第112話 本能
とはいえ、確かにこの件に関すると賢いドラゴンはどうも歯切れが悪くなる。ヤールングローヴィを責められまい。何か制約でもかけられているのかと勘ぐってしまう。創造者というからには何でもありなんだろうがな。
いずれにせよ、これだけは言える。もし、そいつが賢いドラゴンから言葉を奪っているのなら、闇にうごめくどころじゃない。今まさに、そいつは神のごとくこの世界に君臨している。
キース・バージヴァルもそいつに殺されたのかもしれない。そして、俺はこの通り。どういう了見か知らないが、創造者と名乗っているからにはきっと深いお考えがあるのだろうよ。
興味が湧くぜ。俄然やり気になって来た。どんないい分か、この耳で聞かせてもらいたいもんだなぁ。
『もう話は終わった。眠たくなってきたので、』
ヤールングローヴィは世界樹へと戻っていく。
『では、ごきげんよう』
「はぁ?」
こいつは寝るのか? いやいや、そりゃぁ寝るわな。って、そんなところに感心している場合じゃない。
『ちょっと待て。話は終わってない』
ロード・オブ・ザ・ロード。これは絶対に訊かなければいけない。
『なんなんだ』
ヤールングローヴィが戻って来た。
『真夜中だぞ』
真夜中? ガキじゃあるまいし。
『ロード・オブ・ザ・ロード。ローラムの竜王はそれをなぜ消したのか、教えてくれ』
『そらぁ竜王に考えがあってのことだろうよ。僕には分からないよ。それとも、時間が満ちているのかもな。結界の弱まる周期も早くなっているってことを考えるとさ、ただ単に、竜王にそれだけの力がもうないってことかな』
投げやりだな。
『それでは困るんだ。ドラゴンライダーはエトイナ山に行かない。ロード・オブ・ザ・ロードも無ければエトイナ山に登れない。しかし、あんたも知っていよう。これはローラムの竜王が望んだことだ』
『じゃぁやっぱり、ローラムの竜王になんか考えがあるんだろうな。けど、ドラゴンライダーはエトイナ山には行かないよ。魔法を使えるようになるとドラゴンライダーではなくなる。それはヤドリギとドラゴンの関係に似ている。ドラゴンライダーと一緒にいるドラゴンはヤドリギから離れてもはぐれドラゴンになることはないだろ』
それは知っている。ラキラは世界樹の大樹に匹敵する。
『で、君たち王族の魔法使いはその関係で例えるならドラゴンだ。違うところは、ドラゴンはその個体の力量によってだけど、幾つもの魔法を使える。けど、王族の魔法使いはどう頑張ったってたったの四つだ。ヤドリギを持っていないせいでそれが限界なのだろう。まぁ、ヤドリギを必要とせずに生きていけるのだから仕方ないけどな』
ドラゴンライダーは見方によっちゃぁ魔法が使い放題。それなのにドラゴンも操れず、魔法も四つしか使えないとなっちぁな、俺でも拒否するぜ。そのうえ、やつらは俺たちをドラゴンに乗せるのも嫌ときた。分かっていたことだろうに、ローラムの竜王は何を考えている。
『もういいだろ、僕は眠いんだ』
『悪い。これが最後だ』
『君も以外としつこいな』
いそぐことはないと思っていたが、ローラムの竜王がそういう状態なら尚更訊かねばなるまい。
『ローラムの竜王が“空”とやらになったらエトイナ山はどうなる。次に王になるものは決まっているのか。それとも奪い合いになるのか』
次の王が決まっているのなら何とかなるかもしれない。ローラムの竜王からそいつに取りなしてもらって、ローラム大陸を守るため手を結ぶ。新たに契約を結び直せるかもしれない。ひいてはエンドガーデンも守られる。
『淡い期待を持っているだろぉ、君ぃ。残念だが、そうはならないよ。ローラムの竜王ほどのドラゴンになると世界樹とは一体なんだ。おそらくはエトイナ山の大世界樹も枯れる。エトイナ山は忘れられるよ。次の王については未定さ。ジェントリクラスのドラゴンが動くだろう。実力としてはドングリの背比べ。もし、そんなジェトリ同士やり合って、決着もつかず、その留守に三下のドラゴンに己のヤドリギを奪われでもしてみろ。君たちは誤解しているが、僕たちは守るより奪う方が本能的に勝っている。より大きい世界樹を目指すのは僕たちから止められないんだよ。しかも、王は決めないといけないときた。そこに葛藤がある。おそらく彼らは本能を必死で押し殺し、奪い合いを避け、ギリギリまで話し合うだろう。候補を絞り込み、最後は一対一の対決となる』
話し合いとなれば、当然治めるモノがいない空白の期間が生まれる。ザザムやガリオンがその間隙を突いてくるのは目に見えている。
ラキラと世界樹の上にいるローラムの竜王を思い出すぜ。二人は草原に立っているかのようで、ローラムの大地を眼下に見下ろしていた。
《この景色を忘れないでいて欲しい。わしのたっての願いじゃ》
今さらだが、あの言葉が心に響くぜ。雄大にして豊かなるあの世界樹が枯れてしまう。ローラム大陸を象徴する木だ。それが失われるとなると暗い未来しか見えてこないぜ。
ヤールングローヴィは言葉を続けた。
『それが王位継承の一番スマートな解決法のわけだが、話し合いを有利に働かせるために版図を広げようというジェントリもいるかもしれない。言ったようにどこかの跳ねっかえりの三下が、勝手に行動を起こすってことも考えられる。僕が心配なのはジェントリクラスのドラゴンがラキラを己のドラゴンライダーにするってこと。ジェントリらはラキラがジンシェンに乗っているのを知っている』
考えもしなかった。ラキラは世界樹の大樹と同等だ。もしかして、ジェトリの世界樹より大きいかもしれない。より大きい世界樹を目指すのはドラゴンの本能だと言った。しかも、ドラゴンライダーを手に入れれば行動の制限も無くなる。ジェトリ同士の戦争ともなればラキラを奪ったそいつは俄然有利。
『ラキラをドラゴンライダーにするとは聞こえがいい。だが、領地を持つ賢いドラゴンらはプライドが高い。人を虫けら同然に思っている。ラキラを己の背中に結びつけておけばいいっていう程度にしか考えないのさ。少なくとも竜王がいる内はいい。ラキラは竜王のお気に入り。誰も手だしができない。だが、竜王がいなくなればどうだ。もし、ラキラの身に危険が及ぶのなら、僕たち十二の主は黙ってはいない。僕らはラキラを守り抜くつもりだ』
ヤールングローヴィは甲羅を閉じた。まん丸い球となって、すっーと滑るようにして世界樹に向けて飛んで行った。
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