないし、かえって反発される恐れがある。怒りは抑えるとしてだ。事情が分かったからには先輩として手を打ちたいところ。


ヤールングローヴィの話では、少なくともローラムの竜王がエトイナ山にいる内はいい。問題はその後のことだ。


言うまでもなく、いざという時に最も頼りになりそうなのがドラゴンライダーだ。だが、彼らには多くを期待出来ない。エンドガーデンと関わりを持たないと決めたからだ。


そもそも彼らのほとんどは、十二支族それぞれに属していて各々の里長の指揮下にある。おそらくは、今までの長い歴史で彼ら里の者は王国との接点を一切持っていなかった。エトイナ山行きの護衛役はタイガーと呼ばれる者が一手に引き受けていたように思える。


確かに、タイガーの組織にもドラゴンライダーはいるだろう。魔導具使いもいる。デンゼル・サンダースはその一人だ。


彼らは例外だ。大多数のシーカーは里から一歩も出ることもなく生涯を閉じる。自分たちがエンドガーデンから追い払われ、隠れるように暮らさねばならなくなったのは気の毒に思う。王国が滅びようが知ったこっちゃないって気持ちになるのも分からんでもない。むしろ、いい気味だと腹の中では笑っているんだろう。


だが、事はそう簡単じゃない。ややもするとシーカーの里自体が戦場になり得る。最悪の場合、ジェントリがラキラを奪いにシーカーの里に乗り込んで来るからだ。


十二支族の里長たちはそれが頭の隅にある。だから、在地のシーカーにドラゴン語を得る許しを出した。ラキラをなるべく里から遠ざけたいんだ。しかも、ラキラを王国にやれば里は王国から遠ざけられる。賢いドラゴンに対して中立であることを示せるしな。


いずれにせよ、何も関わりを持たず、静かにしていれば自分たちに類が及ばない、とそう思い込んでいる。だが、高みの見物なんて出来ると思ったら大間違いだ。


これはラキラだけに全てを背負わせて終わりって話ではない。ラキラほど力がないってだけでドラゴンライダーはどうしたってドラゴンライダーなんだ。シーカーが魔導具を欲するのと同じように賢いドラゴンも彼らを欲するだろう。ドラゴンライダーと名のつく全ての者に関わる事態なのだ。


それにカール・バージヴァルだ。皆、やつの存在を忘れてしまっている。やつは危険だ。


やれることも、時間も、限られている。在地のシーカーを出来る限りエトイナ山に人を送り込み、竜王の居なくなった後に備える。選択肢はない。


ん? そういえば確か、ラキラは危険を承知で在地のシーカーをエトイナ山に登らそうとしていた。


方法としては、出発地点とエトイナ山に一体ずつドラゴンを置いて、魔法で一人一人気長にエトイナ山に飛ばし、帰りも魔法で出発地点に戻す。そんなところか。ラキラの意見が聞きたい。


「ラキラ、エトイナ山行きのことだが、君は考えがあるのか?」


ラキラの視線はヤールングローヴィにあった。池の中央にそびえるマングローブのような巨大な世界樹。その袂に浮いてヤールングローヴィはクルリクルリと体を右に左に回している。ネコか犬が寝床の毛布を体にフィットさせようとする仕草に似ていた。


「ええ。一回目だけはジンシェンにお願いするわ」


なるほど! そうか! 


思わず手を叩いていた。どおりでローラムの竜王は俺たちをあそこに飛ばしたわけだ。ラキラも初めからローラムの竜王の意図が分かっていた。


ヤールングローヴィめ、知ってたな。ラキラが分かっているから自分から言うまでもないと。だから、ちゃんと答えなかった。


ジンシェンなら多くのドラゴンライダーを必要としない。ドラゴンライダー一人だけで用が済む。一体で一度に多くの人を運ぶことが出来るんだ。


「第一陣の仲間たちには転移魔法を覚えてもらう。これで王国の多くの人が、一枠失うこともなく魔法を四つ使えることになります」


列車を思わせるあの姿なら第一陣が五十五人といわずとも、一回で百人は下らない。それだけの人数が行ったなら、後はなんとでもなる。何人かに転移魔法を覚えさせて、エトイナ山にどんどん送り込めばいい。


多くのシーカーがドラゴン語を得る理由も立つ。魔法の制限は四つだ。そのうちの一つをシーカーが受け持ってくれるというのだ。王国でシーカーに抵抗がある者も納得せざるを得ない。


完璧だ。短時間で人種問わず多くの者がドラゴン語を扱えるようになる。


だが、それにも問題がないわけじゃぁない。巻雲の森と金床の森との間に川がある。その川は南の狭い海に流れ込むヘブンアンドアースの支流で、確かロックスプリングといった。


それを渡らなくてはならない。ジンシェンはタァオフゥア国から蝶の塔に向かうロード・オブ・ザ・ロードの橋を渡った。だが、その橋はもうない。


ロックスプリングを南に迂回したとしても、ヘブンアンドアースを越えられず南下して行き、やがては海に出てしまう。だったら川を渡らない方法を考えればいい。ジンシェンの出発地点を替えるとか。例えばもっと北にしてメレフィス国センターパレス付近のウインドウとしよう。


エトイナ山に直線距離としては一番近いのだが、はぐれドラゴンの巣窟、キングランが行く手を遮っている。であるならば、ロード・オブ・ザ・ロードがあったルートをそのまま走破すればいい。だが、それもセイトが立ちはだかる。


俺とラキラが灰色のドラゴンに転移魔法を掛けられたあの場所だ。里の主といえども背中に百人もの人を乗せているんだ。背中にいる派遣団の者たちもパニくろう。一体どれだけの者が生き残れるのか。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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