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第111話 創造者

『分かったよ。やっぱりだ』


え? もう分かったのか。一分も経ってないぞ。しかも、やっぱりって。本当に見当がついていたんだ。どうりでラキラも俺を呼びに来るはずだ。


『な、なにをしている、キース・バージヴァルは』


『なにって、なにも』


『なにも?』


『彼はもう自我を失っているようだよ。生命の海に漂っている。まだ辛うじて魂の形は保っているけど、コップの中で崩れていく角砂糖のように生命の海に溶け込んでいっている。完全に同化してしまうのはもう時間の問題だな』


『生命の海………』


『そう。別次元のどこか。行き先は幾つもあって彼の行った先は相当濁っているね。あそこじゃぁなかなか転生出来ないわ』


『死んだってことか』


『まぁ、平たく言えばね』


マジか! キース・バージヴァルが死んだ!


死ぬべくして死んだ。同情の余地はなくはない。むしろ、本人にとってこれで良かったのではないか。王国の民にとってもいい知らせだ。キースはもう帰って来ることさえ叶わないのだ。シルヴィア・ロザンだったか、あの子も金輪際、面倒に巻き込まれることはない。


なにより、あん里紗りさだ。どんなつらい目に会わされているかと心配したが、これで一安心だ。二人はキースのキの字すら知らない。ホッとするぜ。普通に生活出来ている。


ただし、俺なしでだ。


向こうの世界で俺はどうなっちまってんだ? 俺に対してぬしは、死人が生きていると言った。死人が歩いて喋っているんだから、気味が悪いと言われるのは理解できる。だが、当事者の俺はどうだ。今さらながら鳥肌が立つぜ。見ている以上に中にいる方はもっと気味が悪いし、気持ち悪いんだ。


俺は大聖堂で、キース・バージヴァルのお別れ会の最中に目を覚ました。あの時まさしく俺は死体に無理やり突っ込まれた。じゃぁ、引っこ抜かれた方の俺の体は。


『俺の本当の体、神楽仁はどうなっている』


俺の仮説ではキースと俺とで中身だけが入れ替わった。それが間違いでキースが死んだとなれば、俺の体の中身は空っぽってことになる。それは一般的に言うところの、“死”だ。


『その質問に答えるのは無理だね。君は│誰か《・・》に召喚されたんだろ。魂の残り香もなにもあったもんじゃない』


終わった。


訊くまでもないことは分かっている。俺は十中八九、死んだと思われ、荼毘にせられた。俺の体はもう無いのかもしれない。


『そうがっかりするなよ。魂が抜けたからって死んだわけじゃぁない。そんなこと、世の中にはごまんとあるさ。何も見えず、何も喋れないけど心臓はちゃんと元気に動いている。君を大事に思っている家族がいるのなら、ちゃんと看病してくれているさ』


慰めか。慰めなんていらない。


『だから、大丈夫だっつぅの。家族っていうのは普通そういうもんだろ』


普通って。普通が何か分からない。得意の霊感とか知識とかでなく、誰でも理解できる常識ってことか。ばかにするな。


いや、問題はそこじゃぁない。俺の心臓は本当にちゃんと動いているかってことだ。百歩譲って意識がなく、寝たきりってぇのは魂がどっかに行った状態ってことなのか。そんなこと、聞いたことがない。


里の主、ヤールングローヴィはドラゴン語でため息をついた。


『やっぱりな。めんどくさいことになったわ』


キースが死んだとされる理屈は、まぁまぁ理解出来る。俺の方はまるっきりだ。誤魔化しているとも言える。


俺がやる気をなくしたら困るのはローラムの竜王だ。こいつらぐるになって俺を騙し、とことん利用しようとしているのかもしれない。本当は俺に帰るところがないのに。


いらだちで一杯だった胸の内に、虚しさがじりじりと侵食して行くのが分かった。無数の蛍が俺の周りを舞っている。静かだった。何も聞こえてこない。ただ、ぼやぁっと飛び交う蛍の灯りが目に入っていた。


『元気出せよ。殺されたわけでもなし、魂が抜かれただけじゃないか。何度も言うが、体は何ともない』


聞きたくない。全身から力は抜け、考える気力さえ起きない。俺は利用された揚句、この世界に朽ち果てる。何をやろうとも虚しいだけ。


「キース。あなたには待っている人が居る」


ラキラが俺の手を握っていた。暖かかった。涙で潤んだ瞳も俺をしっかりと見据えている。俺はその瞳にグッと吸い込まれるような感覚を覚えた。


俺はどうかしちまったか。


俺には待っている人が居る。これは間違いのない事実だ。それで十分。俺には戦う理由がある。そうやってずっと生き抜いて来たんじゃないのか。


ありがとう、ラキラ。俺はヤールングローヴィを信じる。もちろん、あん里紗りさも。


『へへ。いい心がけだ』


は? さっきからこいつ。俺の心を読んでいるのか?


『戸惑うな。これからが本題だ。気持ちを切り替えてしゃきっとしろ。ホントはこの話をするために君を呼んだからな。ラキラに感謝しろよ。君をその体に突っ込んだ張本人、そいつはおそらく創造者』


創造者? ローラムの竜王が言っていた。計り知れない力が俺に働いたのだと。


創造者というからにはこの世界の成り立ちに何らかの形で係わったのだろう。そいつは俺の体から精神だけを引っこ抜き、死んだキース・バージヴァルの体に突っ込んだ。初めは入れ替わったと思ったが、大間違いだった。


『そいつは今どこにいる』


『わからない。竜王が生まれた時にこの世界から姿を消したと。巷ではそう囁かれている』


『わからないィ?』


そこまで言っといてか。しかも、情報源はちまた? 信じられねぇぜ。ドラゴンの都市伝説みたいなものか。俺の心臓が動いているといい、創造者といい、また曖昧な事を。



「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


「今後どうなるの!」


と思ったら☆、ブクマ、コメント、応援して頂けると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。


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